●堺市の着地型観光
着地型観光のひとつの例として、堺市の事例を紹介致します。
堺の一般的なイメージは重化学工業地帯の一つの都市、あるいは泉北ニュータウンなどのベッドタウンといったものです。関西には日本を代表する観光都市の京都と奈良、神戸がありますから、堺が観光都市であるとは関西人さえ思ってこなかったのですが、最近ちょっと様相が違ってきているのです。
不運なことに堺市は戦時中の爆撃を受けて古い町並みが大半焼失しましたが、かろうじて堺市北旅籠町あたりに山口家住宅や鉄砲鍛冶町の建物が残っています。また蘇鉄で有名な妙国寺や大安寺などの名刹もあります。伝統産業としては刃物があります。刃物は今でも料理の世界では有名です。あと線香や和菓子、そして自転車も有名ですが、これはどちらかと言えば近代産業と言えるものでしょう。ただ自転車も、鉄砲を作っていた伝統技術が産業の素地にあるようです。
さて、堺市の観光コンベンション協会では、地道に市内の伝統産業の関係者に働きかけ、その間にいわゆる老舗と呼ばれている伝統産業のお店のご主人たちと親しくなっていったんですね。実は最初のうちはどのお店も「ウチは観光とは無縁の商売だから」という対応だったらしいのですが、何回か通ううちに親しくなって話も聞いてくれるようになったそうです。そういう風にして老舗とコネクションを作りましてから、観光コンベンション協会は「堺伝統産業ものづくり体験ツアー」という旅行商品を旅行会社と共同で作ったんです。
もちろん旅行商品はプロデュースするだけじゃダメで、流通にきちんと乗せて集客しないと商品としては意味がないものです。協会には旅行会社からの出向者もおられて、その流通のルートもよく知ってますから、自分の出身の旅行会社だけでなく、いろんな旅行会社に声をかけました。それも地元の旅行会社にまず声をかけていったんです。
これがJTBの堺支店で実施されたときのチラシです。4つのコースを用意して、Aコース「お香づくり体験」、Bコース「こんぺいとうづくり体験」、Cコース「包丁研ぎ体験」、Dコース「和菓子体験」という内容でした。
実は私も、「包丁研ぎ体験」に参加致しました。午前中は、今でも刃物の鍛冶打ちをやっている所を訪ねて、実際に真っ赤な鉄を打っている所を見学しました。何百年も続いた職人さんの技が見られて、とても感動できる体験でした。お昼はたこ焼きを食べて、午後からは市内の刃物ミュージアムで包丁研ぎというコース内容でした。
このように、実際に職人さんが働いている所を訪ねるというような旅行商品は今までにないものでした。包丁に限らず、和菓子も線香もこんぺいとうも観光コンベンション協会が人脈を作ったことで可能になった旅行商品です。
地元の旅行会社が窓口になって実現したものですが、実はこれに先行して東急観光も同じシステムでツアーを実施しています。堺市もバス代を半額補助するなどで対応してくれました。
堺観光ボランティア協会の全面的な参画もあり、おかげで集客は相当な数に上ったそうです。参加者は地元からの参加者が7〜8割でした。まち歩き観光を実施すると、地元の方の参加がメインになるものですが、ここでもその傾向を示しています。あとは奈良、神戸、北摂などの堺市周辺から来られた方々になります。
●4-2 堺伝統産業体験ツアーの概略
このツアーは2006年度だけで3300人の参加を集め、大成功を修めました。
ただ集合を市役所前にしたところ、最初はそこに大型バスを止める許可を取るのが大変だったそうです。また、この市役所ビルは27階に素晴らしい展望が眺められる所があるので、そこにみんなを連れて行こうとすると、これも交渉が必要だったそうです。バスの発着場所の許可と共にねばり強い交渉を重ねて、ツアーの実現にこぎ着けられたわけです。これらのツアーの実現には堺観光ボランティア協会のボランティアガイドさんたちの活動も欠かせず、まさに住民が主体となった着地型観光の好例と言えます。
●4-3 着地型旅行商品の企画と流通
この例のように、従来は旅行商品として考えられなかった伝統産業の体験ツアーがなぜ成功したかと言うと、図のように伝統産業×堺観光コンベンション協会×堺観光ボランティア協会×旅行会社が協力し合ったという図式が考えられると思います。
旅行会社が直接老舗に声をかけても「ウチは観光とは無縁」と断られる可能性が大だったでしょうし、旅行会社以外でツアーを企画するのはライセンスの問題があります。コンベンション協会が間に立って企画・手配をしたからこそ可能になったツアーとも言えるのではないでしょうか。
ここで重要なのは、伝統産業と堺観光ボランティア協会という地元のコミュニティが主役になったということです。これは従来になかった観光のあり方ではないかと考えております。
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