熊野古道で探る歴史と向き合う街とは、癒しの風景とは
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保護の人的しくみについて

 

行政

 今まで見てきた所を本当はもっと丁寧に掘り起こして調査していきたいのですが、 なかなかそうもいきません。 例えば、 縦割り行政の問題がそうです。

 今回の世界遺産登録は三県をまたがるというしんどさに加え、 登録が文化庁(教育委員会)と環境省系の作業になったのですが、 それらと産業系(森林、 農業)や建設系との連絡が自治体レベルでできていないことがありました。

 今回の世界遺産は道や川が対象になっているのに、 それらを管理している省庁との縁が切れていると感じました。 私はたまたま、 県レベルで、 文化遺産、 自然環境、 都市計画、 河川の全部に関わっていたので、 それらの情報を必死につないでいったのですが、 頭が変になりそうな数年間でした。

 それぞれの部署の人が、 ここはどうなるんだろうと担当部署に一言問い合わせればすむ話でも、 聞こうとする態度というか習慣がが最初からないんです。 それが一番怖いことだと思いました。

 もうひとつ心配なのは、 市町村レベルの行政の力です。 特に登録が決まってからの数週間の雰囲気を見ていると、 議員さんや町長さんが見識のないことをおっしゃる例もあったりします。

 行政の仕事のやり方を見ていて、 これは変だと思ったのが白浜町・富田の例です。 ここにも古いお寺があり熊野古道につながっているのですが、 あまり古くない道なのでコア・ゾーンではありません。 でも地元には富田坂倶楽部という語り部グループもおり、 熱心に活動されています。

 ただ富田の集落は熊野古道を歩く人が必ず通るところなので、 ここの景観を考えようと国交省がワークショップを提案してきたんです。 これ自体は大変いいことなんです。 ただ、 この作業を始めるに当たって、 世界遺産に関連するなら教育委員会の人脈を生かして地元の情報を集めるべきなのに、 近畿地方整備局ルートで情報を集めて、 挙げ句「地元のまちづくり活動団体がわからない、 見つからない」と仰ったんです。

 それを聞いたとき、 私は公衆の面前で怒ってしまったのですが、 自分の系統のルートで探してわからなければ、 地元団体がないと思ってしまう、 これが一番恐ろしい。 怒ったのは、 本当に不安になったからです。 もっとも怒ってばかりじゃ仕方ないので、 いろいろと紹介して作業を進めました。

 とは言え、 国交省は富田ではいい仕事をして下さいました。 実際には2回のワークショップをしただけですが、 地元の人がいろいろなルートを歩いて、 まだいいものが沢山残っているという「思い入れMAP」を作成することができました。 言わば集落点検調査です。

 ですから行政の方はいいモチベーションで、 いい仕事をやろうとして下さるのですが、 そのアプローチが縦割り行政を超えられていない。 それが心配です。


地元コミュニティ

 では地元の人はどうかと言いますと、 すごい人材が多いです。 南方熊楠の系譜は生きているなと思うほど、 見識も高く心強く思える人材が多いです。 過疎の地域が多く、 第一次産業もしんどいご時世なのに、 何とかこれまで頑張ってきた集落があるのは、 地元がしっかりしているからなんです。 ただ、 今後心配なことは、 人口が少ないですから、 多くの負担が少人数の方々に集中してしまうことです。

 景観保護については、 見識の高い人が多いので、 これだけ厳しい状況で生業を続けながら遺産を守ってきた人びとに感謝しながら一緒にやっていくべきだと思います。

 そんな地元の方々が力を入れているのが、 以前からやっている「語り部」制度です。 昔のことをよく知っている地元の方々が、 (有償または無償の)ボランティアで語り部をやってくれる制度です。 ホームページを見ると、 どこに申し込みをすればいいのかも分かります。 これも特定の人に集中しないように人材を増やしたり、 手話や英語のできる語り部さんも養成しようと、 今大変頑張っています。

 ○熊野古道の語り部のHP
 中辺路町の「漂探古道(ひょうたんこどう)」はハウジング&コミュニティ財団の助成を受けたこともある有償ボランティアのグループで、 こうした活動の代表的な方々です。

 ○漂探古道のHP


研究者・専門家

 最後に景観保護に携わる人的しくみの中での専門家の存在についてですが、 私は彼らにも文句を言いたいところがあります。 本当に腰を据えて真摯につきあっている人が何人いるでしょうか。

 先ほども言ったようにデザインサーベイなどの基礎調査が抜けているところが沢山あります。 至急やらねばならない仕事は山積みです。 学生さん方のフィールド調査の対象にしていただきたいと切に願っています。

 なのに「遠いから」の一言で研究に来ない専門家が沢山いるんです。 これはもったいないです。 濱田先生もおっしゃってましたように、 今まで脚光を浴びなかったがために埋もれている状態、 隠れている状態になっているものが多いのです。

 もちろん昔ながらの町並みがそのまま残っているところはほとんどなく、 老朽化していたり、 アーケード等の余計なものが付いていたり、 マイナーな変化が重なっている状態で残っているのですが、 面影はあるんですね。 ですから、 本来の姿を見抜ける専門家の方にぜひ丁寧な調査をやっていただきたい。

 有名な先生が表面的な調査だけやって低い評価しかしなかったこともあります。 後にそこはものすごい人気が出て、 今では皆が「いいねえ」と言ってくれる、 そんな例もあるんです。

 たまにそういう雑なやり方をする先生もいるので、 そんなんはやめて下さいとここでお願いしておきます。 便乗するような、 美味しいところだけを大口で食べて帰るだけの「通過観光客型研究」は害悪なのです。

 再び伏拝地区の例を挙げますと、 某モデル事業計画で示された程度では地域資源の密度が低すぎるんです。 白紙の部分も「ここにもまだまだあるぞ」と力を込めてやってくださる人がいないと見つからないものが沢山ありますので、 ぜひデザインサーベイをやって下さるようお願いします。

 大学にいる研究者はぜひそうするべきだと、 特にそう思います。

 ここで、 なぜそれをやらないと失敗してしまうのかという話をします。

 伏拝地区は休耕田がいっぱいあるのですが、 そこに安易に干し柿のある風景やレンゲ畑を提案したりしています。 かつて伏拝に、 干し柿やレンゲの履歴はあるのかどうか、 デザインサーベイをちゃんとやったのか?私たちが伏拝の古老9名に聞き取りをした範囲では、 椿や松や桑の話は出てきましたが、 柿やレンゲは聞いていません。 でも、 このように具体的に提案があると、 「こういう風にしなければならない」というプレッシャーを地元に与えかねません。 だから、 提案は非常に慎重にしていかねばならない。

 また本宮大社前では国道の拡幅があって、 セットバックした空間をどうするかの話がありました。 このモデル事業では歴史に配慮して瓦屋根が続く町並みの絵を描いて下さいました。 それはそれでいいのですが、 本当は本来の町並みのことまで配慮した絵を描くべきなんです。

 この場所は国道と平行する古いルートを通ると古い石垣が残っていて、 特別の地名が付いいる場所もあったり、 所々特色のある民家が並んでいたりします。 そのことも合わせて取り上げていただきたい。 そうしないと取り上げられなかったほうが将来つぶれていく可能性があるんですよ。 そうした視点が抜けているのが、 私にとってはハハラドキドキするところです。

 あるいはビジターセンターを作りましょうといって、 なんだか神社風な絵を描いておられる。 ビジターセンターを作るなら、 地元にある例えば、 使われていない良い感じの旅館など、 地元の資源を活用することをベースに、 資源を手直して使用するような提案をして下されば本当にいいと思うのですが。


すべては文化的景観だという視点をもて

 要は今まで話したことは、 すべて文化的遺産なんです。 そこに神域があれば人々がどのように信仰し守ってきたかに意味があり、 杉林があれば何故その場所にあるのか、 どういう使われ方をしてきたかに意味があり、 それらは全て文化的景観なんです。

 みなさんにはデザインサーベイをきっちりやって、 そうした事象を拾っていかないと魅力が半減してしまうことをぜひいろんな場所で強調していただきたいと思います。 ものすごく古い時代に遡るのは難しいことですが、 古老にヒアリングするだけでも「昔は杉皮葺き屋根だったのがスレート屋根になり、 緩い傾斜の瓦屋根になった」という景観変遷の話が出てきます。 今だったら元気な古老も多いので、 まだまだ調べることが出来ます。

 しかし、 これだけ広い範囲ですととてもカバーし切れませんので、 一緒に調べる仲間が欲しいとすごく思います。

 秋に行われるJUDIフォーラムはわずか二日ですが、 それでも地元のみなさんが案外気づかれてないことが集落や街の中にいっぱいあると思います。 みなさんの視点で地元の人が気づきにくい特徴や地域性を発見し、 またはどうやったら見出せるかを主眼に、 地域の人と交流していただければ本当にありがたいです。 そういう視点が抜けがちなので、 みなさんのプロフェッショナルな目にぜひ期待したいと思います。

 個人的な要望をいっぱいしゃべって申し訳ございませんでしたが、 私の話は以上です。

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