「際立たずおさまる」美しさか、「目立つ破調」の美しさか
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景観の意味的構成を共有する枠組

 

都市は意味の体系である

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(BY 金澤成保)
 
 都市は物的な要素や機能の集合であるという考え方は、近代の都市計画の中心となってきたものです。しかし、そこでは人間が歴史的に築き上げてきた意味の体系を忘れてきてしまった、少なくとも軽視してきたのではないでしょうか。スライドには、社会学者たちの、「都市は意味の体系である」という考えをサポートする意見をまとめました。


景観は身体感覚や意味によっても評価される

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景観の三次元評価、「景観用語辞典」彰国社より
 
 景観の捉え方を、大きく三つの次元で簡単に整理したものを紹介します。

 一つは、視覚的評価です。形のことです。

 二つ目は身体感覚評価です。使いやすさや居心地のことです。実は、三角であるとか青であるとか、目に見える形や色だけで、対象を見ているのではないのです。例えば緑を見る場合に、「緑があると木陰があり、涼しい風が吹いて気持ちいいだろう」という気持ちを持って、対象を見ています。人間はデジカメではありませんから、この身体的な感覚を持っています。頭の中で今までの経験や情報などを作り出して、景観を評価しているはずです。このために、工学的な景観分析論には限界があると思っています。

 最後に、地域の個性である歴史性や象徴性などの意味的評価があります。京都の木屋町には、小さな船が通る運河があります。何も知らないとただの飲み屋街ですが、「江戸の初めに作られた」「幕末の頃には勤皇志士が何人も殺された」といった事実を知った途端に、その場所の見方が大きく変わるのです。

 このように人間は三つの次元から景観を考えているのです。景観を形態論や色彩論だけでなく、身体感覚において、また意味的にも把握する必要があるのではないでしょうか。


「都市的文脈」からのアプローチを

 コンテクスチュアリズムという考えは、鳴海先生をはじめとして、いろいろな方が紹介されています。建築や土木構造物を「単語」に例えると、単語を羅列しても意味がないように、一定の相互関係で意味を作り出すことが必要なのです。都市的な文脈を共有する枠組みを考えていくことが必要なのです。その地区の景観、エコロジーの特質、敷地が持つ社会的・歴史的な知見などを考える必要があります。

 景観法の景観地区、景観形成地区、建築・景観協定、地区憲章などに代表される、地区のまちづくりや景観形成の中に、その地区の特異なコンテクストを把握・継承されるような考え方を盛り込んでいけないのでしょうか。

 そしてこのコンテクストをどうやって作っていくのかということですが、行政・専門家のみならずユーザーや住民の参画が必要です。

 それから、大学教育の中で都市デザイン・都市計画は何を教えるべきなのかということです。近代都市計画では、都市の意味や地区のコンテクストを重視してきませんでした。大学教育の中で、地区の都市的文脈、コンテクストを読んだり、記述したりする能力の育成が必要ではないでしょうか。


「都市的文脈」の継承の難しさ

 都市的なコンテクストを継承する上では、いくつか問題点があります。

 一つはコンテクストの理解が主観に頼らざるを得ないものが多く、共有しづらいということです。

 また、コンテクストというのは後ろ向きであることです。土地利用をはじめとして都市は常に変化していくので、コンテクストは過去の継承のみならず、未来に向けた発展も取り込んでいかなければならないでしょう。例えば、「御堂筋はオフィス街だ」と文脈にこだわると、一階にギャラリーや商業店舗を入れていく上での足枷になってしまう可能性があります。未来に向けた発想を入れていかなければならないのです。

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(BY 金澤成保)
 
 そして、コンテクストは直喩よりも隠喩で表現する必要があります。例えば「カエル」という言葉でコンテクストを直接表現するのではなく、「カエルが住む環境」、すなわちカエルが生きる水や空気や四季などを、ランドスケープや建築的にどう表現できるのかが大事なのです。

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