京都−建築と町並みの遺伝子
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町家が建てられない京都市の景観指導

 

 さてここからは、京都市の景観行政、および日本の建築行政をたたくことにします。


●築250年の呉服屋

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 この家は築250年、床面積760平米ある呉服屋さんの建物です。豪商の呉服屋の立派な建物ですが、もしこの家を建て替えようとしても、今の市の指導だったら同じようには建て替えられないのです。防火構造にしないといけないからです。だから「壁はモルタル」「軒裏にこんな木を使ってはいけない、燃えない材料を張れ」ということになり、今の形の家はもう不可能になるのです。この家をもう一度建て直して、次の時代にと思ってもダメなんです。

 京都市は「伝統を残そう」と言う一方で、こういう大きな規模の町家を作らせない指導をしているわけです。それはおかしいことだと思いませんか。しかも、そういう指導をすることで、せっかく伝統の高度な技術を持っている左官や大工の職人の腕もつぶすことになる。京都はいったい何をどうしようとしているのかと思います。

 建築基準法上の防火建築物に対する怒りの疑問です。


●雁行路地

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 この路地は、建物としてはそんなにいいものはないのですが、とても生活の匂いあふれるいい路地です。雁行していて、目線といい、幅といい、「向こうに行ったら何があるんだろう」という気持ちにさせられます。

 しかし、こういう路地は2項道路と言って、法律では建物を新しくしようとすると道路中心線から2メートル後退しないといけないことになっています。だから、ちょうどいいこの幅は保てなくなります。京都から風物の露地がなくなるのはもうすぐです。

 京都のひとつの景観、町のありよう、もっと言うと町のコミュニティも「やめよう」と言っているのが今の建築行政だと思えてなりません。道路課や査察課という役所の部所が「法律は法律ですから、従わないといけません」と言うのが常なんですが、法律で縛られる京の町では、京が京でなくなります。法律がすべてなら査察なんていう課が必要でしょうか。コンピュータに全てのデータを打ち込んでおけば、人間なんて要らないでしょう。京都の町をより京にすることの相談課のはずですから。私はそう言って、役人と大喧嘩したことがあります。

 この路地のスケールこそが京都の暮らしを作り出したものであり、この路地の形こそが京の遺伝子以上のものだと私は思います。それを壊そうとする法律はどう考えてもおかしい。それが私の建築行政に対する文句です。


●伝統の路地

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 ここは辰己橋の路地です。写真の奥に辰己橋があり、そのすぐ横に桜の木があります。

 ここは、この路地の幅と建物が低くて空が抜けているおかげで、桜が綺麗に見えるんです。

 しかし、ここも2項道路、建物に何か手を加えようとしたら後退しなければなりません。しかも、ここは防火地域ですから木造建築が作れないのです。


●石階段の家

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 この家が建替をしようとして、確認申請を出したら役所から「平均地盤高さを出せ」と言われることでしょう。そして、平均地盤高さから、最高高さを制限されることになります。

 しかし、写真で見てお分かりのように今ちょうどいい高さの壁と階段になっているのに、平均地盤を出してどうしようというのでしょう。私は「こういう地形に合わせた形になっているのですから、そのまま素直に建てさせろ」と思うのですが、今は新しくこういう家を建てたいと思っても建ちません。


●祇園一力

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 みなさんもご存知でしょう、祇園の一力です。景観条例によると、壁は聚楽風の白またはしっくいにしないといけないことになっています。つまり、京都の最大の特徴である紅殻塗りの壁ができない。景観条例を見たとき私は思わず「ふざけるな」と言ってしまいました。景観条例を読んでいると、ホント腹が立ってきます。


●洋館建築

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 続いては洋館建築の例。今の景観条例のもとでは、写真の門塀に庇を付けろということになります。想像してみてください。「あほちゃうか」と思いませんか。


●たとえ建築基準法通りにしても…

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 さて、建築基準法に則って写真のように道路を広げたとします。しかし、ごらんのとおり電柱が建ち並らぶ有り様で、本当に道路幅が広がったと言えるのでしょうか。結局使える道路は狭いままです。こういう状況を放置したままで景観条例とは何事だ、と言うのが私のぼやきです。


●鴨川沿いの床

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 放置しておくのがおかしい事例をもうひとつ。これは京都の顔とも言える鴨川沿いの床ですが、この床の色が黄土色とか黒であるならわからんことはことはない。しかし、白のペンキ塗りが鴨川に合うとはとても思えない。なんでこういう白い床をほっといて、伝統的な形や色を壊すような条例ばっかり作るのでしょう。「他にやることがあるだろうが」と言いたくなりますね。


●築130年の料理旅館

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 築130年の料理旅館・鮒鶴の建物です。3階建て・1050平米の壮大な木造ですが、これも二度と建て替えはできません。しかし、この建物は京都の歴史を見続け、歴史を担ってきた建物なんです。


●京都の川床

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 これも京の顔である川床の写真ですが、これを見るたびに私は京都の人は頭いいなあと思ってしまいます。夏になると、こういうところで鮎を食べるんですよね。これこそが京都の景観であり、これを求めてみんな京都にやってくるわけです。

 こういう空間をこそ大事にしろと私は声を大にして言いたいわけですが、今の法律では普通は河川法違反になってしまうんです。変だと思うでしょう?。


●銘木の建物

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 北山銘木組合の建物で、私はこれが京都の木造の中ではナンバー1だと思います。全部木造の板張りで吹き抜け。しかし、これも新しく建て替えることができません。防火区画をつくるために、吹き抜けをやめないといけないからです。しかし、そうすると今度は風が入らなくて北山杉が乾かないんですね。法律に従うと、木を育てることができないのです。横に置くといいらしいのですが、それだと木が反って北山杉にならないのです。

 持ち主の組合に「後々はどうされるんですか」と聞きましたが、建たないようになっていると言うことでした。再生したいんだけどさわれない、それに対し京都市は「シャッターを下ろせ」と言っているそうですが、僕としてはそんな指導「アホとちゃうか」というところです。


●貴船の農家

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 貴船の農家です。貴船にはまだこういう藁葺き屋根がまだまだあります。でも、京都の町中ではこういう屋根はだめなんですね。建築基準法には銅板または鉄板または瓦と書いてあります。防火のためだという理由です。

 しかし、家を建てる人が火事を起こそうとして建てるわけはないわけで、家を守ろうとする姿勢があれば火事は出さないでしょう。火を出すことを考えるよりも火を出さないようにする姿勢を考えないと、京都の町はよくならないと僕は思います。


●菊水鉾の金輪

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 祇園祭・菊水鉾で鉾を建てるときの使う金輪です。鉾は1本の木で建てるのではなく右の写真のように何本か添え木をして建てていきます。その時に鉄の輪っかでつなぐのですね。


●鉾立て

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 鉾立をするときはこういう風に荒縄で編んで組んでいきます。前の写真で分かるように鉾はまず寝かせて手元で作業し、それをぐっと起こしていきます。この巨大なものを起こす技術を持っているのは京都の職人だけです。

 この作業をしている人たちは僕が数寄屋建築を建てるときのチームの人たちで、彼らの技術があるからこそ伝統が継承されるんです。実はそれが言いたくて、この写真を出しました。例えば、阪神淡路大震災の時はこの人たちのチームで十数件の被災家屋を建て起こしました。傾いた大きな家もその技術で蘇らせることができるんです。

 しかし、今の建築現場ではこの人たちが実力を発揮できるような家は建たないんです。この人たちが持っている技術・伝統を持っていく場所がないというのが現状です。今の耐震構造は何でも金物を付けてやっていけという内容ですが、彼らの技術は縄で十分に剛性が出るようになっている。しかも動かない家と違って、祇園祭では鉾約15トンに数十人の大人が乗って都大路を動いていくんですから。それと比べたら、彼らの技術を生かせない建築基準法は何を考えてんだか。


●五条の陶器市

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 これは数ある京都の市の中のひとつ、五条の陶器市です。先ほどの川床の風景と並び、こういう町中のイベントこそ京都の景観だと思っています。こういうのがあるから京都はわくわくする町なんです。こういうことを考えるのが本来の景観のあり方であって、建物のことだけを考えるものではない。それをもう一度しっかり我われは考えるべきですし、町の人も考えるべきでしょう。


●先斗町歌舞練場

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 こういう建物に庇を付けて、歌舞練場が成り立つものでしょうか。


●舞妓さんと町並み

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 この光景で、僕は京都の景観条例を買おうと思ったんです。建物を低く抑えることで、舞妓さんのスケールと合っている。舞妓さんの背景が高層だったら絵になりません。風物と建築を合わせるために、建物の高さを抑えるのはいいことだと思います。所有者にとっては資産の目減りだと思うところでしょうが。

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