台湾の参加型まちづくりと震災復興について
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台湾の参加型まちづくり「社区営造」

 

台湾でいう「参加型まちづくり」とは

 台湾では参加型まちづくりという意味の言葉は大きく二つに分けられます。

 一つは広義の意味をもつ「社区総体営造」「社区営造」という言葉です。

 もう一つは、主に環境に関するものを住民参加で行うという意味の「居民参与的環境営造」「参与式社区環境改造」「参与式(環境)規画・設計」という言葉です。これは空間のことにかぎり、比較的狭義の意味をもつ言葉です。その他、コミュニティディベロプメントという意味の「社区発展」、コミュニティアーキテクチュアという意味の「社区建築」などの用語もあります。

 このように、様々な言葉が参加型まちづくりという意味で使われていますが、現在は主に「社区営造」が使われています。


社区営造が始まった背景

 日本の参加型まちづくりは、環境問題や農村部の村おこしなどから始まりましたが、台湾の社区営造の始まりには、社会・政治・経済的な背景が大きく影響しています。

 第二次世界大戦後、国民党政府が中央集権的、保守的な体制を敷き、台湾の文化や地方性を抑えてきました。戦後30年を経て、民主化や社会・文化の開放が進む中で、「台湾の言葉を話してはいけない」「学校では全て北京語を使う」というような政策に対する反発や台湾の郷土文化の尊重などの反中央集権的な風潮が生じてきました。このような民主化や社会・文化の開放の一環として参加型まちづくりの考え方も生まれてきました。

 もちろん、日本と同様に、1960〜1970年代の公害の発生や環境汚染に対して、地方の方々が反公害運動や反環境悪化運動を始めたという背景もあります。

 最後に、我々、建築家や都市計画家が過去の専門家の経験や専門知識のみで、建築やまちを設計、計画することに対する反省もあると思います。


社区営造の発展経緯

 社区営造の発展経緯を概観すると次のようになります。

 社区営造は1970年代から始まりました。1970年代前期には、前述したような文化的な側面からの運動が始まり、1980年代後半にこの運動は最盛期を迎えました。政治の民主化も進み、野党が出てきました。そのような中で、1994年に、日本の文化庁にあたる行政院文化建設委員会が「社区総体営造」という政策を出しました。その後は、他の政府関係機関も類似な政策を出しました。

 大きな転換点になったのは1999年の集集大地震でした。集集大地震以前の社区営造は、主に都市部を対象としたものでした。しかし、集集大地震以降、これまで住民主体を考えてこなかった農村部に参加型まちづくりが導入されていきました。

 その後は、農村部での経験を生かしながら関連制度や手法も変わってきました。そして、2003年のSARS発生に伴い、衛生問題も取り上げられ、住民参加による健康まちづくりといった新たなテーマも取り入れられるようになりました。

 以上のように、台湾の社区営造は早期には政府、行政、専門家が中心に進めてきた施策であると言えますが、後期になって、住民が中心に行うことが徐々に出てきています。


社区(総体)営造の理念

 1994年に行政院文化建設委員会が「社区総体営造」という政策を出しましたが、その後、ほかの政府機関や民間でも類似の政策、活動が行なわれていたため、それらを総括的に「社区営造」と呼んでいます。現在では、さらに簡略化して「社造」という言葉も用いられています。社区総体営造と社区営造は似ていますが、前者は文化建設委員会の政策を指しているため文化的側面が強く、後者は参加型まちづくり全体を指しているという点で異なっています。

 「社区」は、コミュニティの訳語であり、「ある地域の中に、その地域に対するアイデンティティや共同意識を持っている住民たちが構成した共同体」という意味があります。そのため、空間のサイズは決められていません。要するに、一つの小さなまちも大都市も共に社区と考えられますし、地球も一つの大きな社区と考えることができるのです。また、機能による社区もあり、JUDIのような組織も社区と考えることができます。この弾力的な理念から、当時、文化建設委員会副主任委員であった陳其南氏は「社区は一つの生活方式、一つの地域の生活形態と価値観である」「社区は文化の総体表現である」とも定義しています。

 「営造」は以前から建物や空間を建設する意味として使われている言葉ですが、社区総体営造という言葉を考えた時には、ソフトウェアを「営」、ハードウェアを「造」という言葉で表しました。つまり、社区総体営造とは、社区の共同意識や組織づくりなどソフトウェアの「経営」、公共空間や施設、住宅などハードウェアの「建設」、さらに社区未来の「創造」などを合わせて指す言葉として用いられたのです。

 文化建設委員会の公式な説明では、「社区共同体の存在と意識を前提と目標にし、社区住民のパブリックアフェア(公益事業)への参加、コミュニティ意識強化、そして社区の自主的な力により、各社区や地方の文化特徴を形成するとともに環境美化、生活の質のレベルアップ、文化産業の活性化などを通じて、社区の活力を再現する」(文化建設委員会、1996)、「社区総体営造は空間プランナーの自己反省、住民達が相互対話、意見調整、組織づくり、パブリックアフェアへの参加などを学習する機会である。また、一種の民主化、そして自主、自立、自律の学習プロセスである」(陳亮全、1996)ともしています。このように、住民が公的な事柄に参加し、自分の社区に対する意識の強化や、文化・環境・生活・産業のレベルアップにつなげることが社区総体営造の一つの考え方となっています。

 また、この考えは、陳其南氏の「社区総体営造は一つの新しい社会、新しい文化そして新しい人間をつくることである。社区総体営造の仕事の本質は人づくりと言える」という考え方にもつながります。


社区(総体)営造の特徴

 台湾の社区総体営造には、大きく六つの特徴があります。

 一つ目は、広い定義及び内容をもち、生活・文化に関わるものは全て対象となることです。二つ目は、自発性、自主性が重視されており、それが一つの目標にもなっていることです。そのためにも三つ目の特徴としての、参加や対話、協力、学習などが必要とされています。

 四つ目は、台湾には様々な種族や少数民族がいる、また異なる地域があるため、それぞれの特性を重視することです。五つ目は、実践的にやっていかなければならないため、実践的プロセスを踏まえているということです。六つ目は、革新的な社会運動の性格を有しており、社会正義や環境正義と公平性を重視していることです。


社区営造のもう一つの源流

 社区営造には、大きく二つ主な流れがあります。

 一つは、今まで説明したきた社区意識や組織づくり、地域の文化や歴史などのソフトウェアを重視する社区総体営造です。

 もう一つは、ハードウェアやフィジカル環境を重視する社区環境営造の流れです。社区環境営造は、以前は都市部で主に行われていました。例えば、台北市では社区営造の始まった翌年に、社区環境改造計画を打ち出し、住民参加で環境を改善・整備していこうという動きがありました。


推進の仕組みと手法

 社区営造を推進していくための主な仕組みや手法を整理すると以下のようになります。

 仕組みとしては大きく五つに分けられます。一つ目は、社区営造の仕事を助成することやそれに関わる様々な制度を策定していくという制度の仕組みです。二つ目は、社区営造を推進していくための組織づくりの仕組みです。三つ目は、社区営造では違う分野の人達が一緒に仕事をしなければならないため、それぞれを調整していくための仕組みです。四つ目は、住民が自分で進めていくことが大切なのですが、実際進めて行く時には、色々な指導を受けなければなりません。そのために、支援する専門家が関わる仕組み、また、先輩的な社区が、新しく取り組もうとしている社区を支援する仕組みです。五つ目は、住民間の合意形成の仕組みです。

 手法については、台湾は日本から多くの手法を学びました。例えばワークショップがそその一つです。また、台湾ではよくイベントの開催を手法としています。台湾の人は、真面目に黙々と考えるよりも騒いでやろうという気質があります。中身はあまりないかもしれませんが、楽しくやっていくことが大事です。また、情報交換や宣伝の手法、計画づくりの手法なども重視されてきましたし、台湾独自の手法もいくつか開発されてきました。


まとめ〜社区造営の六つのポイント

 これまで検討してきたことを整理すると以下のようになります。

 一つ目は、台湾では参加型まちづくりを比較的広義に定義しています。

 二つ目は、過去には実際の経験がなかったため、先に理論・理念をまとめて、各論に入っていったという感じがします。また、当初は、制度や手法の多くを日本などの外国からもってきましたが、最近は台湾も経験を積んできたため、台湾的な制度や手法もできてきました。

 三つ目は、社区意識や住民主体が大切であるということが強調されており、由下而上(ボトムアップ)方式という言葉が良く使われています。

 四つ目は、1994年からの短期間でやってきたため、間違いも多く、試行錯誤という状況でした。また、この数年間、台湾社会の変化は激しく、特に政治的、経済的変化が激しかったため、今までの経験では追いつかない面も出てきています。

 五つ目は、最初には行政や専門家が社区営造を推進し、行政が多くの助成金を投入してきたことです。そのため、本当の住民主体のまちづくりにはほど遠いということです。しかし、ここ2〜3年間は、住民型の試みがいくつか見られるようになってきました。また、以前は何かやるときは政府が対象を決めて、主導することが多かったのですが、現在は申し込み型助成制度がとられるようになっています。ようは社区営造を行いたい社区が申し込み、審査され、審査に通れば助成が受けられるという形です。しかし、ちょっと残念なのはこのような補助制度はありますが、それを利用して住民参加のかたちでまちの将来計画をつくっても、それを都市計画へつなげるには至っていない状況です。

 六つ目は、台湾で使いやすい手法、台湾の人々に馴染む手法がまだ少ないということです。まちづくりに関する手法や道具、社区の状況や需要に合ったサポーティングシステムをより強化していく必要があると思います。

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