「際立たずおさまる」美しさか、「目立つ破調」の美しさか
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人間は環境に相矛盾する質を求める

 

覚醒−非覚醒、快−不快、支配−服従

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(BY 金澤成保)
 
 まず、人間は環境に相矛盾する質を求めるということです。

 環境心理学の様々な研究結果をベースに振り返ってみます。まず、Mehrabianという人のモデルでは、人間が好きな物には近づき、嫌いな物からは離れると言っています。彼はどういった次元で、人は近づこうとしたり、離れようと感じるのかを考えました。

 一つは、覚醒と非覚醒です。覚醒というのは、はっと驚くようなもので、今回のテーマで言えば際立っていて、目を引くものとなります。そして非覚醒は、ぼんやりとして、人間の意識を惹き付けるようなものがないものを指します。

 それから二つめに、快と不快。さらに三つ目は、支配と服従としています。支配とはその場所を自分の思うように使うという意味での支配です。服従は逆に、その場所を使うのに拘束が大きいという意味です。

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覚醒-非覚醒、快-不快の組み合わせ効果の例(BY 金澤成保)
 
 人間は、これらの異なる三つの対立的な次元の中で、それぞれの中間的な状態に惹きつけられるのです。図は覚醒と快−不快の関係を示したグラフです。グラフの縦方向の値が大きいほど、人間は近づこうとし、逆に値が小さいほど離れようとすることを意味しています。覚醒が強いときは人間が惹きつけられるが、あまりにも強すぎると離れようとするのです。

 このMehrabianのモデルからも、人間は相矛盾するものを両方求めているということが分かっていただけると思います。


統一性・分かりやすさ、複雑さ・不思議さ

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KAPLANSの環境選好モデル(BY 金澤成保)
 
 次に、Kaplansが行った、どういった環境を人間は好きになるのかという、実証的な実験結果があります。好きになる環境には4つの要素があり、一つは「統一性」、そして「分かりやすさ」があります。ケヴィン・リンチなどもよく言っていることです。

しかし、それに反するような、「複雑さ」や「不思議さ」というものも同時に求めているのです。分かりやすさだけではなくて、分かりにくいこと、自分の知らないことも求めているのです。

 Kaplansの環境選好モデルによれば、この4つの要因がそれぞれ大きくなればなるほど、環境に対しての好ましさが大きくなるとしています。


複雑さ、目新しさ、不一致、驚き

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BERLYNEの審美性モデル(BY 金澤成保)
 
 そして、Berlyneの「美しさ」に関する調査があります。人間が美しいと感じる要因に、何があるのかを調査したものです。

 「複雑さ」、そして「目新しさ」、「驚き」、それから「不一致」といったそれぞれのレベルで、中程度の刺激が存在する環境を、人間は美しいと感じるということです。それぞれの指標が強くなりすぎると、逆に人間は美しさを感じなくなるのです。


「際立たずおさまる」「目立つ破調」とは

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(BY 金澤成保)
 
 ここまでは環境心理学から得られた知見の主なものを紹介しました。今回のテーマである、「際立たずおさまる」と、「目立つ破調」ということであえてまとめてみます。「際立たずおさまる」ということでは、先ほどのMehrabianの話で言うと、非覚醒的で、比較的わかりやすく、一致・統一的で、意外性のない、なじみやすいものだということになります。

 「目立つ破調」の美しさということを、この三つの環境心理学の研究成果から敢えてまとめてみます。覚醒的、複雑、非統一的で不一致、意外性のある、目新しい、ということになります。

 都市デザインの中で「際立たずおさまる」のが良い、またその逆がよいのか、という議論が延々とされています。私が本日申し上げたいことは、人間というのは相矛盾した要求を持っているということです。


矛盾した要求をゾーニングで

 相矛盾する要求を江戸時代の考え方でみると、「わび(侘)・さび(寂)」と「みやび(雅)」、「イキ(粋)・すき(数寄)」と「ヤボ(野暮)」、「正道」と「カブキ」などがあり、人間がこういったものを求めるということは昔からあることです。

 人間はこうした両方のものを求めています。一般的に、どんな場所でもおさまるデザインをすればよいではなくて、繁華街や盛り場では目立つ破調の美しさが、現実的に存在しています。そのため、そういった方向での大きなゾーニングを考えていくべきではないでしょうか。

 一方、歴史的な景観のある所、文化的景観、自然的景観のある所、住宅専用地区や官庁街、文教地区などは、際だたずおさまる美しさが必要だと考えられています。商業地区は中間的なものから、少し破調の側に向いています。オフィス街なども同様ですが、御堂筋などのような地区では、おさまるのがよいのかもしれません。

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(BY 金澤成保)
 
 図のように、デザイン規制の強さをモデル的にあらわしました。左側にある地区は様々な規制があり、右側のほうに該当する地区は自由度が大きいということです。

 目立つ方がよいのか、おさまる方がよいのか、という二元論的な話ではなくて、人間の環境に対する心理的要求をきちんとベースにして考えると、両方とも何らの形で作り出す必要があるのです。それぞれの場所で好きにやるのではなく、ゾーニングの目的を共有しながら、デザインのあり方を考えていく必要があるのではないでしょうか。

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