着地型観光とまちづくり
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5 「観光まちづくり」の展開と「まちづくり観光」の分野

 

●観光対象を創る「まちづくり観光」は難しい

 「観光まちづくり」と「まちづくり観光」という話があります。尾家さんが紹介された猪爪範子さんは「まちづくり観光」を深い意味で使っておられますが、ここでは観光まちづくりは観光の手法を使ってまちを活性化する事、まちづくり観光はまちづくりを使って観光対象をつくることとしてお話します。

 私は前者、すなわち観光の手法を使って町を活性化させるということは有効だと思います。

 一方、後者、すなわち商業や文化施設を付加した大規模開発、駅前再開発など、まちづくりを使ってやる観光は、都会でしかできないんじゃないかと考えています。

 もちろん、地方都市でも歴史資産や文化資産があるところなら、歴史遺産を保全する、景観を整えるといったことを観光に結び付けることも可能ですが、普通の街で生活文化や自然環境などをメインにしようと思ったら、かなり限定された観光になるでしょう。

 今、着地型観光を手がけておられる方々は、おそらくそんな区別は付けておられないでしょうが、私が言いたいのは観光的手法でまちづくりに貢献することができるけれども、まちづくりを使って観光に結びつけようとするのは、まちづくりに興味のある人以外にはあまり面白いとは言えないということです。まちづくりを使って観光地をつくる場合は、アイデアを絞って魅力のある観光商品を作っていかない限り展開できないでしょう。

 まちづくり観光は重要なテーマであり、今後、発展していく可能性が大いにあると考えますが、まちづくりの中に観光的要素を入れ込み、感動や生活文化活動の魅力を呼び起こすものにしていかないといけないという意味で難しい課題としてとらえています。


●着地型も哲学先行の段階

 1980年頃から現れたもうひとつの観光の概念は、事業論ではなく理念論だと言えます。例えば、自分が楽しむのではなく、地球環境を守るだとか、自然環境を改善するなどの目的があるエコツーリズムなどがそうです。

 この間も、大学の学生さんを連れて、琵琶湖沿岸の草刈りに行きました。参加者には評判のいい催しでしたが、これは観光としてみると採算が合わないものなんです。エコという哲学先行の催しでした。これを採算が合うようにすれば、新しい観光の動きが起こってくると思うのですが、今はまだ哲学的なコンセプトづくりという概念の段階でしょう。着地型観光という言葉はいいのですが、これが一般に定着するには少し時間がかかるだろうと思います。

 しかし、現在JTBの社長のように観光や旅行のプロである人たちが「これからは着地型観光の時代だ」と言い切っているんです。なぜか。訪れた観光客に感動を与えられるのは、やはり着地型観光の魅力です。例えば、今までなら「祭を見に行く」だけでしたが、着地型観光なら地元の人の協力で「祭の中に入っていく」ことができる。もちろん観光客が入り込んではいけない部分があるわけですが、地域の方が加わることで入ってもらってもよい部分を増やせます。それによって臨場感のある観光のスタイルを提供していくことで、着地型観光は発展していくものだと思います。

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