奇跡の星の植物館とまちづくり
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植物園とまちづくり

 

これからの植物園像とは?

 大きな傾向としては、地球環境の悪化、食料問題から環境保全型・環境教育型植物園はさらに増えてきています。また新しい植物園の動きとしては「古いもの、古典に目を向けよう」という流れになっていて、浜名湖花博で、江戸の園芸を取り上げたのがこの流れの発端なのですが、浜名湖花博語、国営昭和記念公園には盆栽を展示する国営盆栽苑が公の施設としてはじめてできました。 今まで日本になかったのが不思議なくらいで、むしろ欧米の方が早くから盆栽に注目しており、アメリカの国立樹木園やブルックリン植物園には盆栽コーナーがあります。今までの植物園にはこうした伝統文化を継承するというテーマはなかったのですが、日本人が独特な感覚で築き上げた文化を守ることの大切さを外国の人々に教えられて気づいたのです。これからは伝統園芸植物を取り上げる所が出てくるでしょう。

 日本の植物園はパーク&レクレーション施設として生れたこともあり観賞・学習機能が主要で、欧米の植物園に比較して社会との関わりが余りありませんでした。しかし、地球環境の悪化、食糧不足、経済状況の悪化に伴う格差社会の出現、コミュニテイの崩壊、国家力の低迷、倫理観の喪失と社会状況の悪化に伴い、「環境緩和・再生」にとっての植物の重要性、食糧、医薬における「資源」としての植物の重要さ、花・緑の「癒しの効果」、人と人の「交流」「コミュニティの連帯感」を生み出す「植物の力」に気づき、さらに、経済状況の悪化から植物園の存在価値が社会性・経済性という視点から点検されるようになり、花緑を感覚的なもの位置づけていたことから植物の社会性、経済性に気づき始めたのです。

 今後、益々なくてはならない物であることに気づき始めると、植物園が社会再生システムづくりに重要な役割をなす施設であること、植物園の中にこそ新分野、新規開発のSeedがある事が見えてくるのです。

 植物園をいかに活かし、地球再生を行うかが次に時代をいかに乗り越えていけるを決めるといっても過言ではありません。

 今後の植物園の展開は以下のタイプを整理できるのではないでしょうか。

     
    (1)感動創造型
     五感に刺激を与えることで、都市生活者の五感を磨き、自然を感じ取る、読み取る力を磨き、動物としての野生の感覚をよみがえらせる植物園。
    (2)環境保全・植物保存収集研究型、
     人間の生存維持をかけて有用植物の遺伝子収集、地域固有の植物種保存−薬品会社、宇宙開発産業とのコラボレーション。
     地球環境の保全・再生。
    (3)環境教育型
     花育、食育、植物、昆虫に触れることから自然のシステム、共生のシステムを学ぶ。
    (4)ライフスタイル提案型
     共生のライフスタイルと共生の空間づくりを家庭から都市スケールまで提案する植物園。つまり人工環境下において、いかに魅力的、低エネルギー社会・循環的共生空間を形成するか、建築・照明・エクステリア等の産業とのコラボレーションで実験提案していく植物園。
    (5)伝統文化継承型
     1)地域性・伝統性を継承する花のまちづくり型植物園。
     地域の自然、固有の伝統文化や伝統工芸・産業を取り込んだ個性溢れる地域づくりに貢献する植物園−地域伝統産業・工芸ともコラボレーションによる地域振興型。観光振興型。
     2)伝統園芸植物園
     世界が憧れる日本の伝統園芸文化を継承するとともに、現代の暮らしの中でも継承できるデザインの開発等を行ない、海外に発信できるジャパンブランドづくりを行なうとともに後継者育成を行なう−世界を舞台にジャパンデザインを売る・世界の観光客を集める植物園。
    (6)まちづくりインキュベーター型植物園。
     市民が花のまちづくりをデザインから運営・管理まで体験的に学べる植物園。
    (7)産業創造型植物園。
     植物保存収集研究型が薬品、食糧、ライフスタイル提案型があらたな建築・エクステリア、照明等実験研究が新たな分野や商品開発をすすめる。
 

奇跡の星の植物館のSeedとは

 奇跡の星の植物館のコンセプト・展示内容でお話したような内容で活動している奇跡の星の植物館が持つSeedとは何かと聞かれたら、まだまだ、形にはなっていませんが、ひとつは植物の巧妙さ・科学性を美しさの中からを読み取る力を養う場、共生の文化のすばらしさ、そのライフスタイルを築き上げてきた先人の偉大さの「気づき」の場の提供。さらにはその共生の文化や伝統を継承するための、異分野交流、デザイン、技術開発、商品開発、人材、マーケテイングシステムを構築する場。もうひとつは温室という人工環境を活かし、都市空間で「共生のライフスタイル」を構築するための、空間デザイン、環境調節(光、温度)、植物、エクステリア・資材の新規開発とシステムづくりの実験の場といえます。

 つまり様々な分野とコラボレーションしながら、花と緑の感動空間創造していく、花と緑のコンベンション拠点といえます。


奇跡の星の植物館のこれからの展開

 今後の展開としては次のようなことを検討しています。

1)ガーデンルネサンスで夢ひらくフラワーアイランド
 ガーデンルネサンスとは、先ほどお話しした地域性や伝統性をガーデニングで継承する運動です。つまり淡路島の人々が自らの力で、地域性、伝統性を踏まえた景観作りを行い、花のまちづくりへつなげていき、淡路を活性化させていくということです。

2)花とみどりのコンベンション−夢コレクションの開催
 パリコレクションが世界の毎年のファッション界の流行を提案していくように、夢コレクションは夢舞台から2年に一度、世界にむかって花と緑のあるくらしのあり方つまり共生のライフスタイルを空間デザイン、緑化術、植物・エクステリア等の情報発信を行うイベントを開催するということです。

 夢舞台は国際会議場、ホテルもある所です。花の施設がある所でそうした設備が整っている所って、世界中探してもそう他にないんですよ。

 今、東京ではいろんな緑化のイベントが行なわれていますが、東京ドームを使っても3日で10万人の入場者が見込めないのが現状です。こういう催しは、専門家だけが来てもしょうがないですよね。

 一般の人もやって来る楽しく、美しい空間にあり、ドームのように単体の製品を紹介するのではなく、植物館を実験の場所に継続的研究を行った結果を見せながら商品紹介を行うのです。

 今は園芸が低迷している時代です。それは生産者が売り手側の利便性を考え、買い手のニーズを読まずに生産していることと、また、反対に、買い手のニーズに振り回されて毎年商品が変わり、使い勝手の良いものでも1年で勝負し、無くなってしまっていることがあるということです。

 私たち奇跡の星の植物館がコンベンション(=夢コレクション)という形で、一つの植物はこうも使えるなどの提案をして業界を助けてあげることになればいいと思いませんか。また、業界から新しいものが出てくれば私たちが飾ってあげるし、研究開発してほしいものがあれば一緒に開発するなど、いろんな展開の仕方があると思います。

 淡路花博は、震災復興事業の色彩が強く、夢舞台が自然の再生の場であるという今日的環境再生テーマを持っている所であるという一般的にはイメージがありません。

 夢コレクションは灘山を中心に雑木林の再生の技術手法を継続的実験結果で見せて行き、植物館やコンクリートの安藤空間は、都市空間への新たな緑化手法・植物素材、空間デザインを2年に一度または3年に一度提案していくものです。

 世界の人々が注目するような新技術に加え、日本の伝統園芸や伝統工芸が生み出す新たな世界を提案していくことにより、ヨーロッパのフラワーショー、エコビジネスコンベンションとは一味ちがった物となり、世界から注目を受けることになるでしょう。

3)淡路島自生のフウランの里プロジェクト
 奇跡の星の植物館が行っていないのは、地域植物資源の収集保存です。そこで、フウラン再生プロジェクトを始めました。

 淡路島にもフウランは自生していたのですが、多くの人が捕獲し、現在は自然のフウランが少なくなってきました。ラン展を震災10周年記念イベントとして始めたことをきっかけに、淡路島の子供たちと一緒にフウランを再生していくプロジェクトを始めることになりました。種から蒔くと花が咲くまでに5年ぐらいかかってしまうので、6年生が種を培養し、卒業記念として、翌年の1年生に種のフラスコをプレゼントし、次の子供たちへ引き継ぎ花を咲かせ、また、同じことを継続していくという形を考えています。

4)企業とのコラボレーションによる共生のライフスタイルの研究開発
 多くの植物園は遺伝資源収集保存を研究課題としてきています。高知の牧野植物園はすでに食品会社や薬品会社とコラボレーションを行っています。奇跡の星の植物館が持つこの人工環境空間を活かし、都市環境における緑化術、そのための環境調節(光、水、温度)機材・エクステリア開発等を行っていくこと。また、瓦、土壁等チ地域の伝統産業を生かした新たなジャパンブランドづくりのためのデザイン開発をコラボレーショで進めて生きたいと考えています。


辻本智子環境デザイン研究所と植物館の関係

 ところで、私の事務所と植物館の関係はどうなっているのかを、お話ししておきます。奇跡の星の植物館は県立の施設で、県から淡路花博協会が運営管理委託を受けている形です。辻本事務所はプロデューサー会社として企画運営支援という形で、花博協会のスタッフ、または、淡路島の造園屋さんを指導してきました。基本的には、すべてをやりながら、プロデューサーといわれながら、県との関係では1業者扱いされていると感じです。植物館の方針には何も口は出しませんが、夢舞台全体に対して口出ししされたくないし、口出してもらっても自分たちでは何もできないと言う感じです。

2005年度より全スタッフが私の会社の社員となりました。指示命令系統が明確になりました、それに加え金銭的責任も辻本事務所が負わされているといっても過言ではありません。

 私は器とスタッフをいただき、様々な実験を行いKnowhowを蓄積することはできています。しかし、兵庫県のために展開できているのかと言えば、入館者が増えることで貢献している程度でしかないのではと感じます。また、辻本事務所が指導しているスタッフは県で言う日歩雇用待遇なので、スタッフの待遇を上げることも、専門職レベルの人を入れるのも、金銭的負担はすべて辻本事務所が負わされているのです。別にそこまでしてもらわなくてもと思っているのではないかと感じることも多いです。

 国営公園、(株)夢舞台、温室に辻本事務所、花博協会、国際会議場と様々な組織が入り込んでおり、運営をややこしくしています。今後は夢舞台地区だけでも、組織がひとつになることでコストダウンを図るべきです。


牧野植物園に学ぶ

 先週の土曜(2008.2.16)に、高知県の牧野植物園で50周年記念パーティーが開かれました。ここのパーティチケットは8千円もするんですが、やはり牧野はすごいと思ったのは招待客や知事・議員さんなどのエライ人に混じって、普通の人が280人も来てたんです。彼らこそが牧野植物園のファンクラブの人たちなのですね。

 牧野植物園は高知市の五台山にあり、高知の人にとっては牧野博士と遠足に来た五台山は共に特別な存在です。議員が挨拶の中で、牧野植物園が高知にとってどれだけ大切か、牧野博士と現在の小山園長の子供時代の出会いのエピソードを新しく選出された若い知事や県民に伝えるように話、さらに「四国の道路を全面整備する前に、牧野植物園をちゃんとした形にして高知に来た人が立ち寄れるようにしたい」と熱い想いを語っていました。

 牧野植物園の理事長は、以前は高知県知事の橋本大二郎氏が務めています。私も、理事や評議員をしていますが、牧野植物園は知事が応援団の先頭に立って、小山先生の方針が進められるように、守ってきてあげていたと思います。

 牧野植物園は10年前リニューアルし最初は18万人であったそうです。それが3年もたたないうちに、5万人になりました。園長はフラワーパーク化を図り、入園者を増やそうと思いましたが、それをしても収入的にはあまり上がらないだろうということから、最初は研究に力を入れて研究型植物園の色を強めました。研究型になってからは県民から批判を受けたそうです。しかし研究型の効果は5年目くらいから目に見える形になってきました。

 そして、研究型の目途がついた50周年記念に日本のフラワーガーデンをテーマに長い間手が入ってなかった南園児日本の伝統園芸植物園を創ったのです。

 牧野植物園は牧野博士の莫大な量の図書があります。牧野博士は色々なことに興味をお持ちの方だったので図書も凄い量です。江戸の園芸ブームを語る浮世絵や本草書もあり、伝統園芸植物園の内容をさらに高めてくれます。

 今回パーティーに参加し、やはり、これだけの応援団が持てる植物園にならないと生き残れないのだと私は強く感じました。だから、私も淡路で応援団を作りたいんですね。「この植物館をなくしてはいけない」と思ってもらえる植物館になるためにはまず地域の人と一緒になって、いろんな活動をしていきながらファンを増やしていこうと思っています。

 県費が下がり、今は植物館がかんばレ場、がんばるほど辻本事務所に経費がかかってしまうしんどさがありますが、いずれ「このお金を自由に使っていいよ」と言って、自らのお金を植物館のために出してくれるファンを作ってみようと思っています。それをやっていかない限り、植物館は成り立っていかないでしょうから。

 皆さんは、「植物園が商品を売ってお金儲けするとか、新しい物の開発をするとはどういうことだ。」と思っているでしょう。しかし、そんなことを行っている植物園が世界にあることも御存じないだろうと思います。しかし、植物園にはいろんな可能性があるのです。世の中の人は、植物園がどれだけ世の中の役に立つか知らないのです。建築関係の人も、今一生懸命緑を取り入れようとしていますが、私から見ると機能ばかりしか考えていなかったりします。植物の持つ力のすごさ、植物園の大切さを植物館の活動を通して、そのことをもっと訴えていきたいと思います。

 今日のテーマである「植物館とまちづくり」、うまく話せたかどうか分かりませんが、これで私の話を終わります。


締めくくりコメント

鳴海

 今日はとても興味深いお話しをしていただきました。今、東京を除くと日本中が大変な時代ですが、こんな時代だからこそ明るい未来をどうしたらつくれるかについての話題をもっとみなさんから投げかけてもらえたらと思います。

 僕ら自身の仕事も、大変な状況の中にありますが、めげずに一緒に頑張りましょう。辻本さん、今日はどうもありがとうございました。

 (都合により質疑応答はカットしております。ご了承ください)。

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