アメリカ中小都市のまちづくり
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五つの事例からわが国の中小都市が得られる知見

 

 この五つの事例を通して、共通する知見といったものを九つのキーワードで整理してみました。幾つかは今日は説明できなかった事柄もあげていますが、詳しくは本を見てください。

 この知見が日本の中小都市でも活かせて、住んでいる人たちが幸せになるためのヒントになれば幸いです。これを今日のまとめとしたいと思います。


1)市民の力を活かす

 まず市民が中心に動くということがあげられます。都市の将来像を市民が集い、市民が中心となって検討していくこと。その実現のために、ある時は行政を動かし、ある時はチャタヌーガのように頼りない行政の組織を作り直し、ある時は行政外にタスクフォームという名の実行部隊を作って市民が計画を遂行していくことです。

 五つの事例を例にとると、チャールストンの歴史保全、バーリントンの歩行者専用道路事業(原動力となった2人は要職にあった人ですが、行政ではありませんでした)、デービスの駐車場跡地利用、ボルダーの成長管理、チャタヌーガのリビジョン2000がこれにあたります。いずれも、都市の変化を促したのは市民の力でした。一言で言うと、都市のあり方を行政に任せるなということです。


2)キーパーソンが登場する環境を整備する

 まちづくりにおいてやはりキーパーソンが重要になってくると思いますが、私はキーパーソンは個人の質というより都市がその人を生み出したように思えるんです。スーパーマンのような人を待っているのではなく、そういう人が出てきやすい環境を整えることの方が重要なのではないかと思います。


3)将来を構想する

 豊かな都市を実現させる上では、その豊かさへの道のり、豊かさのビジョンを明確にして、市民で共有することが何より重要になってきます。

 例えばデービスの場合、オープンスペース開発が進展する以前に、保全するための財源を確保していました。何か問題が起きる前に、問題が起きることを事前に察知して対抗するための手段を確保していたことが大きいのです。財源が足りなくなりそうだったら、事前に確保できる工夫をしておくんです。デービスの場合は、消費税を上げてオープンスペース用地確保の財源を図ることを住民投票による条例を通して実現しました。

 チャールストンも1931年には歴史地区の保全をゾーニングで守れるようにしていましたし、バーリントンも大規模ショッピングセンターができる前にその動きを察知して、20年間その計画を凍結させ、その間にダウンタウンの魅力を向上させることに成功しました。

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左:ボルダー、右:コロラド・スプリングス
 
 ボルダーもグリーンベルトを確保し、成長管理を実施しました。ボルダーについてあまり詳しく説明できなかったのですが、写真を見ると、ボルダーとそれ以外の都市の違いがよくわかると思います。

 左が今のボルダー、右がボルダーと類似点の多いコロラド・スプリングスという町です。二つの町とも大都市デンバーの近郊に位置し、ボルダーはデンバーの北西、コロラド・スプリングスはデンバーの南にあります。

 1950年時点ではどちらの町も人口は4万5千人ぐらいでしたが、ボルダーが現在10万人弱なのに対し、コロラド・スプリングスは約37万人となっています。どちらもロッキー山脈の麓にある町ですが、コロラド・スプリングスは麓の方まで郊外住宅に浸食されています。

 つまり、ボルダーはグリーンベルトで麓の自然を確保していますからこういう光景は起こりえず、成長管理をしたから人口が10万人なのですが、コロラド・スプリングスは何の手も打たなかったから、そこまでの人口になったのです。

 似たような環境なのに、ボルダーに比べコロラド・スプリングスはずいぶんと環境が阻害されていることが分かります。ちゃんとしたビジョンを持った都市であれば、生活環境や自然環境を保全できているのですが、ビジョンのないイケイケの都市では元々持っていた良さをどんどん失うことになってしまうのではないかと思います。アメリカでは実はこちらの都市のほうが多数派ですが、それで良かったのでしょうか?。

 日本でも人口が増えることを発展だと思っていて、減るから大変だという風潮がありますが、もっとアメニティとか生活の質を高めることが発展であるという考えを中小都市こそ持つべきではないでしょうか。


4)市場メカニズムを信用しない

 アメリカは市場経済至上の国で経済的な力のある者が好き勝手やっているというイメージがありますが、今回取り上げた五つの都市では、それとは反対の動きを見せています。市場経済の是正に積極的に取り組んで、その結果大きな効果を生み出しています。

 例えば、先ほど話したバーモント州がなかなかウォルマートを開業させなかったという事例にしても、そんなことができるなら日本の大店法廃止は何だったのでしょうか? アメリカの圧力には勝てないと考えた我々日本人としては、愕然とするようなこともやられているんです。ただアメリカの場合、都市計画法は州法ですから、都市計画にルーズな州と、バーモント州のように厳しい州が混在しています。

 ともあれ、五つの町は市場メカニズムを全然信用してない点で共通しています。ボルダー市は赤字覚悟で市バスを走らせています。

 これらの街では、しっかりと市場をコントロ−ルし、望ましい都市像を実現するために市民が常に監視して、場合によっては行政を通じて干渉しています。つまり市場経済の好き勝手を許さないシステムが出来上がっているのです。

 また、市場メカニズムが暴走しないように、どの都市も厳しい規制を作っています。成長管理を行ったボルダーを例にとると、この地方特有のコットンウッドという木の高さ55フィート(約18メートル)を基準にして、高さ規制を行なっています。大学の建物は例外ですが、それ以外の建物はすべてこの高さ基準を守らないといけません。


5)小ささを活かす

 小さいということはフットワークが軽いということです。その軽さを活かして、ネットワークを緊密にし、望ましい将来像を構築すれば、経済成長・人口成長を是とする単眼的な考えから解放され、真の豊かさを考える一つのきっかけになるんじゃないかと思います。

 インタビューでもどうしてこんなにうまくいったのかという質問に「町が小さいからだ」と答えた人が数人いました。小さい都市であることのメリットを活かしていることが、五つの都市の事例から読みとれます。


6)都市のアイデンティティを強化する

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 この「都市のアイデンティティの強化」については、今日の話でも私の本の中でも繰り返していますので改めて説明するのは避けますが、5都市に共通して見られたことです。.

7)都市デザインに力を入れる

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 やはり「都市デザイン」が中小都市の魅力をつくるといっても過言ではないと思います。

 特にチャールストンのライリー市長さんのように「都市デザインとは公共空間のデザインである。そして、公共空間は人々の基本的権利である」という自覚が首長にあることが必要です。またライリー市長は「公共空間が豊かな都市は、市民がそれだけ豊かな共有財産を有していることになるのだが、多くのコミュニティは市民の利益を最優先させない開発をして失敗している」とも述べています。

 つまり、公共空間のデザインをしっかりすることによって、アクセスが改善し、人びとが公共空間へ帰属意識や愛情を抱くことになるんです。

 余談ですが、今日このドーンセンターヘ来るとき、建物は立派なのにアクセスが悪いことにがっかりしました。地下鉄の駅はバリアフリーになってますが、そこを出て道が渡れなかったらいやですよね。やはり、公共空間へのアクセスや動線は重要であるとここで言っておきたいと思います。


8)ネットワークを強化する

 このネットワークとは人のネットワークのことです。どの都市も小さいですから、外部の知恵をうまく使っているのが特徴です。

 特にチャタヌーガは外部のブレインをとても上手に使っています。デービスもオルタナティブな開発を検討していた時期があるのですが、そういうときも著名人(シューマッハ氏、パーマカルチャーのフクオカさんなど)を町に呼んでいます。自分の町に人材がいなかったら外から呼ぶ、それがとてもうまいなと思いました。自分の町の人的資源を有効に使うのが重要なんですが、いなかったら外部を使うということです。


9)環境を保全し、雇用を創出する

 ボルダーを例にとると、都市の成長管理政策をしたが故に、多くの企業や研究所が立地したがる町になりました。ですから、カール・ワージントンが提案したオープンスペースの保全はボルダーが行った最高の経済開発政策だったとも言われています。チャールストンも、歴史地区の保全政策をしたら、地価が15年間で4倍になったんです。

 市場メカニズムを押さえるとかえって経済的な価値も高める結果になっています。企業の進出や地価の上昇はマイナスの面もありますが、結果的に経済的な豊かさも付いてくるとも言えるんじゃないでしょうか。


まとめ

 五つの事例を通して、以下のようにまとめてみました。

 都市の本来的な目標はそこで生活する人が豊かさを日々感じられることであって、経済発展はその手段にしかすぎないのです。多くの都市に目を向けると、往々にして手段である経済発展が、人々の豊かさを犠牲にしても優先すべきことだと誤解しているケースが少なくありません。道路特定財源の話なんて、そういう傾向が見えますよね。何をしようとしているのか分からない。

 日本の中小都市は人口減少というトレンドを否定的にとらえるあまり、経済成長という政策を何にもまして優先するという姿勢がうかがえるようです。しかし、経済成長政策に邁進するより、そこで日々生活する市民の環境を豊かにし、環境を保全することで、結果的に大きな豊かさを確保できるのではないでしょうか。

 以上が、私が好きな五つのアメリカの町を通して考えたことでございます。ちょっと早足ではありましたが、これで話を終わらせていただきます。

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