まず一つ目は「大規模建築」です。私が専門としています、鉄筋コンクリート構造の大きな建物、たとえば学校とか大学とかオフィスとかいった建物の被害を紹介したいと思います。
建物被害の概要
大規模建物の被害
建物の被害について二つに分けてお話をしたいと思います。
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これはジョグジャカルタの泊まったホテルから外を見晴らした所で、主に大学の構内だと思います。ここに限らず、ジョグジャカルタは緑が多く、建物の屋根に特徴があり、街全体もこういったイメージです。 これを見て頂いたらわかりますように、低層でも高層でも、いわゆる切り妻型の屋根が乗っています。色も統一されていますし、建物の形としてもすばらしいと思いますが、これが大きな地震被害の一つの大きな原因になったと思われます。
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これから地震被害を見て頂きます。 これはジョグジャカルタ市街にあるスポーツセンターで、RC3階建の建物ですが、周囲は特に被害がなかったにもかかわらず、屋根を支えている柱が内側に倒れ込むような形になり、屋根が落ちて大きな被害がでました。
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地震の起こった時間帯が早朝でしたので、利用者の被害はなかったようです。 なぜ屋根が落ちたかというと、兵庫県南部地震でもあったように、柱頭が梁でつながれておらず独立してポンと立っているものですから、大きく揺れると倒れてしまうわけです。
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経済科学大学の建物です。屋根の所を見てください。日本ですと屋上に鉄筋コンクリートの屋根の床があるわけですが、これは無いんです。鉄骨トラスの屋根を乗せているだけの構造になっています。これが大きな被害を出した要因の一つだと思います。 柱も日本の建物と比べると細いことから、想定地震力も少し小さいかもしれません。
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この建物は、先の建物の横に並んで立っている建物ですが、このような壊滅的な被害も出ています。 建物の側面に横に割れてるような部材が見えますけれども、これは屋根のひさしを支えていた梁です。
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これはRC造3階建の建物です。構造的には別々の建物がエキスパンションジョイントで一つの建物として使われており、その片方のみが壊滅的な被害を受けています。 どうしてこれだけ被害に差が出たかということは、もう少し分析してみないとわかりませんが、模型を見た限りでは、1階部分の壁の有無に関係あるようです。 兵庫県南部地震の場合も、1階に壁が無いピロティ構造の建物が大きな被害を受けたわけですが、こちらの場合もそのような感じです。
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また、この建物についても屋根は先ほど紹介したような乗せただけの構造になっていました。 これは民家についても言えることですが、日本の場合は梁を設けて陸屋根という平らな屋根を作りますが、ここは暑い国で、暖かい空気を全部上の方へ逃がす構造が、このような大きな建物にも採用されているのではないかと思われます。 下階の柱頭を構造的に見てみますと、これも兵庫県南部地震でもよく見られたように、帯筋またはせん断補強筋といった剪断耐力を補強するための鉄筋が入っていませんでした。 もちろん向こうにも耐震基準はありますが、日本でもそうであるように、必ずしもそれが守られていません。
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これは芸術大学です。1階部分が崩壊していますが、これも横に同じような建物があり、そちらは被害がありません。やはり壁の量や配置が影響しているようです。
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日本の1981年以前の旧基準で建てられている建物よりは、鉄筋も帯筋も入っていますが、わが国の現行基準よりは少ないようです。通常は配筋間隔が100とか150mmですから、特に少ないというわけではありません。
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これは煉瓦造ですが、特徴の一つとして、屋根の瓦が桟にちょんちょんとひっかけてあるだけなんです。ですから大きな揺れがありますと、そういった瓦が全部落ちてしまいます。
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これは後で紹介があるかと思いますがアート市場と呼ばれている郊外の土産物展示販売施設です。
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ここは繋ぎ梁と言いますが、柱が立って屋根を支えるだけじゃなくて、ちゃんと柱頭には梁が渡してありますので、大きな被害がありませんでした。
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本当はここに鉄筋(帯筋)がないとダメなわけですが、そういうものが無いところは被害を受けています。
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農村住宅の被害
次に、今日の主要テーマの農村住宅の被害について紹介したいと思います。
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ご存じのように、このあたりは1年に3回お米がとれる3期作をやっています。手で刈り取って、その横ですぐ脱穀をして、袋に詰めてというような感じで農作業が行われています。 私たちが行ったときには地震からもう2ヶ月経っていましたので、被災状況は変わらないものの、人々は落ち着いた生活を取り戻しているようでした。
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この辺りは壊滅的で、だいたい整理はされていましたが、まだこういうような状況もありました。
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甚大な被害を受けた農家 | 古い煉瓦造民家の壁 |
問題なのは、目地を見て頂ければわかるのですが、これはもう土なんです。ほとんど強度はありません。ふつうだったらセメントを使うわけですが、セメントは高価ということで使われず、煉瓦の強度というよりは、その煉瓦を積んでいる目地の強度が非常に弱いということが問題です。
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また先ほど説明したような屋根の瓦、これを見ていただきますと、突起が出ています。この突起を桟にちょっとひっかけるだけなのです。台風がないので、地震さえこなければ問題ありません。日本だったら野地板を張ったり天井を張ったりするわけですが、材料節約のためか、あるいは暑い空気を逃すという意味では合理的な感じもします。
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この辺りは両側を山に囲まれた谷間にあり、水が豊富な所なのでしょうか、各家に井戸があって生活用水を確保しています。 辺りはすでにきれいに整地・整理されていました。また壊れた建物の部材などはリユース、再利用されます。
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それから壊れた建物ばかりの中に、全く被害が無いような建物もあります。どのような違いがあるかと見てみますと、無事だった建物は今推奨しているような柱・梁がちゃんと設けられた構造になっています。こういった事にはやはり経済力も関係しているということでした。
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これは被害を受けた建物の例ですが、柱はあるのですが梁がありません。したがって横に揺れたときにそれを止めることができないので、壁が割れてしまっています。もちろん屋根の瓦は全部落ちてしまっています。
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また反対に、鉄筋コンクリートの柱・梁はあるのですが、壁が全部壊れているものもありました。こういう場合、構造的には躯体と壁を一体にする必要があるわけです。
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これは同じ地域でもほんのわずかな被害ですんだ例です。 通常は棟梁がリードしながら、隣近所あるいは家族や親戚一同で家を建てるという形をとるわけですが、この家はそうではなくプロが建てたものです。そういったものは被害を受けずにすんでいます。
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これは伝統建築です。屋根はまるで帽子のような感じで、煉瓦造ではなく木で屋根も組まれており、すばらしいものです。 こういった建物も残念ながら被害を受けました。
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煉瓦造の被害についてまとめますと、「Un-Reinforced Masonry(URM)」と呼ばれる鉄筋コンクリートの柱・梁のない、要するに古い住宅の被害が甚大でした。一方、柱・梁のある住宅は強いけれども、それが適切に施工されていない場合が問題であると指摘されました。
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ところが、やはりセメントが高価で、どうしてもセメントの量を少なくしてしまうことから強度が出ないわけです。
コンクリートというのは、特に難しい知識がなくてもセメントと砂・砂利と水を混ぜれば一応固まります。しかし、その強度は0に近いものから非常に強いものまで様々です。その辺りが問題となるわけですから、私はやはり専門的な仕様というものが必要なのではないかと思います。
それから、鉄筋についても高価ですから、使われる鉄筋の量も少なくなってしまっています。最初見て頂いたような大規模構造物では日本で使われているような鉄筋が使われていましたが、住宅などではなかなかそういうものが使われていないという状況です。
仮設住宅(竹や合板、テント)
仮設住宅についてはまたお話があるかと思いますが、竹や合板、テントなど様々なタイプのものがありました。その中でもテントの仮設住宅は、現地は気温が35〜36℃はあるわけですから、暑くて居住性が非常に悪いものでした。
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