その後、ダムについては2000年に環境影響評価の概要書が縦覧されましたが、反対派からの意見書が700通以上出てきました。このままダム計画を進めて良いのかということで、当時の貝原知事が「武庫川の治水対策に対する合意形成の新たな取り組みを行い、総合的な治水対策を検討する」と表明しました。この総合的な治水対策というのは、河川は河川だけで治水をするだけではなく、流域対策も含めて総合的に検討するんだという意味合いだと思います。そういうことを表明されました。
それを受けて、2003年3月くらいに流域委員会の準備会が開催されて、1年くらいかけて準備会が流域委員会のあり方を検討して知事に答申しました。それを受けて流域委員会が始まりました。それ以降、昨年の8月末に提言書を提出するまでに49回の流域委員会を開いたわけです。
それを受けて兵庫県の河川管理者から流域委員会に今年(2007年)の7月6日に河川整備の基本方針原案が提出されました。基本方針ですので、法定図書ということで、要点だけを簡潔にまとめた12ページです。流域委員会の提言書は200ページはあったと思いますが、それを受けて基本方針として県から出て来たものは12ページで、提言したことを、キーワードで集約しているという所はあるかもしれませんが、味もそっけないなとがっかりしました。
それで今年秋以降に基本方針の原案を審議して、河川審議会に諮問し、国の同意を得ることになります。その後は河川の整備計画というのがあるわけです。整備計画は基本方針とは違い、より具体的に検討しなければいけませんので大変です。ですから後3年くらいは流域委員会は続く予定です。
2。武庫川流域委員会とは、経緯、目的と役割等
流域委員会とは
先ほど冒頭でも説明しましたが、1962年に武庫川水系の生瀬ダムの検討が始まりました。その後1970年くらいに中小河川の改修事業が開始されました。これは北摂ニュータウンの関連で始められました。途中、生瀬ダムにつきましては多目的ダムの検討がなされましたが、結局は治水専用ダムということで1993年に穴あきダムに計画が変更されました。その後、1997年に河川法が改正され、「治水・利水・環境」を軸に全国的に河川計画の見直し等が始まったというわけです。
武庫川流域委員会とは、経緯、目的と役割等
委員会の目的・役割
当時の知事が流域委員会に諮問した内容を見ますと、要するにゼロベースから武庫川水系の河川整備基本方針を策定するということ、そして総合的な治水対策をはじめ武庫川の河川整備のあり方について参画と協働の理念に基づいて責任ある立場で議論して欲しいということでした。この参画と協働は今回の流域委員会で貫かれています。ですから徹底的に議論する、審議する、ほとんど全員一致に近い形で方向が出るまで議論されているわけです。
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ということは100年に1回の確率で起こる豪雨を対象にするということです。ただ100年目に起こるかもわからないし、場合によっては明日来るかもしれないわけで、そのとらえ方は非常に難しいのですが、基本的には超長期的な目標整備水準ということになると思います。
今すぐ1/100年が来たとしたらとうてい間に合いません。一方、100年というスパンの間に世の中が大きく変わっていきます。経済的にも社会的にも、ライフスタイルも、それから特に少子高齢化でどんどん人口が減っていくわけです。そういう中で流域の条件も変わっていくだろうというわけです。
今までは土地利用もどんどん右肩上がりで増加していたものが、利用しなくてもいいような状況になるかもしれないわけです。例えば緑に帰すとか、田圃に帰すとか、そういうことも起こるかもわからないんです。そうすると、流域の水の流れの状況も変わってきますので、そんなことも考慮しなければだめだろうという話を我々はしていますが、河川サイドではそういう考え方をなかなかしません。今ある総合計画とか都市計画マスタープランが前提にしている人口とか土地利用を対象にして水の流れのシミュレーションを作るものですから、どうしてもいろんな事が数値的には過大にあがってきているわけです。過大なものに対処するためには洪水調節施設として新規ダムも視野に入れなければいれないという事になりつつあるんです。
その辺がなかなか判断が難しいところですが、私などはまちづくり屋ですから、「まち屋」側から出来ることはとにかくやらなければいけないし、そこで住んでいる住民も危機管理も含めて自分たちのまちは自分たちで守るというようなこともやらなければいけません。雨が降れば各家庭でポリバケツに雨樋を半分切って雨水を一時的に貯めるとか武庫川に対し雨水の流出抑制をするとか、そんなことも含めてやらなくてはいけないと思っているわけです。そういう小さな話も含めて議論しているんです。
推薦委員の方々は、大学の先生を含めて河川工学、地形土壌災害、農業利水、水環境学といった分野から法律・財政学やまちづくりなど色々な方ですが、その中にも先ほど言いましたダムの反対派とか賛成派といった人達もいます。
それとは別に公募の10名がいるんですけれども、この連中がぼんぼん物を言うんですね。そういう意味でもこの流域委員会はものすごく面白いんです。今まで武庫川に何らかの形で携わってきた人達、それは環境問題であったり、動植物や昆虫に詳しい人だったり、森林保全や砂防だったり、都市計画やまちづくりに関わってきた人達であったりと、非常に幅が広く、年齢も70〜80歳くらいの人も何人かいらっしゃるんですが、結構高い年齢層の方が積極的に発言され、本当に元気だなあと思いました。
川づくりにすごく信念を持っておられる篠山の人なんですが、「いわゆる河川工学とかアカデミックな数字の話とか、そんな事はどうでもいい。川というのは文化や」ということをまくし立てる人がいます。それはやはり毎日毎日川と共生したり、川と対峙して何十年も生活しておられるからなんです。そういう人達のノウハウとか、理屈じゃなくて肌でわかるというようなことが実は非常に勉強になります。やはり「川づくり」というのはそういう人達がいないと出来ないなということを感じました。
仕方ないので時間雨量とか24時間雨量とかの雨量を流量に換算して前提条件にするわけです。この雨量を流量に換算する前に、まず1/100年の24時間雨量がどんなものかという事があるわけですが、それは数式があって決まるんです。
それは武庫川の場合でしたら247mmなんですけれども、加えてその雨の降り方のパターン、降雨波形があります。それも既往のものを1/100年にのばすんです。そこで、本当にこんな伸びるのかという話とか、どういう降雨波形をとるのかとか、というのも流域によって雨の降り方が違いますから、上流で沢山降る場合もあるし下流で降る場合もあるし、その辺でどれをとるかというのも経験が深く関わることです。
ちょうどこの流域委員会をやっていた平成16年10月に台風23号が来て、武庫川流域でずいぶん大きな被害があったわけです。武田尾の温泉街や護岸も随分やられました。そんなことで平成16年10月何日かの降雨波形、これを既往災害の雨の降雨量として、この波形を使って1/100年に引き延ばそうということで出来たのが、武庫川の基本高水の量なんですね。それが約4600t/secなんです。
その量はどこで測っているかというと、基準は甲武という所で4600t流れるんだとなっています。
ところが、その現在の断面では4600tも流れません。河川をどんどん整備して、川底を浚渫したりしても、3700tくらいしか流れないんです。その差900tを流域総合治水と、遊水池とか一部新規ダムも視野に入れて負担させるというのが最終的な結論です。
ところが、提言書で我々皆で一致している意見では、長期的な基本方針では新規ダムというものを視野には入れているけれども、基本的には新規ダムという結論を出す前にもっともっとやることはたくさんあるとしています。例えば神戸市の管理している千苅(せんがり)水源地というのがあります。それから西宮市が管理している丸山ダムもあります。青野ダムは県の管理で多目的ダムですから治水容量と利水容量分があります。これらのダムの利水容量分を見直し、治水容量を増やせないかという提案をしています。
それは特に千苅ダムなどで効果があるんです。この千苅ダムは明治時代に出来たもので、堰堤は神戸市のエリアですが、ダム湖、貯水池の大半は宝塚市です。昔神戸は海外との貿易で成長著しい港でした。で、外国船も沢山くるという地で、そこに新鮮な水を供給しなければならないということになって明治政府あるいは神戸市が水源を求めたのが千苅です。それ以降、神戸市の利水ダムとしてほとんど手をつけられていません。しかし本当にそれだけの水の容量が今もいるのかといったら、いらないんです。神戸市の人口が減っている事もあって、今後の動向を見ていってもそれだけの利水容量はいらない。だったらその分を治水容量に変えることができるわけです。
一番手っ取り早いのは、豪雨が来る前にそれだけ水位を下げておくことです。で、その下げた分だけ豪雨に対する治水容量になるというわけですが、そのほか千苅ダムの場合は出来てから随分時間も経っていますので、改修も必要になってくるでしょう。その改修に併せて治水容量も増やすよう考える、堰堤の流量操作の仕方も変えていくというようなことも含めまして、色んな提案をしたわけです。
このようにあれもこれもやって、それでもどうしても新規ダムもいるということになれば、環境問題等をクリアしながら造ることもやむを得ないだろうというのが流域委員会の最終的な結論です。そういう方向で、もともとの反対派や賛成派も含めまして、ほとんど全会一致に近い形で結論が出たというわけです。
ところが、先ほども言いました中間段階の20〜30年スパンでどうするかということに対しましては、具体的にどういう施設で流量をまかなうのか、抑制するのかというのからやらないといけないわけです。それについても、新規ダムについては20〜30年スパンではいらない、他の方法で十分まかなえるということで、整備計画には位置付けないというのが流域委員会の結論です。
そういう結論が出ましたが、県の方では今一生懸命、新規ダムがどうしてもいる、あるいは今新規ダムを位置付けられない大きな理由の一つは環境問題であると認識しています。本当はそれだけではないと思いますが、県は自然環境問題をクリアすれば大丈夫と思っています。その一貫として上流で一時試験的に湛水するんですが、その湛水期間中に動植物が影響を受けないか、そんなことを含めて大きな調査費を使って調査をしているのです。その調査結果が出るのに2年ほどかかりますので、それを含めて整備計画というのを作ろうとしているわけです。
河川整備基本方針と整備計画
河川整備基本方針
それでは基本方針で何を決めるのかと言いますと、長期的な視点に立った河川整備の基本的な方針を記述するということです。後ほど説明しますが、基本高水(たかみず)は河川整備を考えていくときの原点になる条件です。何年に1回くらいの確率の流量を対象に河川の計画をつくるのか。これには1/100年、1/50年、1/200年とかいろいろあるのですが、武庫川の場合は長い議論の末、1/100年と決めたわけです。(2)河川整備計画
河川整備計画は20〜30年後の河川整備の目標です。その整備計画に対応すべき水の量がシミュレーションで算出されるわけですが、それに対してどういう種類の整備工事をするのか、場所はどうかといったことを検討していく必要があります。ですからとにかく河道の掘削をいつまでにやります、高水敷を削って広げます、あるいは遊水池を川沿いに造りますとか、色んなことがあるわけです。それと並行して流域でできる総合治水対策をやっていくといういうことを進めているわけです。
委員会の構成と特徴
委員の構成メンバーは推薦委員15名と公募委員10名です。
全体議事フローと基本高水の決定
委員会のはじめの頃に、まず治水をベースに川づくりを考えるときに、たとえば「治水安全度」というのがありますが、その条件をどう決めるかということを議論したわけです。1/100年にするのか1/50年にするのか1/200年にするのか、そういうことを決めるんですね。詳しくは申しませんが、結論的には先ほども言ったように1/100年になりました。武庫川の格から言いましても、あるいは下流の都市部の集積度から言っても、やはり1/100年の確率くらいのものを考えなくてはダメだということでした。
審議のフロー
その1/100年を、今度は流量に直さなければなりません。流量に直したものが「基本高水」になるんですけれども、これがまたややこしいんです。河川専門の方が沢山おられるのでおわかりになるかもしれませんが、数式・数式で、いろんな前提を置いて、いろんなパラメーターを作ってやるんです。まず1/100年確率の流量は実績としてはありません。1/30年とか1/1年とかはあるでしょうが、それでも流量としての観測データはほとんどないんです。これは全国の川でもそうだと思いますが、そこがちょっとエアポケットになっているんですね。
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