京都市への意見書
意見書の本文は前文と五つの提言からなっております。その前文ですが、まず最初に「京都市が提示された新景観政策を基本的に支持し、積極的に推進されることを期待します」という言葉で始まっております。はっきりここで「支持する」ということと「積極的に推進してほしい」ということを最初に申し述べました。ここで「基本的に」という言葉が入っているところが重要で、このことは「言いたいことは多々あるけれど、条件付で支持する」という意味が含まれております。
前文の中に支持する理由が書いてあります。五つ挙げておりますけれども、これは別の言い方をすると、支持する前提条件ととっていただいてもよいと思います。
まず1番目、「市街地の全域を対象」とする点。ただしこれについても会の中ではいくつかの議論がありました。一つは、規制区域の拡大は拙速である。あるいは強権的、一方的であるという考え方です。それに対して、拙速であるとしても本来景観政策というのは市の全域を対象とすべきものである、したがって拡大するのは当然であるという考え方もあります。この辺のことは提言1に盛り込みました。
2番目に、「地区の特性を尊重」するという点。これについても、地区の決め方、内容が、あまりにも拙速であり強権的であるととの意見がありました。しかし地区の特性に合わせた景観を考えること自体は正しく、むしろより細分化した地区の意向を踏まえた基準とすべきであり、これから時間をかけてそのようにやっていくべきであると考えました。これも提言1に盛り込みました。
3番目に、「屋外広告物規制強化」。これについては、皆全く異存はなく、当然やってほしいということでした。
4番目の「きめ細かで具体的な景観基準」という点。これも議論がありまして、一つはこれも拙速で一方的である、つめる時間があまりにも少ないということ。それに対して、より豊かで確かな内容にしなければならないのは確かであるが、それはこれからやることだというもうひとつの見方です。
さらに、これについては「きめ細かい」ということ自体が問題であるとの意見がありました。景観基準というものは大まかなほうがよい、これでは細かすぎるという意見です(これは今日の議論でも一つのテーマになるのではないかと思いますが)。それに対して、基準はきめ細かく具体的であるべきだという全く異なる意見、きめ細かく具体的に出したところが画期的であり評価するという意見がありました。いずれにしても、これからさらにつめていかねばならないということは一緒なのですが、この件については提言1、4、5に書いております。
この「きめ細かく具体的」というのは、今回の新政策素案のもとになった審議会の答申に「景観基準は抽象的であってはならない。きめ細かく具体的にださなければならない」とありまして、そのことがここに反映されたものであります。
5番目に、「内容をより確かなものとするプロセスを目指している」とする点。素案に50年、100年を目指すと書いてあります。それを目指すためのプロセスをきちんとつくっていくと言っている。そこを評価するということです。つまるところ、我々の意見書はこの5番目をきちんとやってください、そこを評価しますということに尽きるかもしれません。以上が、我々が支持する理由であります。提言はこの内容を補完するものです。
提言ではまず1番目に、「小地域ごとの景観特性に応じた基準を定め、その絶えざる修正・変更を可能にする仕組み、市民と専門家が参加するデザイン審査システムなどをつくること」を提言しています。2番目に、そのためには「市の担当部局の人員を増強すること」を提言しています。この1と2はセットです。
3番目、実はこれは、審議会の答申及び今回の素案についての反対意見なんです。答申でも素案でも、既存不適格になる建物を建て替えるということを前提に組み立てられています。建て替える時にどうするかということが述べられています。それに対して、我々は、建て替えは当然あるだろうけれども、建て替えることだけを前提にするのは間違っている。むしろこれからは建替えないで住み続ける、ストック重視の新しいまちづくりを目指すべきであると考えています。そういう政策につながるように方向づけてほしいということを提言しました。
4番目、「15mの高さ規制がかかる都心部における総合的なまちづくりに取り組む」という提言。今回15mの高さ規制を出しましたが、15mの高さで400%が建つのか、あるいは建てなくてはいけないのか、どれくらいのボリュームの建物なら住環境を守れるのか、そこでどのような経済活動が行われるのか、生活が行われるのか、そういう総合的なまちづくり、つまり都市計画として組み立てていくということがより一層重要になってくるということです。
5番目、「都心部の“美観形成地区”において、気長に地域ごとに景観イメージを探し続けるしくみをつくり、支援する」ことを提言します。都心部の田の字地区では31mと15mの建物が並び、その中に木造の町家が入っているという、この3種類が混在する街になるわけですが、そこでどういう町並みを我々は「美しい町並み」としてつくっていくのか、その具体的なイメージを我々はまだ持っていない。それをこれから皆でつくっていくことをしっかり目指したいということです。
今後の展開について
最後にまとめとして(私の意見としてみていただいてもよいですが)、これが施行された場合、我々専門家はどう行動すべきか、どう考えるべきかということを申し上げます。
今、市民と専門家にボールが投げられたということだと思います。我々専門家はそれに対して今度はボールを返す番だと思います。
返すボールの1番目として、「地域の特性に応じた、具体的な、より細かなデザイン基準としなければならない」、これを我々はつめていかねばならないと思います。例えば“和風”という言葉が使われていますが、これは一つの大きな問題提起であると思います。日本の近代建築は、いったい何だったのか。インターナショナルスタイルだけの近代建築ではない、そういう挑戦が京都から発信できるかもしれない、あるいはもう一度近代を考え直す契機とするべきではないかと思います。
2番目として、「進化し、成長するデザイン基準」。これは市長が最近の説明で使われた言葉ですけれども、これを実行する創造的な市民と専門家の参加のしくみをつくらねばならない。これに我々は積極的に参加し応援していかねばならないと思います。
それから3番目、「ストック重視の新しい都市計画への転換」を京都から発信したいということ。
最後4番目に、景観政策を市の全域に展開することを目指すこと。全国津々浦々にまで景観基準を設ける、「景観国土計画」を京都から発進させたいと考えます。
以上です。これで私の報告を終わります。
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