私の本では、チャールストン、バーリントンの他、計五つの都市を紹介していますが、ここでは残りの三つの都市について、その要点に絞って紹介したいと思います。 三つの都市
いきなり結論になって恐縮ですが、デービスのポイントは次のとおりです。 1)ゆっくりとした成長を志向し、将来をしっかりと管理できるような計画を有していること。 マスタープランにゆっくりとした成長を明記しています。成長を否定しているわけではないのですが、急激な成長は住民、都市に対してマイナスの影響を及ぼすという考えから、こういう計画を採用しました。 2)農業と都市が共生できるようファーマーズマーケットを開催し、また農地を市街化から保全していること。オープンスペースを保全することにより、農地を市街化から守っています。 3)新しい知恵やアイデアを実現させるコミュニティのプラットフォームを有していたこと。 4)自転車によるネットワークをしっかりと構築し、その普及に努めたこと。 5)市民参画を積極的に促し、人びとに行政への参画意識、コミュニティへの将来への責任感を醸成させたこと。
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この時、人口は1万人足らずでしたが、「ボルダー市改善協会」という組織を設立し、オルムステッド・ジュニアに将来計画を依頼するんです。オルムステッド・ジュニアはハーバード大学のランドスケープ学科を設立したオルムステッドの息子さんで、当時アメリカ最高のランドスケープアーキテクトと考えられていました。この時、お金を払ったのは市ではなくて住民です。
オルムステッド・ジュニアは1910年に『ボルダーの改善計画』という報告書をまとめあげ、その中でボルダー市の将来像を提案しています。市民はなんと今日までそれを忠実に実現しようと頑張ったんです。
都市の将来像の中にはグリーンベルトの重要性に触れていて、ボルダー市は消費税をアップして、その分でグリーンベルト用の用地を買い進めてきました。日本でも帯広市のような事例もありますが、ボルダーはそういうことを現在でも積極的に推し進めています。
また、都心の整備では自動車を排除した中心市街地を作り上げました。これはバーリントンととてもよく似ているのですが、歩行者専用道「パールストリート」を整備しました。
それ以外には、成長管理政策を導入しコンパクトな都市を維持していること、脱自動車のための政策を展開していることが特徴です。脱自動車の政策とは、大赤字なんだけどバスを走らせていることです。人口10万人の都市でバスを運行したら赤字になるのは当たり前なんだけど、それでも15分間隔でバスを走らせています。赤字なんだから公共交通をやめろと言い出したら、その地域はどんどん衰退する一方です。ボルダーは大赤字でもバスを走らせていることを強調しておきたいと思います。
1)市民が強い意志を有して、望ましい都市像を実現するために継続的に努力をした。オルムステッド・ジュニアのマスタープランを愚直に実現させようと、継続的に努力をしてきたことです。
2)将来の都市像をしっかりと構想し、その実現のために長期的な政策をしっかりと展開してきた。
3)奇抜と思われるような新しいアイデアでも、とりあえず実践することによって、問題解決のヒントを得ようとしているのがこの町の特徴です。
どういうことかと言うと、ボルダーは「ダメモト」のアイデアがとても多いんです。例えば、無料の自転車を市内のあちこちに置いて自由に乗り捨てて構わないという自転車共有の事業を始めたことがあったのですが、すぐに頓挫してしまいました。新しいアイデアをどんどんやっていけば、そのうちのいくつかは成功することがあるという考えです。チャレンジ精神に富んだ都市です。
そこがこの町の素晴らしい点ではないかと思います。
ボルダーの試み
ボルダーの位置
なんと言ってもボルダーはグリーンベルトをしっかり整備したことがあげられます。グリーンベルトの重要性は1970年代から考えられていたのですが、ボルダーの場合、それ以前の1890年代の時点で将来の都市像を市民が検討していたんです。
ボルダーのポイント(ここが素晴らしい)
次の3点があげられます。
この市民が作ったチャタヌーガ・ベンチャーは将来のチャタヌーガのビジョンをみんなで考える組織です。そこで出たアイデア20個ぐらいについて、みんなで議論していくんです。教育、交通、福祉などいろいろあるんですが、おもしろいのは「行政」という項目です。「市役所のこういう制度はおかしいから変えてしまえ」という意見が出たら、本当にその制度が変わってしまうんですね。チャタヌーガ・ベンチャーで選挙区のあり方が不公平だという意見が出たときも、本当に選挙区が変わりました。
そのシステムは面白くて、例えば「自転車専用道が欲しい」と誰かが言ったとすると、その言った人がいきなり責任者となってNPOを立ち上げ、事業を進めるというやり方です。市民参加の取り組みの手法としてはとてもおもしろいことをやっていると思います。
2)都市デザインにより、アクセスを強化し、空間アメニティを向上させ、人びとを都心そしてリバーフロントに惹きつけ、そこを市民が集い、交歓する広場として再生しています。
ここのリバーフロントの都市デザインもバーリントンを手がけたカー・リンチ・デザイン事務所が担当しました。1980年代半ばに彼らが着手するのですが、バーリントンもチャタヌーガもほぼ同時期です。
3)事業を具体化するためには、行政に任せないで、積極的にタスク・フォース的組織を設立したことです。
先ほども言いましたように、言い出しっぺがいつの間にか事業のリーダーになっているシステムのことです。
またチャタヌーガではリサイクル事業にとても力を入れています。ちょっとここで説明しておきたいのは下の写真です。彼等は精神病の患者さんでして、ここでは病院施設とリサイクル施設を併設しているんです。彼等は分別するときの集中力が普通の人よりも優れているらしいんです。
その集中力を生かして、社会福祉とリサイクル事業を融合させた施設を作りました。そういう工夫も面白い都市です。