ちょうど今日、東京の新丸ビルがオープンしました。朝からテレビでも紹介されていました。なんばパークスの第2期も先日オープンしましたが、こちらは全然紹介されていませんでした。東京の情報は全国に発信されるが、大阪の情報は全国には発信されない例かもしれません。しかし、メディアが悪いからだと言っていても何も変えられません。大事なことは私たちは本当に伝えたいと思う魅力をちゃんと持っているのかだと思います。
そこで自分たちが発掘したことを、自分たちで発信していく可能性についてお話したいと思います。それも今流行のブログとかではなく、絵ハガキやフリーペーパーというアナログ媒体で伝えることの可能性をお話したいと思います。
大阪はヤクザのまちと紹介されている。これはあかん、ということで 官民一体となって”ブランド戦略”など大阪のイメージアップに向けていろいろな取り組みがされ始めましたが、どこか虚しく悲しい感じが否めません。行政の施策にも、経済界からの提言にも、まちづくり団体の方針にも、情報発信というコトバが満ちあふれてます。官民一体となって、せっかくの魅力がちゃんと発信できていないとの嘆きばかりを繰り返しています。
このロングテール理論を大阪の魅力にあてはめると、よく耳にする吉本やタイガースの情報がヘッドの部分にあたります。大阪の魅力として発信される情報の大半がほんの一部の魅力であるわけです。堀江や南船場などもヘッドに近い位置にあるでしょう。前はテールの部分にあったと思われる新世界の串かつも今ではヘッド側に位置していると思います。ヘッドの位置にある魅力は、大阪の魅力としてどんどん情報発信されていくのですが、テールの部分は見捨てられています。それはそれで仕方のない話だと思いますが、私たちが伝えたいと思っている大阪の良さというものは、このテール部分なのではないでしょうか。そしてもっと問題なのは大阪の人自身までもが、実はテールの部分にある大阪の良さについて、あまりよく知らないことかもしれません。つまりそれは、自分の暮らすまちに興味がない、自分の暮らすまちに誇りを持っていないということかもしれません。にもかかわらず、今日もまたどこかのシンポジウム会場で、「大阪では、せっかくのまちの魅力が十分に発信されていない」という話が繰り返されているのです。
ちょうど第10回のJUDIフォーラム「街の遺伝子」の関係や、船場げんき提案コンペなどの関係で知り合った人を頼りに、まずは南久宝寺の卸連盟の幹部の方々にお願いして、私たちの提案書の説明会を開いていただきました。向こうも初めてのことであり、目的もよく理解できないまま不思議な雰囲気の会合となりました。しかし「地元の人たちが頑張れば実現できるアイデアもあります」という説明をすると、一様に関心を持って聞いていただけたのでした。
同じ様にして、堺筋アメニティソサエティと船場賑わいの会の合計三ヶ所で説明会を行いました。堺筋アメニティソサエティは堺筋の沿道企業の会で、事務局であった大和銀行の本店の応接室に話に行ったのですが、初めのうちは私たちの主旨が理解不能という表情をされていましたが、次第に想いが伝わり、それならばとアメニティソサエティの総会の場でプレゼンと意見交換する機会を設けていただけました。
絵はがきという媒体を使って大阪の魅力を発信していくのですが、ふたつだけルールを決めました。ひとつはその魅力に寄せる熱い想いを必ず短い文章にまとめること、もうひとつはその場所を表す地図を載せることです。
去年はええはがき研の活動5周年ということで、これまでに作った絵はがきを集大成する大展覧会を行いました。京阪電鉄の淀屋橋駅から北浜駅まで地下道が続いているのですが、その壁の空いている広告スペースを借りてこれまでの作品350点をすべて展示しました。展示にあたっては、「大阪の顔 中之島」「あんなまち、こんなまち(村のようなまち、渡しのあるまち、工場のまち、路地のまち……)」「大阪の胴体 船場」「まちの隠し味 バラエティ大阪(大阪のコトバ、大阪のイロ、あのヒト、あのソース……)」「大阪 水の都の表情」という5つのテーマを決めました。こういう切り口は、いままでの絵はがきでは描かれていなかったもので、これこそまさに大阪の魅力をあらわすキーワードでもあるんだと思います。
ええはがき研究会のメンバーのひとりが、神戸のまちづくり学校の講師をしており、講座の中でわが町のお気に入りの場所の絵はがきづくりを行っています。絵はがきは一般の人たちにとっても入りやすい内容なのではないでしょうか。メールの時代だからこそ、既製品の絵はがきではなく、わざわざ自分たちでつくる絵はがきに意味があるのではないかと思います。
ただ課題もたくさんあります。普通のまちの普通の風景が大阪の魅力になりえることは確かですが、やはり絵や写真のレベルがある程度以上高くないと魅力が伝えられません。人気のある作品は視点の面白さも重要ですが、写真や絵のレベルが高いものになっています。ここに単なる写真展になってしまう落とし穴があります。また独自の視点で魅力を発掘しようとするあまり、自己満足で終わってしまいがちになるという問題も潜んでいます。作る人とプロモーションする人が一体であることが強みであるのですが、逆にそれが活動をマイナーなものとしてしまい、本来の目的である大阪の魅力発信になかなかつながっていかない弱みともなっているのだと思っています。
このようなことから、創生研の2004年のワーキングの対象を野田福島に決め、一年間メンバーがいろいろ調査をして議論した内容を提案書にまとめました。そしてここでもこれまでの創生研の活動と同じように、この提案の内容を地元の人々に知ってもらわないと意味がないということになったのでした。今回は住宅地であり、ここに暮らす住民が相手ということもあって、堺筋の時のような説明会という形では十分に発信できません。そこで提案書の内容をフリーペーパーという形で発信することにしたのでした。
野田福島のお昼ごはんという企画では、野田福島で買えるものでオリジナル弁当を作ってみました。野田福島の文学というテーマでは、ここが宮本輝の「泥の川」の舞台として有名なことを紹介したり、福島区出身の田辺聖子さんへのインタビューを実現しました。また、野田福島の神さまというテーマで、天神さんやえべっさんなど神様がいっぱいいる町であることを紹介しました。
先月号では、野田福島の旅館に泊まり、敢えて一泊二日で楽しもうという企画を行いました。我々が実際に宿泊し、体験レポート風にまとめています。そして今月号では野田藤を紹介しています。野田が古来から藤の名所であったという紹介に加えて、藤の育て方や名人へのインタビューなども行っています。
このフリーペーパーは来年の3月まで発行することになっています。当初は提案書の内容をフリーペーパー形式で発信しようという狙いでしたが、提案書の内容をリライトすることでは地元の人が読みたい内容にはなりません。そこで結局、もう一度丁寧な取材を重ねました。これらのフリーペーパーは一つ一つがしっかりした提案書と言えるものだと思っています。すなわち毎月確実に3,000部の提案書が町中に配られていることになります。そしてそれ以上に大切なことは、約20名のワーキングメンバーがまちをうろうろと取材してまわることだと思います。
約20名のワーキングメンバーは、野組、田組、福組、島組という4つの組に分かれて、順々に担当していく宝塚歌劇方式で活動しています。一つの組は4ヶ月に1回のペースで発行を担当することになりますが、常にどこかの組が取材でまち中をうろうろしていることになります。取材していると、まちの人から「あんたらなんでこういうことをやってんのん?」と聞かれます。そのたびに私たちはフリーペーパーの主旨をできるだけわかりやすく説明します。この会話を繰り返していくことが大事なんだと思っています。活動を続けてきたことで、毎月発行を楽しみにしてくれている人も確実に増えてきました。「ああ、あのフリーペーパーの取材ですか・・・」と言われるケースも増え、取材もやり易くなってきました。こういう紙媒体でやることで、まちの人との直のふれあいを通じて、日常の中で少しずつ変化が生まれているのを感じます。まちへの提案は報告書を納めるだけでなく、こういうやり方もあるのかなと感じています。
カードブックはフリーペーパーと同様に実態があるものであり、実際に手渡しされていくことを重視しています。こうした方法はブログなどに比べて、情報の伝達量としては大変弱いものですが、確実に想いが伝わっていくからです。野田福島の20人のように、まち中に案内人がたくさんおり、それぞれの案内人が自分のとっておきの大阪をカードにしていけば、それを束ねることでどこにもない本当の大阪のガイドブックができるのではないかなと思っています。
さらには、自分の作ったとっておきの大阪を紹介するカードを使って、他の案内人が案内する。他の案内人が作ったカードを使って自分が案内する。そんな案内人のネットワークを組み立てて、お互いがさらにとっておきの大阪を紹介するカードを競い合う、そんなことに発展していったらとてもおもしろいだろうなと思っています。
自前の魅力発信メディアづくり
(株)環境開発研究所 岸田文夫
情報発信の下手な大阪
大阪は情報発信が下手なまちです。その原因は何なのか。大阪に全国ネットのキー局がないことや、大阪で発刊される雑誌が少ないということは、魅力発信の機会が少ない原因ですが、東京以外のまちはどこでも同じです。本当に問題なのは大阪の人が大阪の魅力を実はよく知らないということのように思えます。
大阪から発信されている情報
これは、たまたま手元に持っているイタリアで発刊された日本の旅行ガイドの大阪紹介ページです。わずか2ページしかないにもかかわらず、大きくヤクザを紹介するコーナーがあります。”大阪は現代的なヤクザのセンターで、最も影響力ある犯罪組織の中心部がある”と書かれています。その他は東洋陶磁美術館や人権博物館など、私たちが大阪の観光スポットとしてあまり意識していない施設が紹介されています。
大阪の人自身が大阪をよく知らない
こうした状況は流行のロングテール理論で上手く説明できそうです。ロングテール理論とは、通常はヘッドと呼ばれる上位の20%の品目の売り上げが全体の売り上げの80%を越えているが、テールと呼ばれる下位80%の売り上げが重要度を増しているというものです。普通のまちの本屋さんは商品棚に限りがあり、ヘッド部分の商品しか扱わないのですが、インターネットストアーのAmazonでは残りの80%のテール部分の商品がよく売れて、利益に繋がっているそうです。
提案書を持って街に飛び込む
2001年の都市大阪創生研究会では堺筋の活性化をテーマにワーキングを行い、その成果を提案書にとりまとめました。しかしその時、せっかく提案書をまとめても、それがまちの人に伝わらないと意味がない、これじゃまちは何も変わらないという議論が起こったのです。そこで私たちはこの提案書の内容をまちの人に聞いてもらおうと、報告書を持ってまちに出て行くことにしました。
その頃、船場げんき提案コンペだけでなく、JUDIフォーラムや私たちの堺筋ワーキングなど、いろいろなことが同時進行で起こっていました。南久宝寺の人たちは、前から何か行動を起こさねばと思っておられたようで、私たちの提案が大変刺激になったようです。堺筋アメニティソサエティは船場賑わいの会と共同して、りそな銀行の公開空地でイベントを開催しました。太閤路地プロジェクトの方も船場賑わいの会と連携してシンポジウムを開催するなど、何か化学反応のようなものが起こってきました。私たちの不思議な発表会もその誘発要因のひとつになったのだと思います。
手軽にできる魅力発信〜大阪ええはがき研究会
大阪ええはがき研究会は「ええはがき」を作り、展示、販売していくことを通して、大阪の魅力を発見し、発信していくことを目標にした任意の会で、2001年から活動を開始しています。これも都市大阪創生研究会で大阪の絵はがき事情を調べたことをきっかけにしています。発足の当初からJUDIのメンバーにも声かけさせていただいています。
今大阪で売られている絵はがきがどんなものか、みなさんご存知でしょうか。大阪の絵はがきは大阪城や道頓堀、海遊館などの定番スポットばかりです。そしてどの写真にもびっくりするほど人間が写っていません。私は大阪の大きな魅力要素は人間だと思っているのですが……。これでは大阪の本当の魅力は伝えられていない、それなら自分たちで作ろうということになったわけです。とはいえ何か目標が必要ですので、2001年の秋のJIAの大会で展示会が出来ることになり、これにあわせて活動が本格化しました。
展示会のテーマは「思いがけない大阪」です。あまり知られていない大阪の魅力を浮きあがらせようと企画したテーマでした。メンバーが各々独自の視点で大阪を切り取りました。展示会の来場者にアンケートを取って、気に入った絵はがきを選んでもらったところ、大都市大阪の中にひっそりと残る村的な風景を切り取ったもの、ごちゃごちゃした繁華街の路地をスケッチしたもの、中之島にかかる橋の表情をとらえたもの、ソースをグラフィックで描いたもの、上町台地の坂を紹介したものなど、これまでの絵はがきとは違ったテーマが人気上位になりました。このことは私たちにとっても自信になることでした。
その後、ええはがき研究会では年に1、2回のペースで展示会を続けてきました。そして2004年には三休橋筋愛好会の活動と併せて、三休橋筋の沿道20箇所のお店に絵はがきを置いてもらうという展示会もしました。メンバーが手分けして沿道のお店に飛び込みでお願いにまわったのです。地味なイベントですし、お店のお客さんが増えることもありませんが、活動の主旨を「本気でやっているんです」という熱意を持って伝えることで、賛同・協力してくれる方々が増えてきたことで成立した展示会でした。
これは私の作品で、一貫して西大阪エリアの此花区、大正区、港区あたりの絵はがきを作り続けています。工業地帯の風景も意外と人気が高いんです。2003年にええはがき研究会が新聞に紹介されたのですが、その時に私の春日出発電所の絵はがきが掲載されました。するとその新聞を見た人からお手紙をいただいたのです。手紙は関電の社宅に住んでいた人からのもので、「毎日この風景を見ていました。発電所で働いていた父が定年を迎えるので、この絵はがきをプレゼントしたい」と書かれていました。私自身もこの近所に住んでいて、春日出発電所の2本の煙突は記憶に残る風景になっていましたので、同じように思う人がいたことが大変嬉しかったです。煙突のような公害の象徴ともいえる風景であっても、人々の心に残るような風景になっています。観光資源でも何でもない発電所の煙突の風景が絵はがきとなることで、特別な想いを共鳴させる素材となったのです。
ローカルな情報こそ〜野田福島フリーペーパー
大阪の人がなぜ大阪の情報を知らないのかというと、テールの部分の情報に触れる機会が少ないからではないでしょうか。梅田、難波、堀江、南船場などの繁華街の情報がヘッドになっているのに対して、それ以外の普通の町の普通の情報はテールの部分にあります。テールの部分に対して、インターネットの世界ではブログなどいろいろな情報がありますが、一般にこの部分の情報はあまり発信されていません。こうしたテールにある情報の発信ができるものが地域限定のミニコミ誌やフリーペーパーだと思っています。
なぜ野田福島でフリーパーパーを作ったのか。これは京阪中之島線延伸のパンフレットですが、ここには中之島線によって中之島の開発が促進されるという情報がたくさんあります。しかし、中之島線の駅は中之島の発展だけのものではありません。川を隔てたすぐ向かいの野田福島の人々もこの鉄道を使うはずなのに、このエリアの情報は全くといっていいほど載せられていません。このパンフレットをみると、野田福島に気づいていないのか、それともわざと無視しているのか、中之島のためだけに鉄道をつくっているように思えてしまいます。そこで、それならば私たちが提案しようではないか、ということになりました。
フリーペーパーは去年の4月から月に1号のペースで発行しており、現在までに10号出ています。創刊号は長屋について特集しました。長屋を図解するイラストを描いたり、明治、大正、昭和の長屋をどう見分けるのかなども書いています。第2号以降、野田福島での音楽をテーマに音楽スポットを紹介したもの、商店街のいろいろなお店を取材したもの、自動車部品工場にスポットをあてたマニアックなもの、中央卸売市場でのセリの様子や仲買人の人にインタビューしたものなどがあります。
アナログのめざす先は〜まちの案内人のネットワーク
最後に、創生研ではなく、NPO法人もうひとつの旅クラブという組織で作っている「旅のカードブック」の例を紹介します。この「旅のカードブック」は、大阪の人々の日常の営みが感じられる場所や人を、とっておきの大阪として紹介するというものです。さらに好きなカードを束ねることでオリジナルのガイドブックにもなります。
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