明日香村の歴史的風土の推移とこれからの展開
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法規制と土地利用からみた5つの類型

 

 

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埋蔵文化財の分布と法規制
 
 明日香村の法規制状況を見ますと、全体が特別保存地区であり、その中でも第1種特別保存地区(以下、歴風1種)と第2種特別保存地区(以下、歴風2種)に分かれています。

 さらに古都法を実態的にコントロールしするために風致地区が重複して指定されています。歴風1種は第1種風致地区(以下、風致1種)、歴風2種は風致2種と風致3種に分かれます。

 埋蔵文化財包蔵地が明日村の中心部に点在しており、一方村域の北端が藤原京の条里と想定されています。

 

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法規制と土地利用
 
 法規制と土地利用がどのように関係しているかをみてみますと、第1種特別保存地区(風致1種でもある)には市街地はなく、ほとんどが農地になっています。

 それから歴風2種+風致2種では、市街地が一部含まれているものの、ほとんどが人工林です。

 歴風2種+風致3種も、そのほとんどが森林です。

 

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法規制と土地利用からみた5つの類型
 
 そこで、これらを土地利用別に「1種田園区域」「自然林区域」「人工林区域」「2種田園区域」「水面区域」の5つに類型化してみました。

 これから、これら5つのタイプ別に各区域の代表的な風景をご紹介しながら、それぞれの現状と課題を私なりに整理してご紹介したいと思います。


1。第1種田園区域

 
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大官大寺跡(広がる農地が古都の風情を想像させる)
 
 「第1種田園区域」はほとんどが農地です。

 これは大官大寺跡ですが、現在は石碑と説明板があるだけです。大部分はきちんと耕作されていますが、一部は放棄されて草原になっています。

 風景に広がりがあるという意味では、かつてここでどういう営みがなされていたのだろうかと想像させることはできますが、眼前にそれらを見ることはできません。

 
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川原寺跡(草地の下に史跡が眠る)
 
 川原寺です。実はその手前に昔の川原寺の基壇の一部が遺跡として残っています。あとは草地になっています。ですからこの草地の下に史跡が眠っているというわけです。

 
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橘寺周辺(全面の彼岸花が美しい秋の景観)
 
 橘寺です。横から見ると段状に田んぼがあって、秋の季節には畔のところに彼岸花が美しく咲きます。

 
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買入れ地の花園づくり事業(春の景観)
 
 先ほども言いましたが、損失補償で買い入れられた農地が休耕田になって荒廃するのを防ぐため、花園づくり事業を実施されています。村民に委託して、春に菜の花を植えたり、秋にはコスモスを植えたりしています。明日香村に訪れる観光客の方々はこういった農地景観を見にきていると言えるかもしれません。

 
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田園地域の歴史的風土を構成している水田
 
 このような景観づくりも進められている一方で、田植えがなされそれが育ち、稲刈りをする風景が見られるのが、第1種田園区域の空間、景観の特徴です。

 ただ、ここにも課題はあります。

 一つは、高齢化によって農業の主体となる人がいなくなってきているなかで、このような田園景観をいかに維持するのかという点です。

 また、行為申請が不許可になったものの買入れが進まず、休耕田が拡大しています。また、先ほどの花園づくり事業が実施されている場所もあり、農家が普通に水田耕作している所もあり、と様々な維持管理の主体があり管理手法が錯綜しています。その結果として景観にもモザイク状の部分が出来てきています。


2。自然林区域

 
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自然林区域(出典:明日香村村史)
 
 次は「自然林区域」です。明日香村では古墳などに自然林が残されています。

 高松塚古墳の場合は、村史によると発掘されたときに元々は自然林が生い茂っていたものが全部伐採されたといいます。

 
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天武・持統天皇陵の景観
 
 天武・持統陵には自然林が残っています。周りは果樹園になっています。

 
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飛鳥坐神社の社寺林
 
 それから飛鳥集落の一番のアイポイントに飛鳥坐(います)神社の社寺林があります。

 
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甘樫丘の景観(国営公園甘樫丘地区)
 
 飛鳥集落から西側に見える甘樫丘も春はサクラが美しいところです。。

 
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雷丘の景観(放置により荒廃する森林)
 
 もう一つ雷丘(いかづちのおか)という小丘陵がありますが、ほとんど手入れされておらず荒廃しています。

 こういった謂われのあるところに自然林が残っているわけですが課題があります。自然林は墳墓林や社叢林(しゃそうりん)、あるいは一部の山頂、山麓部ですが、様々な維持管理が必要であるのに放置が進んでいます。

 自然林は、この歴史的風土の中の四季を彩る重要な要素ですから、積極的な保全策が必要です。これを誰が担っていくのかが大きな課題になっています。


3。人工林区域

 
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台風の影響による倒木処理が進まない人工林
 
 次は同じく森林ですが、圧倒的面積を占める「人工林区域」です。

 3年ほど前の台風で奈良県各地はかなり大きな被害を受けていますが、風倒木が放置されたままになっています。

 また間伐ができないので、全体に暗い雰囲気でなかなか鬱陶しい感じです。

 
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ボランティアによって間伐されたスギ林
 
 ただ飛鳥川上流ではボランティアの皆さんが間伐に参加して森林管理にあたっている地域も見られます。

 人工林区域の課題は、まず木材価格の低迷や高齢化によってなかなか管理ができないということです。村では「万葉の田園の再生」をテーマに広葉樹への転換を構想していますが、その実現は難しいようです。

 また、歴史的風土の保存のためには、風土の大部分を占めているこうした森林の維持管理をどのようにしていくのかが重要ですし、先述のボランティアによる協働管理の推進も課題になりつつあります。


4。第2種田園区域

 次の第2種田園区域では、もう少しいろんな活動を見ることができます。

 
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棚田オーナー制度が展開する稲渕
 
 稲渕という棚田百選に選ばれている集落ではオーナー制度が取り入れられています。棚田オーナー制度は現在ではいろんな所で進められていますが、ここではかなり初期に制度が進展しました。

 
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奥飛鳥・栢森の集落景観
 
 また奥地にある栢森(かやのもり)集落の景観です。どっしりした民家とその周りに美しい田園景観が広がっています。

 
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うまし酒オーナーによる田植え景観(阪田)
 
 阪田という集落では「うまし酒オーナー」制度が進められ、オーナーが酒米を生産してそれを酒にして楽しむといった動きがみられます。

 
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耕作放棄地が拡大する農地
 
 このような活動の一方で、耕作放棄地が拡大していて葛が生い茂って荒れ地になっている所もあります。

 
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資材置き場となっている道路沿いの農地
 
 特に道路沿いでは資材置き場になっている所も見られます。

 第2種田園地域では、まずは耕作放棄地の景観再生が大きな課題です。続いて、その景観阻害要因の除去や、あるいは景観改善策といった問題があります。

 オーナー制も進めるためにも、買入れられた土地を積極的な活用していくことも考えられます。


5。水辺区域

 最後は「水辺区域」です。

 
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護岸整備が進む飛鳥川下流域
 
 飛鳥川は万葉集にも歌われた美しい川です。大きな川だと思われているのですが、実は中流域でも水路と言ってもいいような河川です。

 この飛鳥川では現在、人工的な河川整備が進められている区間もあります。ある場所には自然石が残っていたりするのですが、そのすぐ横は「固い」コンクリート護岸による河川整備が進んでいたりします。

 これからは公共事業の景観形成について検討すべきではないかと思われます。

 
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水辺景観が保全されている飛鳥川上流域
 
 なお上流域は大きな岩がごろごろとした自然なままの水辺景観が保全されています。河川敷の石をボランティアの方々が一つずつ叩きこんで、散策できるような道をつくる活動もしています。

 ところが現在この飛鳥川の河川改修の計画があり、今後川沿いの風景が大きく変わっていくと思われます。

 
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和田池周辺(開発が進む橿原市周辺地域)
 
 また水辺景観の1つのため池がありますが、明日香村には和田池という大きな池があります。それ以外にも中小のため池があります。

 甘樫丘から和田池の見える橿原市側の景観を見ると、開発が進んでいる中、明日香村の方は風土景観がよく残されていて、古都法による保全が一定の効果を果たしている事がわかります。

 このような水辺景観の保全について、今後どうしていくのかという課題があります。

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