四条通と東山通の通るこの辺りに沢山の路地があります。この一帯のまちづくりを地区協議会が運営しています。今日は、どこまで町を運営できるかという協議会の挑戦についての話です。
この地区の歴史も本に詳しく書いておりますが、まず1912年の8月に四条通りと大和大路に面しては貸座敷は御法度という規則改正がありました。その辺りにあったお茶屋がどっとこの南側に流入してきました。そのときこのような路地的な匂いを持った街路が形成されたわけです。
協議会は「路地のまちづくり」をやろうとしているわけではないのですが、路地が持っているやや秘密めいた空間が祇園町の特質に合致しています。それをなくしてしまってはダメだということで取り組んでいるわけです。
祇園町南側地区のまちづくり
地域生活空間研究所 上林研二
祇園南の成り立ち
協議会地区の道路網形成概史
『路地からのまちづくり』の中で時期ごとに図面を作りました。本では細かくご説明しておりますが、それを一枚にまとめるとこんなふうになります。
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花見小路から四条の南へ一本下がったところにある弥生小路です。日常的に舞妓さんのお風呂上がりの姿を見ることができます。是非とも一度おいで下さい。
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花見小路の一本西側に西花見小路があります。これも比較的凛とした町です。
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南の方に下がってきますとこのような町並みになっていきます。
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映画会社松竹が開発に乗り出したということもあって松竹小路という名前がついている道が三本あるのですが、これはその一番西側の道から初音小路を見たところです。これも落ち着いた良い道になっています。
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髪結い床から出てきた舞妓さんなどをいつでも見られます。追いかけているわけではないのですが、カメラを向けるとこういう人が自然に入ってくるという場所です。
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松竹小路のあたりではお茶屋さんがずっと連なっています。
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中路と言って、つきあたりを持っている通りです。
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花見小路に次いで幅の広い青柳小路と呼ばれている通りの景観です。テレビの刑事物、探偵物ドラマなどで、よくこの突き当たりから誰かが出てきて騒動を起こすというシーンがあります。見られたことのある方も多いと思いますが、この青柳小路を舞台にいろんなドラマが撮られています。
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最後にまた花見小路です。だいたい7mくらいの幅員を持った通りですが、近年様子が変わってきました。 我々はこういう賑わいを求めてまちづくりをやってきたのではないと話しているのですが、土日は場外馬券売り場に来る客が、平日は修学旅行の学生がどっと入ってくるため、騒々しい町になってしまいました。電線が整理され電柱もなくてパースペクティブなこの景観が人気を呼び、いろんな方が来られます。しかしできれば夜のお客として来て欲しいものです。
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さて先ほども話が出ましたが、祇園町で建築基準法第42条第3項の指定をしてほしいと思ったきっかけとなったのが、西花見小路のこの建物です。 これは実は3階建てなのですが、道路中心から2m後退して建ています。幅員2.7mの西花見小路に軒の分だけ後退して建っているヒューマンなスケールの良い建物が並んでいますが、こんなものが突然出来ました。
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それで、協議会は「こういうことになるから、なんとしても42条第2項でいくことはまかりならんと声を大にして言うべきだ」ということで取り組み始めたわけです。その顛末は本に書いてありますので、読んで頂きたいと思います。
この頃は全く何の制限もかかっておりませんから、賃貸契約や売買契約が成り立ったところからどんどん人が入れ替わっていきました。沢山あったお茶屋さんも女将さんが高齢化したり跡継ぎがいないということもあって、別のものに変わっていっています。
協議会が出来た後すぐに業種規制をしたわけではなかったので、最初のうちは以前と同じ野放図な状態でした。しかし02年5月の総会の決議で業種規制をすることになりました。地区計画で規制できるものは地区計画にまかせるけれども、地区計画は建築行為が起こるときにしか規制が適用されません。協議会としてはいかなるものも全て制限を加えたいということで紳士協定を結びました。以後すべて、お茶屋でも何でも、人に貸したり売りたいという場合は事前に届けが必要となり、契約は協議会が許可するまではしてはいけないという、厳しいことを言っております。
もちろん、なかなか聞かない人もおられますから、会長はいつもお尻をまくるわけです。喧嘩ごしでも業種の規制をしてきています。
ところで、新たに来てもらうのはどういう業種だったら良いかというのは、祇園町はもともと上品な業種とは言えないかもしれませんが、特有の接客文化を持っておりますから、できるだけ接客文化が濃密なもの、そういう業態の店舗に来て欲しいと考えているわけです。
ですから、うどん屋さんなども入りたいと希望されるわけですが、それはお断りしているようです。また、どんな店にするのか、図面も全部もらいます。実際の話ですが、祇園町としては困るということで銀行もお断りしております。このように沢山のオファーがあるんですが、相当な数をお断りをしてきております。
それでもまあ、さきほどの表のPぐらいからですかね、協議会に届出がなされて、それなりにお茶屋さんが言うことを聞いてくれるようになり、上品なところに貸すということになってまいりました。たとえばフランス料理「トランティアン」という掛布さんのお店も出てきました。
本当はずっとお茶屋さんとして頑張って続けてほしいという気持ちがあるのですが、どうしても避けられないような事態になっています。
まあ多少ミスもありまして、目立つ看板を上げられてしまって後で気が付いて「しまった」と思ったりすることもあります。それなりに気をつかいながら従前の町並み景観が大きく崩れないようにやっております。
毎月協議会を開いていますが、ある料理屋が来たいといっているがどうなのか、といった議論のラッシュになっています。
実は、地域の中にはお茶屋をやりたいという人もいるのですが、どうもお茶屋組合がお茶屋の新規開業を許さないという姿勢にあるようで、難しいところです。
お茶屋さんも協議会の会員に入っておりますが、そうでない方もおられるわけですから、なかなか上手くいきません。お茶屋組合に対してあれこれ言えませんので、ジレンマを感じています。
出来れば、以前お茶屋だったところは、名前が変わってもまたお茶屋になるといった具合に代替わりしていくと良いと思うんですが、そうはならないということです。
お茶屋がなくなってまいりますと、例えば舞踊は井上八千代さんが、能楽ですと片山家から教わるなどして、多くの芸事を舞妓や芸子が身につけているわけですが、そういう日本古来の伝統芸能がお茶屋の喪失とともに無くなっていくおそれがあります。
こういった地域が持っていた文化を守らなくてはいけない、あるいは継承していかなければなりません。しかし、なかなかそこが上手く行っておらず悩んでいるところです。
対策は、いわゆる耐震型ではなくて、ダンパーを入れるなどの制震型の対応が有効だということがなんとなくわかってきましたので、筋交いを入れろだとか壁を増やせだとかというようなことは言わなくても、なんとか上手く行きそうなのです。
したがって、ダンパーなどを梁・柱の頂部につけるような方法で制震を図りながら、外観は修景していく。こういった方法をこれからもう少し力を入れてやっていきたいと思っています。
それから道路問題では、花見小路の石畳化以降、車輌の全面的な禁止をしたいと考えております。松原警察にも再三要請しているのですが、なかなか上手くいきません。
現在のところ時間片側規制をしているのですが、出来れば終日片側規制に持っていきたい。そこまで行けば次は花見小路通を全面禁止にしていきたいと思っています。
最後になりましたが、平成8年8月に協議会が誕生し、昨年10年目の区切りを迎えました。西川幸治先生に講演をして頂いてセレモニーを行ったのですが、次の10年は今のような課題を少しでも解決するような取り組みをしていきたいと考えています。
それから人材発掘です。まちづくりを担ってくれる人材を発掘し育成するのが、第二ステージの課題だと思っているところです。
業種をコントロールする
開業実態ーa〜tは概ね開業順に並べている
昔の古い住宅地図と現在のものを見比べて、協議会のできた1996年8月までにお茶屋がどんな店に変わったかを調べました。
新規開業店の位置(赤丸は協議会設立前、青丸は協議会設立後、前掲の表「開業実態」をプロットしたもの)
新規開業店の場所は、まあ貸してくれるところがあればどこでもかまわずどんどん借りるという状況ではあるものの、やはり路地というか3項の歴史的細街路などに面している所は比較的建物規模も小さく、リーズナブルな値段になるような床面積ですから、すぐに狙われてしまいます。沢山の建物が変わっていっております。
新規開業事例-1;02年5月総会以降は設立が承認された協議会業種規制委員会に届、許可を受けなければ新規開業店との賃貸・売買契約が出来ないことになっている
先ほど言いましたように、届出を行って、それから協議をするわけですが、新しい店が出てくるときには建物もごろっと変えたいというような絵が出てくるわけです。しかし基本的には従前の景観を崩さないという方向性を伝えます。
新規開業事例-2
ですから新規開業の事例を見てみますと、建物の外観はお茶屋をやっていますと言っても分からないようであっても、ある店舗は創作料理、またある店は中華料理屋というようなことになっています。このように従前の外観を維持しながら、あるいは修景をしながら使ってもらうということです。
協議会の課題
協議会の課題 業種規制委員会
地域固有の生業も守り、上品な接客姿勢を持つ店の開業を許可し、その結果として従来からある景観が保全されるという、こういう図式を追求しなくてはいけないということでこれまで頑張ってきました。その具体策として業種規制を行ったわけですが、どうしても新しい店がどんどん増えてくるのです。
協議会の課題−景観委員会など
ハードな課題としては、最近取り組みを少し始めましたけれども、外観の修景をするときに、地震対策もきちんとセットでやっていきたいということです。
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