ニュータウンの持続可能なマネジメントの展望
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千里ニュータウンにおける住民の住環境保全活動

 

住環境問題発生の時期と場所

 さて、第3章の住民による住環境保全活動です。私がこれに着目したのは、千里ニュータウンでは、一般の街よりも反対運動が多いと思ったのがきっかけでした。反対運動自体は悪くないのですが、どうしてこんなに多いのか、問題が多いのかと思い、住民がどんな活動をしてきたのか調べてみることにしました。

 その方法ですが、磯野新さんとそのお父さんが二代にわたって、過去40数年間発行してこられた「千里タイムズ」という地域情報紙があります。その40数年間の記事の中から、住環境に関わる内容を抽出して分析しようと考えました。実はこれが大変な作業で、厚さ2メートルにもなる膨大な縮刷版の記事に全部目を通したものの、それをいちいちテキスト化するのが至難の業でした。

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住環境問題発生場所の分布
 
 主な住環境に関わる反対運動を36件ピックアップしてまとめました。住環境問題発生場所の分布を見ますと、戸建住宅地の周り、緑地の周り、それから地区センターの周りで発生しています。一方、集合住宅地の周りには意外に少ないことがわかりました。

 問題の発生時期については、千里ニュータウン建設当初の20年間は主に“建物の建設に関わる問題”が主でしたが、その後の20年間では“建物の更新に関わる問題”が見受けられます。


反対運動の要求の充足・非充足

 次にこれら36件の住環境問題について、それぞれ住民側の要求が満足されたかどうかの判定をしました。住民の要求が受け入れられた場合を「充足」、受け入れられなかった場合を「非充足」としました。

 まず「充足」の事例ですが、これは千里ニュータウン内では有名な話ですが、千里ニュータウンの建設初期に高野台における「ゴミ焼却場建設への反対運動」がありました。戸建住宅地に隣接する緑地にゴミ焼却場を建設するという、かなり無謀な計画だったこともあり、建設場所が万博公園の隣接地へと変更されるという形で住民の要求は「充足」され、収束しました。

 それから緑地内でのマンション建設問題もありました。これは都市計画緑地だったところを府が地権者(土地提供者)への代替え用地として提供したのですが、地権者がその土地を民間企業へ売却し、民間企業がそこにマンションを建てようとしたので、住民が反対したという経過がありました。これも吹田市が買い上げ、その土地に中学校を建設することで解決し、住民の要求は「充足」されました。

 「充足」の事例は、あまりにも住環境が急激に変化するために、それを住民がとても受け入れられない場合であり、住民の要求がほぼそのまま通るような形で収束しています。

 次に「部分的充足」の例ですが、南千里の地区センターに女子寮を建てようとしたことへの反対運動が起こり、建築面積を約1/2に縮小することにより、すなわち住民の要求が部分的に充足される形で収束しています。

 また戸建住宅地に隣接する藤白台近隣センターの再開発に対する反対運動では、10年間にわたる住民の活動を通じて、階数を下げ、地区計画を導入するなどの方法により、住民の要求が部分的に充足されると言う形で収束しています。

 「非充足」は、全く受け入れられなかったという例です。高野台の住民は、通過交通を防ぐために道路上に杭を設置しましたが、最終的には大阪府の判断で通行止めの杭が撤去されました。

 また、化粧品会社のバラ園が民間に売却されることになり、何とか残したいと思い、あるいは住環境の悪化をおそれた住民は反対運動を展開しましたが、土地が第三者に渡っていたことなどにより、マンションが建ってしまった例もありました。

 それから「判定不能」のものもありました。千里北公園(吹田市)と千里中央公園(豊中市)における陸上競技場の整備問題です。二つの例ともに、施設整備を推進するグループと自然環境保全を唱えるグループがそれぞれ活動しましたが、合意点を見いだすことが出来ないまま、市の計画が撤回されるという形で収束しました。

 ただここで印象的だったのは、両グループが研究や話し合いなどを通じて、対立するグループの異なる考えや価値観を理解できるようになったと言っていることであり、まちづくりを考えていく上での重要なヒントになると感じました。


まとめと考察

 住民がなぜ反対するのか考えてみたのですが、住民にとっては自分の身近な住環境の保全が一番重要です。特に千里ニュータウンは理想的な街をめざして創られたわけですから、その街の計画を変更することは住民には認められない。つまり計画変更の良い悪いにかかわらず、計画を変更すること自体が住民には抵抗があるのです。

 これから住宅の約6割を占める公的賃貸住宅の建て替えが進んでいきます。それは住環境が大規模かつ急激に変化することを意味します。また、住民はこれまで被害者の立場にあったけど、これからは住み続けてきた住宅が建て替わることにより、ある意味で加害者の立場に立つ場合も生じるわけですから、少し状況が変わってくると感じています。

 このようなことから何を導き出したかと言いますと、ありふれているかも知れませんが、問題解決のためには、やはり関係者がじっくり話し合うことが必要だということです。公共施設の整備に関して両者が話し合ってお互いの言い分を理解し合った例があったように、反対も大切ですが、反対と同時に最善や次善の方法を見つけていくことも大事です。

 それから、計画は固定的ではなくて変わる、変わりうるものだということを、住民が理解していくことも必要でしょう。

 そして、これから建替えが本格化する中で特に大切なのは、自分たちの街がこれからどう変わっていくのか、どういう街に育てていくべきなのかを話し合って、大筋の合意を形成しておくことではないでしょうか。

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