都市の魅力アップの手法について
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ともかく実現してみる〜ミニ社会実験

(株)オーユーアール 梶木盛也

 

提案書ではまちは変わらない

 7年前にこのJUDIのセミナーでお話しをさせて頂き、そのあと堺筋をテーマにいろいろ勉強しました。そして堺筋の提案書をまとめ、お世話になった人にご報告に行きました。その際「色々な研究会や経済団体などがあるけれども、報告書だけ作って積んでおくだけで、まちがどれだけ変わるのか」という意見をいただきました。確かにそうだなと感じるものもありました。

 一方で、南船場などが2000年くらいから大きく取り上げられるようになっていました。たまたま事務所が南船場4丁目にあったので、変わっていくまちを目の当たりにしていました。セルフビルドというか、自分たちで内装をやっているお店、またそういうお店を目当てにやって来る人たちが増えてきていました。中には半年でつぶれるものもあれば、続くものもある。けれどもこういう人たちが大きくまちを変えていると感じました。

 それに対して提案は言いっ放しになっていて、本当はまちをよくしたいという気持ちで作っているはずなのに、提案書を作ること自体が目的になってしまっているではないかと感じていました。


「社会実験」

 国の社会実験は、色々な施策を導入するにあたって単に行政だけで決めてやってしまうよりも、市民参加で試しにやってみて、その影響を見てみようという趣旨だと思います。場合によっては、それが合意形成のベースになっていることもあります。

 大半が道路や交通関係の社会実験です。御堂筋でも社会実験が行われました。側道をつぶして歩行者道にしたらという提言を受けて社会実験をしていましたが、これらを見ていると、様々な抵抗がある中で本音では制度化したくないけれども、社会実験でお茶を濁してガス抜きをしているのでは、とも感じてしまいます。

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 一方で、私たちが言う「社会実験」は小さくとも実現することが目的です。

 そしてそれは、「調べる」「作る」「伝える」「交わる」という4つの要素の結果成り立っています。

 社会実験の第一歩は、対象となる地域の問題を「調べ」て、魅力ある空間を「つくる(提案する)」ということだと思います。

 その上で作ったレポートを持っていろいろな方にご報告に伺いました。まちのいろいろな方と交わることで、「このまちは実はこんなんですよ」「これって問題ですよね。なんとか出来ないですか」と話をすることが「伝える」「交わる」ということだと思います。そして、次の段階としてシンポジウムなど自分らでやってみようという流れに自然となってきました。


ミニ社会実験の特徴

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 私たちがやってきたミニ社会実験がどんな特徴を持っているのかを考えてみると、「いろんなアイデアを持ち寄ってやっていくこと」があります。それから「自分たちの出来ないことはやらずに、身の丈にあった内容であること」「出来上がった内容は公開していくこと」、一から作り挙げるには時間も労力もかかるので「あるものをどんどん使っていくこと」、そして「参加してくれた人の声を聞いていくこと」、これらをスタンスとしてきました。

 最近よく言われるようになったキーワードである集合知の活用とか、オープンソースなどの要素を含んでいるのかとも思います。

 実現のポイントは3つくらいあります。その一つ目は、部屋の中に閉じこもっていないで、自分たちが体当たりでお店を廻ってお願いしてみることです。受ける方もまさか普通のサラリーマンがお願いにくるとは思っていないので、私たちがこれまでやってきたことをお話しながらお願いすることで、こいつら本気なんやという反応をしてくれます。二つ目はイメージを具体化していくことです。それによって周りの人が安心してくれると思います。3つ目としてネーミングも大切だと思います。言葉をかけて説明するよりも言葉が心に染みこんでいくように感じます。


ミニ社会実験1〜リバーカフェ

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 今日お話しする一つ目の社会実験は、大正区の大阪ドーム前で台船をつかってリバーカフェをする実験です。私たちがやってきた中では大きい実験になります。

 詳しくは2004年度第1回都市環境デザインセミナーで報告しておりますのでご覧ください。

 この実験の背景には、中之島などの周りを歩いて回っている時に水辺空間の問題を感じたことがあります。堤防と建物の間に壁があったり、建物が川に背を向けていたりしています。地図で見ると大阪都心は4つの川にぐるっと囲まれているのに、実感としてなかなかそういう意識がないことがわかりました。

 こういった水都大阪といわれる大阪の水辺の魅力を引き出したいと感じました。できるだけ多くの人に大阪の水辺の魅力を体験し、再認識してもらいたい。そして今後の水辺を考えていく上での方法を見せることで、水辺再生のムーブメントに寄与したいと思いました。

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 問題は、河川の占用、公園の使用、お金の問題、台船の係留という大きな壁でした。実験の結果として、これから河川を利用していくには、地元の方を含めて、地元が営業行為を運営委託するような形にして、河川管理者や公園管理者と営業をする人の仲介役を果たしていく必要を感じました。

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 実験が終わった次の年、中之島でSUITO21という同様の試みを大阪21世紀協会さんが始められました。21世紀協会は我々に話を聞きにこられたので、我々も包み隠さずお話しました。情報を公開してムーブメントを起こせたことをうれしく思っています。


ミニ社会実験2〜スプレムータon御堂筋

 二つ目がスプレムータon御堂筋というものです。

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 御堂筋沿いの公開空地を使って、にぎわいを創出しようという実験です。屋外でこういった空間を体感することが、日本の都市を見直すきっかけになるのではないかと思いました。道路を利用するには法律の制限が色々あり大変で、御堂筋での国の社会実験ですら、すったもんだの挙句に数時間だけ許可がおりました。

 そこで少し目先を変えて公開空地を使ってみることにしました。そして設ける施設も仮設であれば公開空地でも撤去しやすく、実験しやすいのではと考えたのです。それと、この場所には御堂筋まちづくりネットワークという組織が存在していたことや、都市再生緊急整備地域などのお墨付き地域だったことも、実現できた原因だったと思います。

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 ここでは公開空地を利用してジューススタンドと花や緑などのミニショップを行いました。併せて、お越しになったみなさまに対してアンケート調査も行っています。大半の方に好意的にみていただきました。イベントがないときよりも賑わいがあるという意見や、こういった店があることはまちにとっていいことだという意見を頂きました。

 一方で、公開空地が通行の邪魔になるという意見はほとんどありませんでした。将来については、もっと緑を増やして環境をよくするべきだという意見は98%近くあり、逆に何も置かない広場であるべきだという意見は非常に少ないことがわかりました。

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 同時に公開空地を使うことに対して、事業者側はどう思っているのかも調査しました。お店は利益追求の場であることや、公開空地だけで営業することには問題があるけれども、1階のお店が公開空地を利用して営業していくのであれば、イメージアップにも繋がるし、清掃を請け負うことなどで公共性を出していけるのではないかという意見がありました。

 このように、公開空地を使っていく上でのひとつの視座が得られたと思っています。


ミニ社会実験3〜地域ブランディング

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 三つ目の実験がブランディングの話です。

 この実験はせんばGENKIまつりが久宝公園で開催されたのに併せて行ったものです。大阪と言えば吉本、たこ焼き、タイガースと表現されることが多いのですが、それ以外にも色々あるはずです。その原因として、ひとつは空間に問題があり、またプロモーションの方法に問題があるのではないかということで活動を始めました。

 特に繊維問屋がたくさんある中船場は、当時シャッター通りやガレージ通りと揶揄されていた時代でした。中船場をテーマにブランドを作っていくというのはどういうことなのか、ターゲットを決めてプロモーションを進めていくためには、どうしたらよいかと考えました。中船場にはどんな可能性があるのかということを知る実験でした。

 パネルで中船場を展示していきましたが、中船場という言葉自体を意識の中に刷り込んでいくには、ステッカーなどの手元に残っていく形が必要じゃないか、またどこにあるかを知るために地図を作っていく必要があるのではと考えました。同時に船場GENKI祭りに来ていただいた方に意識調査を行いました。

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 ブランディングには短期的なものと、中長期的に行っていくものとで、タイムスパンを分けて考えていく必要があります。短期的には商いや文化、食などをアピールしていくことが必要で、特に繊維という特色からファッションを考えていくのが有効です。中でもシニア層に効果的かと考えました。

 しかし、中長期的にはもっと若い人にもアピールしていく必要があるのではと考え、音楽などエンターテインメントの要素も盛り込みました。また、船場は新たにビジネスを始めるのに適当な場所でないかと考え、起業家に着目して、買い物に来る人とは異なるアプローチが必要ではないかと考えました。


ミニ社会実験4〜モダン大阪スタンプラリー

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 4つ目はモダン大阪スタンプラリーです。近代建築を使っているお店をスタンプラリーで廻ってもらうという企画です。

 大阪には近代建築がものすごく多く残されています。近代建築といえば神戸の居留地などがイメージされますが、阪神淡路大震災で多くが解体されてしまいました。神戸は小さなエリアに集まっているので多いと思われていますが、数でいえば大阪です。特に北浜から土佐堀通りにはたくさんあります。そうした近代建築も、残念ながら気づいたら仮囲いされて壊されてしまっている事がよくあります。

 私たちで調べたり、議論したところ、近代建築を使ってくれる人がいるから近代建築は残っているという意見がでました。オーナーは文化的な価値よりも経済的な問題が気になるはずです。オーナーとユーザーをつないでいくことを考えてみました。

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 まず行なったのが、いろんなところにある近代建築を掲載した「モダン大阪MAP」の作成です。そしてこのモダン大阪MAPでスタンプラリーをしようと考えました。基本的には近代建築で営業しているお店や物販店を掲載しました。これはお店に関心を持っていただくことが、結果的に近代建築の空間体験につながるのではないかと感じたからです。

 お店の方にも協力していただいて、いろいろな景品をつけていただきインセンティブを設けました。5ヶ月くらいかけて準備し、スタンプラリーは2ヶ月間実施しました。一過性のイベントでは周りきれないですが、毎週末に出かけていただければ、2ヶ月くらいあれば5箇所くらいは廻れるかなという狙いです。

 MAPは20万部刷ってもらい、タイミング良く「近代建築という街の遊び方」という企画を行っていた『Meets』という雑誌に、広告扱いで15万部入れて頂きました。広告扱いでしたが、それ以上の貢献をしていただきました。残りの5万部を、大阪市の観光案内所や駅、Meetsを取り扱っている書店などに置いてもらい、またシンポジウムなどで配布していきました。そういうことをしていたら、新聞にも取り上げていただけるようになってきました。

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 単にお店を廻っていただいて景品を貰っていただくだけではなく、この実験でもアンケートを行って参加者の声を聞きました。スタンプラリーを行う前には、半数近くの人が1箇所か2箇所程度しか近代建築に足を踏み入れたことがなかったのですが、スタンプラリーを通じてみなさんに4〜5箇所を廻っていただけました。

 参加したきっかけとしては、お店が良いというだけでなく、建物も見てみたいという意見が半数近くを占めており、今後も利用したいという意見も多くありました。自由記述などからは、ビルの存在は知っていたけれども、1人では入りづらかったので、こういう機会に入ることができたという意見もありました。こうした意見からも、オーナーさんとユーザーを繋げることが少しできたのかなと感じました。

 リバーカフェのような大規模な事例もありましたが、自分たちの出来る範囲で行ってきた4つの社会実験の事例を紹介させていただきました。

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