緊急討論・京都新景観政策を考える
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5. 論点3 デザイン規制をめぐって

成長するデザイン基準に期待

京都市立芸術大学 藤本英子

 

実施されるデザイン基準は出発点

 「デザイン基準をめぐって」という第3の論点について、私は「成長するデザイン基準」に期待したい思います。実施されるデザイン基準は本当に出発点でしかないのではないかということです。

 まず私が今回一番評価したいところは、今まで美観地区などでは種類別基準と言っていたのを、今回は地区別基準に置き換えています。地区別にしたということは、これは大きなことで、地区ごとで考えるベースができたということです。

 今までの美観地区、建造物修景地区の基準では、地域景観の規制とか誘導に対する効果が認められなかったというのが、皆さんも現状のスライドでおわかりだと思います。しかしここ数年、京都市ではパートナーシップによる元学区単位での地区計画づくりに励んでこられました。その結果、2001年4月には修徳元学区、2002年7月には本能元学区のほうで、地区計画が決定されました。

 しかし、職住共存地区を見ると18元学区と、元学区が多くあるわけです。したがって1年に1学区ごとに決定していったのでは、20年、30年かかる。しかも2002年から次が出来ていないということは、飛んでいるわけです。もしかしたら50年、60年かかるかもしれない。そうすると本当に開発のスピードに追いつかないのではないかということでした。

 私もそれに対して疑問を呈していたのですが、今回、今までの状態では、デザイン基準についての共通認識には至れないということで新しい政策が提示されたのだと思っています。ですから、まずは第一歩として捉えてください。デザイン基準は、無理やりにでも地区ごとの価値共有を模索するために提示されたと捉えてください。

 しかしやはりトップダウンではあります。しかし地区ごとの共通認識の模索を促進することにはなるだろうと思います。景観関連の活動が広がって、まちづくり活動の成熟が進むだろう。そして地区ごとで検討した「デザイン基準」が、少しずつできていって、運用され、活用され、進化し、地域ごとで自ら運用する仕組みづくりになっていくことを望んでいます。

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 このフローチャートは、将来京都市がこうなったらいいなという仕組みづくりの進展を書きました。しかしここで、今回抜け落ちている、もしくは中味が見えない部分がありました。

 やはりこういうトップダウンの出発点には、ある程度のバックアップの制度が必要かと思います。例えば、もっとわかりやすい仕組みづくり(本当にわかりにくいです。専門家の私でもそうです)、それから参加のしやすさをもっと促す必要があるでしょう。予算をもっとつけるべきです。それから専門家をもっと活用する必要がある。皆でまちづくりをするにも場の提供はもっと必要だろうというところで、そういう色んな面での制度づくりをもっと補強してほしいところです。

 これが必需品にならなければ、私が望むような進展はないと思います。


デザインの基準化と協議のしくみづくり

 私は今回提示されたデザイン基準について、これだけではとても景観が良くなっていくとは思いません。では何が必要かということですけれども、私も前田さんがおっしゃったように和風というキーワードにやはりひっかかる部分があります。これは今回のデザイン基準に見る大きな課題であると、私自身も思います。

 たしかに、ここは和風だよと、くくれる地域もあると思います。一つは町家の連なりが見られるなど、和風景観資源のストックが明快な地域。もう一つは、世界遺産など配慮すべき要素が明確な地域。この二つは和風でくくれるのではないかと思います。

 そういう所ではそこにやってきた設計者に対してある程度ガイドライン(今まで私たちが使いこなしてきたガイドライン的なもの)があったほうが設計に活かしてもらえるというのがあります。あらかじめ明確にしておいたほうがよい要素という意味では、デザインの基準化が必要と今回みなされているわけです。

 では、くくれない地域をどうするのかということですけれども、地域ごとで周辺とのかかわりを配慮し、ベストの設計を目指すべきだというのが、私の意見でございます。私は15年くらい、色んな自治体で景観アドバイザーを務めて参りました。その実感からこれを言っております。ちなみに前田さんが言っておられた京都市の景観アドバイザーではありません(笑)。ということで、アドバイザー制度の使い方次第では協議のしくみづくりが上手くできるのではないかと考えています。

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 では具体的にはデザイン基準の何が問題なのでしょう。共通基準となっているものを挙げてみました。色彩基準、屋根について、外壁について、境界のつくり方、設備系の目隠し、駐車・駐輪スペースの目隠し、植栽、屋外広告物の建築一体化と、このあたりはあまり問題にならないかと思います(色彩は私も専門なので、言いたいところはありますが)。

 例えば境界のつくり方だとか、設備系の目隠しなどは共通認識として全然問題ないのではないかと思います。たぶん問題になる大きなところは、軒の出、ケラバの出、和風意匠、壁面後退、和風意匠装置の活用、切妻平入と、この辺りがそれぞれの地区で問題になるのではないかと思っています。


提案により成長するデザイン基準である

 「提案により成長するデザイン基準である」というところが、今回の特徴であるとされています。今回確かに提案により進化はしていくのですが、どう進化していくのかというと、高さ制限がきついところで、それを越えさせる時に、景観誘導型許可制度というのが創設されます。これは一定の高さ以上つくっていいよ、というのを第3者機関に諮問するというものです。

 もう一つあるのは、景観意匠が特に優れ、また公益上の必要性があるものに関しては、基準の特例を認めていこうというものです。これもやはり第3者機関への諮問があります。この二つで特例を認めていこう、それに基づき基準も見直していこうという制度は出来ているのですが、私が提案したいのは、こういう基準を超える制度ではなくて、今提案された設計をもっともっと良くするようなアドバイザー制度を導入しようという提案です。理想形としてフローチャートを描きました。

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 まず先ほど言いましたように、デザイン基準は必要だと思います。デザイン基準による新規物件や大規模改修のチェックをまず行います。これは今までのアドバイザー制度と一緒です。デザイン基準を事前に示すことで、設計者に配慮を促したいからです。

 そのアドバイザーは、第三者である専門家によるアドバイスということですが、ここでのチェックがききます。共に共感して、これはいいねという話になり、レベルアップが見込める場合は実施になります。

 しかし見解が異なる場合(地域利害と事業者利害が相反する場合など)は、地域コミュニティへの提示になります(協議会などがある必要があると思いますが)。そして公聴会。そして判定。そして実施。ここで重要なのは、デザイン基準の検証ということで、そこで何が問題だったのかということを、再びデザイン基準に戻して検証して、これをずっとまわしていくといった制度です。こういう制度をつくらなければならないと思いました。大きな提案は以上です。

 以下は進化形デザイン基準の作り方を書きました。いかに今回の制度が難しいかということが、これを見てもわかっていただけるかと思います。

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 風致地区、眺望景観、美観地区及び美観形成地区、これは景観法で言う景観地区です。それから建造物修景地区、これは景観法で言う景観計画区域です。それぞれにつき、デザイン基準の決定機関が違い、審議機関が違うということになっています。このあたりのシステムを統合していただかないと、市民がわかりやすい制度として提言したり、進化させられるデザイン基準にならないと思いました。以上です。

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