都市公共交通と環境デザイン
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トータルデザインコンセプト

 

 さて、経緯は以上の通りですが、デザインにあたって、この富山ライトレール、富山港線のコンセプトというのを立てました。

 これは電車そのものの個性もありますが、一番大事なのは、やはりまちづくりのためのシンボルであるということです。富山が持っている北アルプスの山々や海の景観を大事にしていく。

 それから観光です。これについては、かつて北前船の栄えた頃に発展した歴史的町並みが岩瀬浜などにありますし、周辺には運河や閘門があります。

 それからもう一つは先ほども言ったように、ほとんど車でしか移動しないようになってしまった人達の生活パターンを何とか変えられないか、あるいは富山港線と連動して都心居住を推進し、人の行動を変化させることも考えました。

 こういった環境条件を飲み込んだ形での富山港線を創りたいということで、

 「TOYAMA CREATIVE LINE 〜まちづくりと連携して富山の新しい生活価値を創造する〜」

 ということを目標に掲げ、これからご紹介する非常に大きな4つの方針を立てました。


「都市の新しい風景を創る」

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「都市の新しい風景を創る」
 
 この写真ほどきれいな風景にはならないのですが、北アルプスの見える街、それから自動車が一杯で排気ガスが大変な街をどう変えられるか、そういった街の風景というものを、ライトレールが走ることによって変えられないかということが、まず一つです。


「新しい生活行動を創る」

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「新しい生活行動を創る」
 
 それから、車依存の社会から抜け出して、新しい生活行動を創りたいということがあります。

 最初はライトレールだけではなかなか難しいと思いますが、実は富山港線の南側に富山地方鉄道(地鉄)の既存の路面電車が走っております。この路面電車と連携させながら、少しずつライフパターンというものを変えていきたい、老人や障害者も出てこれるようにしたいというのが二つ目です。


「地域の資源を再発見する」

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「地域の資源を再発見する」
 
 それから三つ目は先ほどと少し重複しますが、岩瀬浜の町並みであるとか、お祭りであるとか、閘門であるとか、アルプスであるとか、様々な地域の資産があります。食べ物でも、いわゆる鱒寿司から始まって、富山の薬屋さんなど、実はいろいろな有名なものがあります。

 そういった有名なものを、富山港線を媒介にしてなんとか発信できないかというようなことで、「地域の資産を再発見する」ことを掲げました。


「地域の新たな価値を創る」

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「地域の新たな価値を創る」
 
 そしてこれは今までお話しした3つを統合したようなものなのですが、今まで車でなかったら行けなかった、あるいは街なかに行っても危なっかしい、といったことを全部払拭するような、地域の新しい価値を創れないかということが最後の方針です。


コンセプト具現化のための各要素のデザイン理念

 実はこれが重要だと僕は思ってるのですが、富山ライトレールをつくるためのトータルデザインアイテムとして最低限必要なものが、まずは「車両デザイン」や、電停や橋などの「インフラデザイン」など、いわゆるハードづくりです。

 それから、「サイン計画」と「色彩計画」。この色彩計画は車両の色だけではなくて、いろんな要素の色も全部含めてです。

 また、「広告計画」。先ほども少しラッピングの話が出ましたが、東京都がこれを始めてから今では公共の交通機関にラッピングすることへの罪悪感がほとんど消えています。あれはまずいと思うのですが、反対することは難しいです。というのも、やはりかなりの資金源になるんですね。だったら広告についても最初から計画として取り込んで、ちゃんとデザインコントロールしながら地元のためにもなる方向で広告できないか考えようということで、広告計画というものを立てました。これはまだそんなに上手くは行ってませんが、いくつか試みられました。

 それから「広報計画」です。これは開業前もそうですが、開業してからも重要です。実はコンパクトなまちづくりの目に見えているターゲットは、おおよそ10年毎の北陸新幹線の開業にあわせた路面電車の南北乗り入れ計画です。ところが本当はそれ以降も、公共交通によるまちづくりはずーと続くわけです。そのため常にいろいろなタイミングで広報していくことが、一つのデザイン戦略として必要なのです。

 そして最後にマークや名称など全体のイメージを統合するVI(Visual Identity)計画が重要であります。

 そして、これにはやはり市民と自治体と民間の参加が大事です。参加にはもちろん仕組みも必要ですが、仕組みがあって参加してもらっても、そこから生み出されるものがデザイン的に全体のアイデンティティからずれてしまってはいけないので、それをコントロールする必要があります。

 ですから、市民・自治体・民間の協力をどんなふうに得るかが課題となってきます。特に市民に関してはなかなかまだ難しいのですが、先ほどのベンチドネーションもありますが、僕らの理想を言えば、市民がファンクラブを作ってくれて、富山港線を利用してバザーでも何でもいいからいろいろやってもらいたいと考えていました。そして企業は広告とか、さらに言えばお店を出してもらうようなことも考えていました。それから自治体としては、沿線の環境整備やフィーダーバスの運行など、富山港線の周辺部分でそれを連携させて進められるような施策を考えてもらうわけです。

 以上のような組織でやろうということが、トータルデザイン委員会において方針として決まりました。

 後は具体的なデザインなのですが、以上のような理念のもとに、車両デザイン、VI、電停、広報、広告といったものについて具体的なデザインコンセプトを立てました。

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コンセプト具現化のための各要素のデザイン
 
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