コンバージョンが街をおもしろくする
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転用が進まない理由

 

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●容積率が大きすぎる

 ただ一方で、コンバージョンがあまり進まないので、実はイライラしているんです。その理由を僕なりに5つほど挙げてみました。

 その1つとして、自分が仕事をしていて思うのは、容積率です。都心部は特に容積率を上げていったわけですが、政治的なこともあったと思います。僕住んでいるんところは、600%です。そんなにいるのかと思うんです。これを不動産屋さん的に言うと、100%あたりいくらという土地の見方をします。容積率が上れば上るほど、当たり前のことですが、土地の値段は上っていって、土地の対価が上れば、建物の対価が相対的にどんどん低くなるわけです。そうなると土地のほうが値打ちがあるから、古い建物は壊せという話になっていきます。

 建築費が日本も上ってきたけれども、土地の対価が高いから、それならばとスクラップアンドビルドがどんどん進んで、まだ進んでいくなと思っています。ただそれも原油や材料代が上っていって、建築費がますます上っていくと予測されますから、そうなると良い方向に向かっていくのかなと。あと環境問題などがもっと言われるようになれば、変わっていくかもしれません。徐々に徐々にではありますが、良い方向には変わっているなと感じています。


●建設業に代わる産業育成の遅れ

 2番目に思うのが、建設業に替わる産業がなかなか出てこないということです。ITだ、何だといわれましたが、日本は遅れていましたし、90年代は製造業であぶれた人を全部建築で受け止めたりもしていました。そうしていると大赤字ですから、公共事業がさすがに減ってきたりして、それも改善方向に向かっているとは思うのですが、やはりその関係に働いている人が多い。でもその人たちの仕事が急になくなったら、また経済が悪くなると言われています…。

 しかし僕は新築であれだけ利益率の低い工事をやっていることを思うと、リノベーションのほうが利益率は断然高いと思うし、こちらへうまく人がシフトしていけば良いと期待しています。そのためには大学の教育も重要でしょうし、建築業界の中でも、そちらをやっている人の方がカッコいいんだというような、ゼネコンの中でも転用部隊とか、リノベーション部とか、コンバージョン部の部長の方がちょっと偉そうにしているとか、ちょっとカッコいいサラリーマンであったりとか、そういうふうにならないといけないと思っています。


●旦那の不在、目先の成果主義

 あとは旦那がいなくなって、会社で方針を出す人、特に関西は本社が東京に行ってしまったので、即決できることがないということ。それから成果主義です。すぐに成果を求めるので、転用しても誰もほめてくれない。転用をもっとほめていく社会にならないといけないと思っています。

 やはりオーナーなどが「この建物、良いから遺せ」と言って、それをやった時にほめてくれないとダメです。補助金を出すのが無理なら、古い建物を残して使っていくことが「立派だ」と認識される社会をつくっていかねばならないと思っています。うちの社内のスタッフが古い近代建築のビルのオーナーを集めて、オーナーサミットをやっていたのですが、そういうことをやるだけでも脚光を浴びて、喜んでもらえたりしたので、そういうことをやっていくべきなのだろうなと思います。


●安全性や清潔感への過度の要求

 先ほどの耐震補強の事例がありましたが、あれもオフィスとして使っていたら、そのままあと10年使おうが20年使おうが認めているわけです。それを転用する時に、色んな人が「大丈夫か?」と言い出すわけです。新耐震の建物の方が安全ですから、それがいいに決まっているんですが…。

 しかし、それを言い出したら、転用している建物はたかだか40年で、40年前の技術をダメだというのであれば「ゼネコンは何をしていたのか」「建築士は何をしていたのか」と思うわけです。それはそれで業界も自分達の技術にもっと自信を持てばいいのです。もし本当に危ないのであれば、せっかく世界一の建築技術のある国なのですから、補強技術を早く確立して、世界に売っていく。

 今やたら建っている上海や中東などでも、どうせあと何十年かしたら、転用とかメンテナンスのことで、そういう技術を求められるわけですから、ゼネコンはまたそこで儲けるという発想でいかないといけないなと思います。やはり安全性とか清潔感に関しては、非常に過剰な要求があるなと思っています。

 例えばリノベーションなどでも、中古マンションを買って、リノベーションして住もうかと思っても、結果踏み切れない人というのがいっぱいいるんです。それは何故かというと、「なんか不安」とか「なんとなく人が使っていたマンションが嫌」という、潔癖症ともいえるような清潔感が、社会の中でどんどんどんどん蔓延していっているからです。

 それが、転用が進まない一つの原因になっているわけですが、一方で団塊ジュニアを中心とした若い世代には、まったくそういうことを気にしない人たちも出てきて、そのせめぎあいになっているのではないかと思います。上の資料では×とは書いていますが、いわゆる“地べたに座る”ような子ども達が中古をうまく使っていってくれる、今の僕らの世代が思いつかないような使い方をしてくれると期待も持っています。


●大きなコトが好き

 “男社会”と言いますが、“男社会”ではなくて、“男子(男の子)社会”だと思っています。

 「大きなコトが好き」とか「新築がいい」とか、取引でも額の大きい億の取引をしている人間が偉そうにしているとか、車でも大きい車の方がいいとか…。

 何故変わらないのかとも思うんですが、ようやく改善方向に来ているのかなとは思っています。例えばアメリカなどでもトヨタの環境に優しい車に乗っていたり、ロンドンでもあれだけ何を食べてもまずかった所が今は随分おいしくなってきて、それがしかもオーガニック系がかっこいいとか美味しいといった風潮(カナダなどでは随分進んでいたようですが)が出てきた。そういうふうに、“男子(男の子)社会”がちょっと変わらないといけないのではないか。

 これは意外な盲点で、これが変わるとコンバージョンも進むのではないかと思っています。

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