緊急討論・京都新景観政策を考える
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4. 論点3 デザイン規制をめぐって

庇偏重では何も良くならない

学芸出版社 前田裕資

 

 今日は、私が一人、反対派を演じるということになっておりますので、こういったとんでもないデザイン基準を、「きめ細かな」だとか「素晴らしい」というのはどういうことなんだ、ということに徹して説明したいと思います。


美観指導を体験する

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 まず私の個人的な体験ですが、3〜4年前に美観指導というものを体験しております。コーポラティブマンションを建てる時のことです。美観地区の第2種のところで建てたわけですが、これは今回、新景観政策で拡大される景観地区の細やかな基準・指導に類似しています。ですからここでご紹介する意味があると思いました。

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 場所は今日の見学会でも歩いていただきましたが、御所の周辺の第2種美観地区です。1種はだいたい伝建地区とかぶるような感じで特殊ですし、3種以降は大きな建物だけが指導されていました。ですから今度の景観政策は美観地区拡大し、かつ全部2種に格上げしようという感じだと捉えてもよいと思います。

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第2種美観地区のモデル図
 
 第2種美観地区ではこのように和風を基調とするとか、1階壁面ができるだけ隣家と連続する、あるいはできるだけ軒・庇を設けるといったことが決められています。元々高さは15mの地区です。

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マンションの様子
 
 建てた建物がこれです。

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 この建物の3階のバルコニーのところに庇をつけろ、それから前に飛び出している茶室の屋根を平入にせよという指導がありました。設計事務所が何度足を運んでも聞いてくれないので、施主さんも説明してくれというので、建設組合の副理事長だった私も2回ほど行きました。

 「何故平入なのか」と聞きますと「京都は平入だよ。それ以外駄目だよ」と。「何故庇をつけなければいけないのか」と聞くと「2階にもつけることになっています」ということでした。アドバイザーの大学の偉い先生の指導で、だから窓口としては「そうしてくださいよ」というお話でした。

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 しかし現場を見れば、前にはこういうお家が建っています。これは今リフォームして立派に再生したお屋敷ですが、必ずしも平入ではないわけです。こういうお家がこの辺りは結構多いのです。現場を一度も見ずに勝手なことを言っているのがわかります。

 最終的には向こうも折れて、一件落着ということになりました。最後になって地区別基準というのを出してもらいました。御所の美観地区について京都市はこのように考えているという資料です。その中に良いマンションの例というのが載っておりました。

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京都市の推薦理由「大屋根やパルコニーの出隅デザインにより表情全体が重くなるのを防いでいる」
 
 例えばこういうものが良いという例です。庇もないし平入でもありません。これはむしろ大屋根やバルコニーの出隅デザインがいいですよというものです。自分で自分の基準を否定しているということです。

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「大きな間口のマンションだが、数軒の独立建物のように見える。文節化がうまい」
 
 これは和風につくってありますが、必ずしも細かい基準に沿っているわけではなくて、むしろ分節されているということを褒めています。褒め方は正しいと思います。

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「町家風の断面構成で町並みに合わせる(同上建物の西側)」
 
 これはその側面です。

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前景観部長の福島さんがセミナーで紹介されたもの
 
 これはデザイン基準ではなくて、去年の7月に京都市景観部長の福島さんがJUDIセミナーに来られて「この辺りにはこんなに頑張っているものもあります」と紹介されたものです。

 今写っているのとは逆の府民ホールALTIの側から見ますと、屋根が段々に重なっていて、なかなか良い感じなんですが、こちら側から見ると、庇が2階についているわけではない。3階から上がセットバックしているわけでもない。普通に考えると悪くはないと思うのですが、基準から考えるとアウトです。


新デザイン基準にびっくり

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新景観政策での地区の将来像(京都市素案)
 
 このような状況で困ったものだと思っていたところ、新しい政策が出るという話です。期待して、わたしの地区はどうなるのかと素案の絵を見ると、図のような地区になるのだそうです。先ほどの建物が建っているところに、このような将来像を提示してくるというのは、いったいどういうことかということです。

旧地区別基準と比較してみる
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ますます庇偏重
 
 旧地区別基準と比較してみると、まず庇については、昔は1階及び適切な階には軒・庇を設けなさい、連続性をとりなさいと書いてあったわけですが、今回は、道路に面する1、2階の外壁には、特定勾配の軒庇(原則として軒の出は90cm以上)を設けることと、数値基準になっています。これは景観法との兼ね合いでそうなったのだと思いますが、ますます画一的になっています。

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歴史遺産型として大ざっぱに把握
 
 全体を歴史遺産型として大ざっぱに捉えて、「伝統的な建築物からなる趣のある町並みが残された地区及び世界遺産等の周辺で(御所は世界遺産ではないのですが、類似のものとして該当しているのでしょう)これらの歴史的な建築物等と調和すること」というように広範囲な地域を一括して捉えています。

 昔の美観2種もいろいろな地区を十把ひとからげに2種としていたのですが、それではまずいということで、先ほどの地区別基準をガイドラインとしてつくったはずなのですが、元の木阿弥となりました。明らかな後退です。

旧地区別基準での当地区の特徴
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旧地区別基準での当地区の特徴
 
 旧地区別基準では、「歴史的市街地景観と京都の近代化過程を象徴する洋風建築が、新旧の対比を見せながら重厚な都市景観を各所につくり出している」となっています。

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同志社
 
 例えば同志社のような建物があります。この向こうの同志社女子大学まで、良い感じの建物が建っています。

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ALTI
 
 これは「ALTI」という府民ホールです。その向こうに見えるのが、先程福島さんが紹介されたマンションです。ちなみに、府の公館も併設されていますので、このマンションに対しては知事のほうから「変なものをつくったら許さんぞ」とのお達しがあったという噂です(笑)。それなりにつくってあるということです。

旧地区別基準で推奨した建物は
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ガーデンパレスホテル 市の推奨理由「烏丸通りにゆたかな緑化空間をとり大規模建築物のスケール感を和らげる」
 
 その他、先ほど紹介したガイドラインでは、写真のガーデンパレスも緑化空間もとってあって良いとされています。しかし今回の基準からすれば1階に庇はないし、アールはつくってあるわで駄目ですね。特定勾配屋根でもありません。

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ハーベストホテル 洋風建築だが、こぢんまりした品の良いデザインが御所の緑に調和する
 
 これは何故誉めたのか、私にはよくわからないのですが、こぢんまりした品の良いデザインがいいのではないかと褒めていました。今回はとんでもない建物ということになります。

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花工房 変化のあるテントの形状と色彩が軽快感を演出している
 
 これもテントの形状と色彩が軽快感を出していると褒めているわけですが、もちろん基準外です。これは花屋さんになっています。これを貸された方が私のマンションを建てる時に、「こんなものを建てるのはけしからん」というので協議をした時に、「私は建物を貸す時に、本当はサラ金に貸すと倍くらいの値段で貸せたけれども、それはこの地域に相応しくないと思い花屋さんに貸したんだ。あんたたちは地域のことをどう考えているんだ」と詰め寄られ、非常に困ったのですが…。

 やはりここには花屋さんが入っているからいいのであって、仮にこの建物の前が駐車場であればどうしようもない。京都市は花屋さんを含めて評価したということだと思います。

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モダン和風の店舗 ブティックや料理屋さんなどをまとめた和風集合店舗
 
 あるいはこういう和風の店もあります。ただモダン和風ですね。

対して美観指導にしたがって最近建ったものは?
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近所では景観認定第一号の戸建て、烏丸通り沿い
 
 では最近、美観指導にしたがって素直に建っているものにはどういうものがあるかといいますと、こういうものが建ちます。これはこのあたりの景観認定第一号の建物です。それなりに頑張っていらっしゃいますけれども、いかがでしょう。

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お料理屋さんなら基準も悪くないかも
 
 これは料理屋さんです。まあ悪くないかなとは思います。

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お風呂のようなタイルを貼ったマンション、むき出しの駐車場
 
 これは私の家のそばに建ったマンションです。姉小路の付近で大問題になった高松マンションのディベロッパーと一緒ですが、確かに庇はついているし、屋根みたいなものはついていますが、前に駐車場を置いて、「何しているんや」という感じです。

 市役所から「何かご意見があれば言ってください」と毎年町内会経由で質問表がきますので、「この色はなんだ、この駐車場はなんだ」と書いて出しました。色については「これは和風です」という回答で、駐車場は回答がありませんでした。ひょっとしたら検査後工事でやったのかもしれません。やはりセットバックして門や塀をつくっても、検査後工事をすることもできるので難しいですね。

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比較的、うまくまとまっている?
 
 これは私のマンションと同じ時期に建ったものですが、セットバックせずに比較的きちんとやっています。

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要素が過剰?
 
 これも同じ時期ですが、庇がついているけれど、なぜこんなになるんだろうという感じです。写真がぼけていて、目立ちませんが、実際はもっと明るい色です。

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頑張っているのだが、なんとも・・・。(建築年は、不明)
 
 こういう一戸建てもあります。

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京風ではないが、路地にあっている
 
 こちらのほうは、裏の路地にある建物です。ちゃんとガレージに戸をしつらえています。奥の建物も一緒に建った建物ですが、ゲートのようなものをつくっていて、むきだしになっているよりは随分良いと思います。ただし斜めになっている壁など、基準違反です。

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幹線道路には気合い、側面は、無頓着
 
 これは美観指導をきっちり受けたと言いますか、気合を入れて指導した金剛能楽堂です。今回のJUDIの勉強会に一度ゲストでおいでいただいた吉田さんが現役の頃に担当されたと聞いています。

 左の写真は烏丸通に面する表側です。裏は右の写真のようになっていて、手抜きそのものです。手前はALTIの駐車場です。府の施設のくせに、駐車場がむき出しで、緑化への配慮もありません。さきほどの市のご意見お伺いに対して、文句を言っているのですが反応はありません。


新景観(デザイン)基準への評価

 基本的には市自身が優れているとしているものは、基準の「心」は尊重しつつ、細部にこだわっていません。単純に基準を守っても良い結果にはなりにくいのです。

 人手不足の行政と美観アドバイザーは、マンションや一戸建てには、現場も見ないで、おざなりに画一的に対応しています。結局はデザイン力の問題だとしても、ルールに従ったら、せめて最低レベルはクリアできなければルールの意味がないのではないでしょうか。

 現在のデザイン基準にお義理でつきあってもよいものにはならないし、真剣につきあえばはみ出さざるを得ない。そういう基準はやはりおかしいということであります。

 特に今回対象が増え、数値基準ができましたので、ある意味自縄自縛になってしまう。みんな特例で対応できるような体制をつくらない限りロクなものにはならない、やめたほうがよいというのが私の意見です。


おまけ

 セミナーでは時間切れでしたが、用意したスライドがありますので、説明します。

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一番嫌い
 
 これは職住共存地区で3年前の新基準にしたがって建てられたものです。

 いかにも和風というデザインですが、美しいでしょうか。要素が過剰で、アンバランスだと私は思います。

 加えて前のむき出しの駐車場。私は一番嫌いなタイプです。

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せっかくデザイン基準風につくっても
 
 これは室町通りの丸太町と御池の間です。

 新デザイン基準風に作られていますが、駐輪場が設えられており、そのうえ自転車が乱雑に置かれているため、さっぱりです。

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嫌いじゃない
 
 職住共存地区で、随分まえに建てられたマンションです。新デザイン基準風のつくりではありませんが、壁面線が揃っていて、ちょっとした緑化が施されているので、手前の木造の美しさを邪魔していません。

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わりと好き
 
 これも室町通りの丸太町と御池の間です。手前が京都での三井の発祥記念碑ですが、その向こうのマンションは壁面線と軒線をなんとなく揃った感じにしています。

 上のほうはちょっとごつい感じですが、上に目を向けなければ異和感がありません。

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やはり3階だと馴染む
 
 私のマンションもそうですが、15mで2階建の町並みになじむのは難しいと思います。道路から見えるのは3階まですると、無理がありません。

 因みに旧デザイン基準では「3階以上の壁面は後退し、道路から見えないように工夫する事」とされていましたが、これは厳しすぎます。戸建てでも3階まで立ちあげますから、これを守っている建物は2階建以外ほとんどありません。

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