環境共生と農のまちづくりへの挑戦
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

金岡町における農空間保全に向けた住民主体のまちづくり活動

 

住民主体の取り組みの始まり

画像ka16
 
 堺市北区金岡町で住民主体のまちづくりがどのように起こってきたのかをご紹介します。金岡町は中央環状線があり、地下鉄御堂筋線の新金岡駅、南海高野線の白鷺駅、大泉緑地に隣接しています。地区西側は住宅地開発が押し迫ってきています。

 土地利用の状況を整理してみると、1968年には地区全体148haのうち農地が86haであったのに、2000年には45haまで減少しており、その分が市街地に置き換わっています。田んぼのところが調整区域であり、集落のところは市街化区域となっており、ちょうどせめぎあいのところになっています。また農振農用地は掛かっていないので、白地になっています。

画像ka18
 
 大阪中央環状線から南北に通る都市計画道路(南花田鳳西町線)が昭和40年に計画決定されており、そろそろ着工するのではないかという状況になっています。これが農空間を貫くように通るので影響が心配されていますが、一方で便利になってよいという意見ももちろんあります。

画像ka19
 
 地域の既存の組織としては、金岡町自治連合会というため池等の財産区を管理している組織があります。また中池等の水利組合もあり、もともとの農を媒介とした共同管理の仕組みが残っています。120軒の農家の大半が兼業農家であり、専業は当初2軒で、現在は3軒になっています。

 そして金岡まちづくりの会が平成12年に発足しました。40歳前後の若手30名を中心に結成され、10年後20年後の金岡地区をどのような町にするのかという議論がなされています。その結果、農地を残していく、地域のルールを決めていく、地区住民のアンケートを行うといったことを進められてきました。そして関係諸団体や増田先生の研究室にも声がかかり、平成13年に金岡まちづくり推進協議会が発足しました。

画像ka20
 
 もともとの地区の自治連合会や水利組合等が集まって結成したところに、われわれ大学や民間のコンサルタントがアドバイスをさせていただいています。また行政側も大阪府の農政室だけでなく、堺市の農業関係の部署やまちづくり支援課もいっしょに動いています。


まちづくり推進協議会ができるまでの経緯

画像ka21
 
 農空間保全に向けた土地利用ビジョンをつくって、地域で合意していくことを目標としました。

 このように計画を策定していくということを中心に据えながら、左側に支援してくれる人やファンといった存在をどのようにつくってきたのか、右側にプランを作ったりまちづくりを進めていく上で重要な組織がどのように変化してきたかを説明させていただきます。

 平成8年ごろから、地域の将来についての話が出てきました。そしてもう少し正式に議論する場を作っていくことが必要だということになり、2000年頃には誰かが活動の中心になれなければということになり、先に紹介した金岡まちづくりの会を40歳くらいの人たちを中心に結成しました。そして堺市のまちづくり支援課に相談されました。この辺りが住民の発意期と言えると思います。

画像ka22
 
 農空間は本当にいいものなのか、農空間を本当に残したいのか、地域の課題は何なのかということを整理しはじめたのが2000年くらいになります。また大阪府のため池オアシス事業に取り組んで、その後大阪府で農空間保全支援指針というものもできたので、白地のまちづくりを積極的に支援して農空間プランをつくろうということになりました。

 このようにおぼろげながら農空間というものを重点的に考えていこうということが決まってきました。そこで有志の会だけではなく、地域内でしっかりと合意できる仕組みや組織を考えていこうということになり、金岡まちづくり推進協議会というものを作ることになりました。また行政も横断的に関わるようになりました。


住民アンケート調査

 正式にもう少し課題をきっちりと把握するためにアンケートを実施しました。まず農家の方に行い、そして次世代の意見として中学生にもアンケートを行いました。さらに農家でない新住民の方々にもアンケートを行いました。また大学が入っているので、土地利用の変遷や農地の減少、市街化調整区域の位置、地域資源を整理して紹介することなども行ってきました。

画像ka24
農家・中学生・非農家;将来の土地利用意向
 
 簡単にアンケート調査の結果を紹介しておきたいと思います。将来の土地利用意向を聞いてみると、農業的な土地利用を主にするべきという意見が5割近くあります。しかし中学生は都市的土地利用が主にという意見が高めになっています。

 農家の人にもう一度アンケート調査を行っているのですが、その際には地権者の方々、次に土地を受け継ぐ世代の人、女性の方々にアンケートを行いました。農業を好きでやっている人は世帯主の人には多くみられたのですが、女性や次世代の方々は少ないということがわかりました。そして農業を義務的にやっているという人は、どのカテゴリーの人でも3割くらいでした。また次世代の人たちで今後農業を本格的にやってみたいという人は15.9%あり、少し目があるのかなあと感じました。

画像ka26
地区全体の土地利用意向
 
 同じように地区全体の土地利用意向を質問してみると、農地と都市的土地利用が半々という意見が最も多い意見でしたが、主には農地的土地利用との意向が8割近くとみることができ、土地利用全体は農を主にしていかなければという意見が多数であることがわかりました。協議会もこの数字に勇気付けられました
画像ka27
将来の農地利用意向(複数回答)
 
 将来の農地利用意向として販売農業以外の様々な農地利用に関して聞いてみたところ、「直売所用の野菜作り」などは所帯主の方が多かったのですが、女性や次世代の方々は「農地を守りたいけれども、いろんな仕組みでやっていったらよいのではないか」という意見も多くありました。女性の方は「季節感あふれるお花畑などでもよいのではないか」という意見も多くありました。

 平成12年に都市計画法が改正されて既存宅地制度が撤廃されました。堺市の方でも34条8号3を運用して、市街化区域から250mの範囲は開発がしやすくなりました。こうした状況の中で、農家もしっかり勉強していかなければということになり、大学に依頼がきて市街化調整区域のまちづくりについての講演会などを行いました。

 また人づくりと意識啓発というものは勉強だけではだめだということで、地域の方に農空間のことをわかっていただくために、広報誌などで紹介したり、休耕田を使った田植えや稲刈り体験を行いました。また堤にコスモスを植えてきれいにする試みも行ってきました。堤のコスモスは金岡南中学校の方が苗を育てて、子供会の子供たちに植えていただきました。このように農の豊かさを知っていただく活動も行ってきました。


土地利用ビジョンづくり

画像ka23
 
 いよいよ土地利用のビジョンづくりという段階の話になりましたが、その前に大切にしたい考え方としてまちづくりの理念を整理しました。

     
     (1)豊富な地域住民の個性・能力を集め、活かし、みんなで地域を運営していこう
     (2)農空間や神社などの地域の宝物を守り、まちの個性を磨き続けよう
     (3)農地を整えつつ、暮らしを支える都市的な利用に応えよう
     (4)次世代を担う子どもを地域の人材と環境を活かして、育てよう。
     (5)時代の変化やニーズに対応できるしくみを作ろう
 
 (3)は適切に都市的な土地利用を考えようということです。

 また(4)は先ほどの稲刈りや田植えなどの体験と関係しています。

 いよいよ理念が出来上がったので、もっと課題別に重点的に考える組織が必要だということになりました。農のことを重点的に取り組む農業部会、集落のこと全体を考えるくらし部会を作りました。その中で神戸市の人と自然との共生ゾーンの先進事例を勉強しにいったり、農家の方に農業継続意向調査などを行ってきました。またどこに優良な農地が存在し、農道や水路の状況がどうなっているのかを整理してきました。

画像ka30
 
 A〜Fの区域は市街化区域のエリアで計画的に市街化を進めるエリアになっています。また地区の東側は基本的に農業保全区域にしようという意見になりました。一方で大きな道路があるところではいろいろな建物が入ってきているので、集落居住地域として切り出して考えてもいいのではないかという意見にもなりました。そして市街化区域に非常に近いEのゾーンでは、ここの地権者だけが集まって重点的に土地利用を考えてもよいのではという意見になりました。

 また都市計画道路が通るところでは、出来るまでは徹底的に農業保全区域として頑張っていこうということになりました。このように土地利用ビジョンを考えました。

画像ka31
 
 そして地権者合意を進めていくために、地権者集会を3度開いて土地利用ビジョン案の説明と修正を行っていきました。

 説明と修正の中で、農地を守るための基盤が整っていないので農地は守れないという意見がありました。実際、地域には軽トラが入ることの出来ない未接道の農地がたくさんありました。しかしここは市街化調整区域の白地のため、大きな事業は入れることができません。

画像ka32 画像ka36
車の通れないあぜ道 土が流れるのを防ぐ板の設置
 
 そこで、どこに未接道の農地や細い農道があるのかを再度調べていたところ、大阪府の方から府単独農空間整備事業というものをやってみないかという働きかけがありました。これは府が資材は出すけれども労力は地元が提供するというものです。道ぶしんで農道を自分たちで作っていきました。土が流れるのを防ぐ板を設置したり、水路に蓋を設置したりしていきました。そして地区内で200mほどの農道が出来てきています。

 こうした取り組みが評価され、今年度、豊かな村づくり全国表彰で農林水産大臣賞を受賞しました。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ