その客観性や共通の理解をつくっていくためには、共通言語を定めていくことが必要で有効だと思います。共通言語として、8〜9ページに挙げた、(1)地域固有の良好な建築景観がある、(2)街区・通りとの関わりを意識した設計・プランニングの重要性、(3)古い建築のなかに新しい要素を取り入れる、(4)建築物だけではなく工作物なども景観要素として考える、という視点などがあります。これらは、景観の固有性、運動性、歴史性、多様性といった言葉で広められます。
また共通言語といえば数値基準を頭に浮かべるかと思われますが、これはずっと先の段階にあると思います。公共団体の景観計画でも高さや色彩などの数値が入る場合がありますが、これはやりやすいから入っているのでしょう。しかしもっとやりにくい要素の方をまず大事にする必要があり、景観計画の中に盛り込んでいかなければなりません。そのためには数字で表しにくい景観を捉える幅広い視点や要素を、景観に関する指標として盛り込んでいく必要があります。その共通の指標づくりを国レベルでまとめてやるのがいいということです。
いろいろな段階でいろいろなチェックが入らないといけませんが、そのための方法論が各地でいろいろ考えられています。ガイドライン方式や委員会・協議会方式、またタウンアーキテクト方式のようなものもありますが、いずれにしても一長一短があります。京都の場合は、審議会形式です。どういう形式を選ぶかも重要ですが、むしろ選んだ形式をどう運用するのかの方がより重要になってきます。権利を侵害しないためには、いい加減な判断をしない方法を見つけなくてはいけません。一方で確立していない権利に対して紛争が頻発する状況にも、何らかの方法を考えていかなければなりません。
建築設計者の方々は、そんなに強い立場にはありません。逆に強い立場にあるのも現代では問題でしょうが。雇われて、基本的にお願いされたものをつくる立場です。それにしても、建築設計者が建築をデザインをする上では重要な役割を果たすのは間違いありません。時代が変化しているなかで、建築設計者がどうあるべきか、目指すべき姿が問われています。
建築家ひとりひとりの活動ではなかなか変えられないことも多くあるので、ある程度まとまって取り組んでもらう必要があるように感じます。いくら優れたデザイナーであっても、その優れた内容をどう分かってもらうのかという問題もあります。例えば東京の建築家が地方で設計をするとなると、突然落下傘のように地域に降りてきて、こういうものがいいと提案を行います。その時に、お互いに理解することがなかなかできません。住民や地元の設計者の方々が建築家と話し合いをしますが、それでも上手くいかないことも多くあります。あらかじめ、地域の専門家の人が間に入って、接着剤のように繋げてあげるといいのではないかという意見がありました。地域に落下傘が下りるには、お互いに準備が足りないということです。一人だけでその状況を変えるのは難しいと思います。
地域の建築家の人がこれから何をやっていくのかを考えると、例えば私が今関わっているリフォームの分野では、新築が減ってくる状況で、旧来のストックをどう活用していくのかにシフトしなければならないと思います。特に地域で活躍している建築家の方が、地域を活性化させる役割を担っていく必要があると思います。その中で、ストック活用をいっしょにやっていただける後継者を育て支えていく必要があると認識しています。
提言の紹介2〜建築景観の形成への視点
●良好な建築景観に関する共通の理解の促進
提言では建築景観をつくっていくにあたり、大きく3つの視点を取り上げました。まず、景観とは主観的な要素が強くて、なかなか客観性が無いという問題があります。しかし施策を打つためには客観性が必要となります。客観性がないのは、方法論の研究が進んでいないということも大きな原因となっており、諸外国でも研究が進められています。イギリスではその客観性を研究により解明しようとしています。日本ではそこまでされていない現状です。そのため現場の方は大変だと思います。自分自身でそれを勉強して解決しなければならないからです。そこで現場の皆さんが直面する課題を国レベルでまとめて、それを裏付けに現場の問題を解決できれば、重荷を背負った方々も楽になるのではないでしょうか。
●良好な建築景観を実現するためのデザイン調整システムの充実
10ページ目です。個々の建築をデザインするにあたり、色々な関係者がチェックを行います。チェックのシステムは、どんな設計方式を取るにしても必要になります。いちばんチェックが効いていないのは、入札による設計などで、これは法律とか条例を基にして、実際に設計された内容を審査していくことが必要です。ただしその場合でも人間がチェックするのですから、バラツキはでるのが自然ですが、現状はできりかぎり裁量が排除されるよう運用することが重視されています。
●建築設計者が果たすべき役割の再認識
視点の最後、13から14ページです。建築設計者が果たすべき役割を書いたものです。
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