良好な景観形成のための建築づくりの枠組み
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検討委員会設立の経緯

 

 はじめに、今何故、国土交通省の建築指導部局がこのような検討をしたかについてお話しします。今日のお話の本題にかかわることなのでこれからすこしずつお話していきたいと思いますが、あえて一言で言うとすれば、わが国の経済社会の転換期にあって、これからの建築に関する社会システムをいかに再構築していくかというあたりにあるとお考えいただくといいと思います。このような言い方でわかりにくければ、もう少し具体的に、きっかけは大きく3点あると考えています。それは、住生活基本法、構造計算書偽装、都市再生です。


●設立背景1―住生活基本法―

 背景の一つ目は住宅に関することです。一昨年前、平成18年に住生活基本法という法律が成立しました。名前からわかるとおり、国の住宅政策の基本であるだけでなく、国民の住(じゅう、衣食住の住)全般に関して基本となる法律です。戦後の住宅不足解消からはじまって、高度経済成長やその後の安定成長を支えてきた、わが国の住宅政策を根本から大きく転換する法律です。

 住宅政策は住むところがない時代からはじまって、今、そしてこれからは住宅が余り、空き家が増える時代を迎えました。ただし国民の住に関する問題が解決したわけではなく、問題が全く様変わりしてきているわけです。例えば少子高齢化や地球環境問題への対応などがクローズアップされているなかでの住生活。問題に対して、対策を個別、後追い的に講ずるというやり方から、大局的な観点からトータルの戦略をもって対処していく。そんな時代になっています。

 景観はまさにそうしたアプローチが必要なわけですが、必ずしも住生活の中ではいまだ十分な位置付けが認められていません。住環境の中の一部というくらいの位置付けでしかありません。その原因を見つけていかなければなりません。

・ストックの時代、リフォームの時代になって景観はよくなる
 新築住宅が低調ですが、これからは中古住宅、既存住宅の再利用の時代を迎えていると言っていいでしょう。いいものを大事に長持ちさせて使う時代、リフォームの時代です。過去からの蓄積をどう活かすかの時代であり、それはまさに景観の時代と言っていいと思います。しかしながら、残念なことに、そのための準備ができていないので、その足がかりとして検討をはじめようということです。     

●設立背景2―構造計算書偽装問題―

 背景の二つ目は構造計算書偽装問題です。きっかけとしてはこれが一番大きいと思います。

 この問題に対しては様々な対策をしたのですが、当面の対策として3つの法律の制定を行いました。1つ目は昨年6月に施行された建築基準法の改正です。建築の確認や審査を厳格かつ円滑に行えるように改善しました。2つ目は改正建築士法です。12月までに施行し、設備や構造の特別な資格を持った方にきちんと審査してもらう仕組みや契約の前の説明義務等をつくりました。そして3つ目に来年10月に本格導入する住宅瑕疵担保履行法があります。この法律は住宅に瑕疵があった場合、必ず補修してくれるという制度です。住宅を建てた会社が仮に倒産したとしても、保険制度を設けることによって修繕の費用を必ず補償してもらえます。

・構造計算書偽装問題と景観問題には共通の原因が存在
 対策としてはこれで終わりですが、根本的な課題の解決のためには時間をかけた取り組みがさらに必要だというのが共通認識です。この問題は規制を厳しくしさえすれば解決できることではなく、腹を据えていろんな方面からの解決の方法が必要だと考えています。そして、この問題は景観がなかなかよくならない原因と関係しているのではないかと私は認識しています。問題を個別に見ると大局を見失うことになります。建築に対する考え方を時代にあわせて変えていく必要があります。

・国民を巻き込んだ景観づくり
 景観に対して大きな力を持っているのは、景観を気にしていない多くの一般の方々だと私は認識しています。同様に建築を気にしていない多くの一般の方々です。したがって、建築の規制を少し見直しましたが、それだけでは終わりではありません。建築の規制を見直すことは景観をよくすることと同じくらい難しいことだと思います。それは住宅基本法とも共通する、長い時間の中で形成された国民の意識や価値観に関わることだからです。次にすべきことは一般の方々を巻き込んでいけるかということで、そのための道筋を照らすために検討委員会を設立しました。これが設立の背景の一つです。


●設立背景3―都市再生―

 背景の三つ目は都市再生です。わが国では平成13年に都市再生本部の設置が閣議決定され、翌年に都市再生特別措置法が施行されました。その中で都市再生モデル調査が行われました。調査事業は日本全国約500ヶ所で実施され、住民や企業やNPOなどのまちづくりの取組に対し年間500万円程度、3年間の補助を行いました。その結果、それまでの都市再生の主体は国や公共団体でしたが、主体が住民や企業やNPOへどんどん広がっていったと思います。そして、今後はもっと広がりをもたせ長続きさせていく必要があると思います。

・CABEによる都市再生の手法
 わが国の都市再生は先行していた海外の事例、特にイギリスの事例を参考にしています。都市再生特区などもそうです。ただその一方で景観に関しては景観法ができていたにもかかわらず、相互調整が上手くいったかというと疑問です。すなわち都市再生と景観ということに関しては、あまり目を向けていなかったということでしょう。

 今回の検討で、海外、特にイギリスが進んでいるということが分かりました。CABEという組織があるのですが、彼らは景観をよくすることを雇用や失業と同じレベルで捉え、その重要性を国民に対して教育しています。CABEというとデザインレビュー制度で有名ですが、彼らはデザインの質をよくすることが国民にとってどういう意味を持つのか、暮らしの質を上げることにどう繋がるのかということを教育することに一番力を入れています。

・教育的観点を取り込む必要
 CABEのような組織は日本にもあるとは思いますが、国レベルではできておりません。CABEのような組織が日本に合うのかを考えなければなりませんが、教育的観点や人材育成という観点はもっと取り込む必要があると思います。景観法が施行されてから3年が経ちました。いろんなところで取り組みは始まっていますが、うまくいっているのか、中身があるのか、計画が理論に基づいているかが疑問です。多くの公共団体が計画をつくることだけに窮々としているのではないかと思います。国レベルでの取り組みが助けになると思います。

 CABEはイギリスの政治的背景と一緒に考えるとわかりやすいと思います。1999年CABEは発足し、時の労働党政権は、教育と学習、家庭とコミュニティ、雇用などに力点を置いていました。個人の市場と国家のほかに社会による多層的なネットを重視していました。CABEはまさにこのような考え方に根ざしています。これに近い考え方はいつでもどこでもあるものです。

 以上が検討の背景です。住生活基本法、構造計算書偽装問題、都市再生や景観法施行後の課題を見て、これまでの建築に求められていた理念や役割を組み直さなければいけないという意識を持って検討を進めてきました。

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