集客都市・大阪の展望
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大阪における三つの展開〜水都大阪の再生、大阪ミュージアム構想、コミュニティ・ツーリズムの振興

 

 このような発想に立ちながら、この10年ほど、大阪の都市づくりに深く関与してきました。私の提案や実践を受けていただきながら、いくつもの事業が具体化してきています。今日はそのいくつかをご紹介したいと思います。

水都大阪の再生
 さて、我が故郷である大阪では、先ほどご紹介がありましたが、都市再生の一つとして水都大阪再生を国に提出しました。私はハード整備だけではなく、ソフトプログラムの必要性を強調し、具体化させてきました。認定された事業のなかで、またそこから派生してきたさまざまな事業のなかで私なりの考えの実践を展開してまいりました。

大阪ミュージアム構想
 また私は、大阪ガスエネルギー文化研究所の皆さんと、いわゆるエコミュージアムの大都会型の展開が必要だと議論してまいりました。それが橋下知事が提唱、大阪府が昨年度から展開しております大阪ミュージアム構想と響き合い、具体的な事業につながってきております。

コミュニティ・ツーリズムの展開
 もう一点は地域に根ざした観光のあり方で、私はコミュニティ・ツーリズムという言葉を使いました。この概念が大阪商工会議所と継続してきた勉強会を通じてひろまり、昨年から大阪市の観光に関する施策のなかでキーコンセプトになってきております。

統合型エンターテイメント都市構想
 新しいコンセプトとして、昨年からしばしば使っているのが統合型エンターテイメント都市、インテグレイテッド・エンターテイメント都市というものです。都市の諸施策と響き合う新たな集客都市づくりの考え方ですが、今日はお話しする時間もなさそうです。新たなキーコンセプトとして示しておきます。

 今日は今の三点の話、私なりの集客都市の展開事例として、水都大阪の再生、大阪ミュージアム構想、コミュニティ・ツーリズムの振興策について簡単にお話していきたいと思います。


●水都大阪の再生

必要とされる都市再生のソフトプログラム
 まず一点目の「水都大阪の再生」について少しお話しします。都市再生のなかで動き始めた事業でありますが、当初は八軒家浜の再整備、新線中之島線の整備等、道頓堀川のリバーウォーク等、ハードが中心で想定されておりました。私はアドバイザーという立場で関わっていた段階から、加えてソフトプログラムが必要だという話をしておりました。

 ようするに、水際、川沿い、ロの字型の水路空間は、重要な大阪の資源だということは誰もが認識するわけですが、それを使いこなす人びとがいません。まず人びとを水辺に、水際の魅力に引き寄せる機会をできるだけ多様につくるべきだと考えました。

シンボルイベントとしての「水都大阪2009」
 都市再生をめざして出した案のなかでも、ソフトプログラムにかなりの頁を割いております。そこでシンボルイヤーとシンボルイベントという考え方を明示しました。提出した段階では2007〜2009年の間のいずれかという曖昧な書き方でした。それがこの間いろいろ紆余曲折がございましたが、水都大阪2009となり、今年度をシンボルイヤーとする考え方にまとまりました。私がプロデューサーとなる夏のイベントでは、アートによる展開、市民参加プログラムの実施、ライトアップによる夜景の創出などが行われます。

大阪ブランドコミッティでの提言と上海万博
 そのほか、私は大阪ブランドコミッティで、水都のブランディングの委員長として提言をまとめたり、上海世界博覧会の大阪の出展プロデューサーも務める形になりました。

 上海世界博には皆さんぜひ行ってもらいたいと思います。世界の博覧会史上初めて「都市」が主題となる万国博覧会であり、しかも博覧会史上初めて、世界の都市が出展するゾーンができます。

http://www.jetro.go.jp/j-messe/pdf/expo2010china/2010_china.pdf

 万博のなかにベストシティ実践区という一画ができます。50をこえる都市がそれぞれの都市について展示をするエリアです。我が大阪の向かって左隣がビルバオ、斜め向かいがパリ、向かいがスイスの各都市というゾーン構成です。ここにあって大阪は、水に関する環境先進都市という主題で展示を実施します。

 万国博覧会の歴史のなかでも先例はないエリアになります。都市の意義を主催者として明確に示すために、上海市世界博覧会事務局がこのゾーンを用意をしました。エリアの一画に昔の発電所があります。大阪も出る展示館は工場の建物を転用して使うのですが、その発電所の煙突がシンボルタワーなんですよ。ご存じのように博覧会の歴史を見れば、パリの博覧会でエッフェル塔ができました。シカゴの万博で巨大観覧車がシンボルタワーになりました。今度の上海世界博覧会でのシンボルタワーは、かつてそこにあった発電所の煙突をそのまま残して、しかもそこに螺旋状のライドを巻き付けて上まで昇れるようにしています。その巨大煙突が、博覧会全体の一つのシンボルになります。日本でも歴史を活かした地域づくりだとか、建物のリノベーションが大事だとかいう話をしていますが、上海がそういうものを博覧会場で実践し、シンボリックに見せるということに私は驚き、また共鳴するところです。

中之島水辺協議会 新たな河川空間の利用で賑わいをめざす
 水都大阪2009を契機として、新たな河川空間の利用モデルを大阪から全国に示したいと思っています。現在中之島の周辺部では、規制緩和の結果、従来できなかった河川空間の利用が可能になりました。社会実験として川縁での飲食とか民間の業務が可能になります。そこで、その中之島水辺協議会の会長を私が務めながら、緩和をしながら新たな賑わいを作ろうとしています。また後でご紹介したいと思います。

水と光のまちづくり
 加えて水辺だけではなくて光のまちづくりを展開しようという考え方を、大阪で実践してまいりました。毎年12月に中之島周辺で光のルネッサンスというものを経済界および大阪市が進めてきております。これに関しては『光の景観まちづくり』という本でも紹介しております。これに大阪府も加わって水辺のまちづくりと夜景を作ろうという活動を合わせて、「水と光のまちづくり」に広げようという動きが起こっております。


●大阪ミュージアム構想

都市型エコミュージアムの提案
 二つ目にお話ししますのが大阪ミュージアム構想です。大都会型のエコミュージアムというもののあり方について、これまで研究会を進めてまいりました。その成果を
『大阪力辞典』というものにまとめています。市民が主体となって地域のことを考え、歴史遺産、文化遺産を活かした地域づくりを、大都会型のエコミュージアムとして展開したいと、これまで提案してまいりました。

http://www.osaka-museum.jp/index.php

橋下知事の公約「石畳と淡い街灯のまちづくり」
 ご存じかと思いますが、昨年来私は橋下徹大阪府知事の特別顧問、それからアドバイザーとして、大阪府のさまざまな事業に関して助言をする立場にあるのです。私に声をかけた理由の一つには、橋下知事の公約の一つに「石畳と淡い街灯のまちづくり」というのがあり、これをサポートせよということであったと理解しています。

 知事の意識には、大阪市内の船場地区、たとえば三休橋等で、私や鳴海先生が関わってきたまちづくりの先例があったようです。大阪ガスの100周年記念事業等でガス燈を寄贈して、街並みの再整備をしてきております。しかし舗装は地元負担がなかなかできないので従来の道路のままです。たとえば府下の各地にある同様の場所を石畳にしたらどうかというわけです。

http://www.pref.osaka.jp/koho/kohyo/chijihia/tosei1.pdf

 橋下知事はハコ物の文化行政に対してネガティブだとメディア等では報道されています。いっぽうで近代建築ないしは歴史的な風景を守りながら、なおかつそれを再整備していこうということを考えています。その辺りなかなかメディアが評価してくれないのですが、文化的・歴史的景観を大事にしようというのを公約にした府知事が、これまでいたのかどうか分かりませんが、今の知事はその辺りに強い思いがございます。

「空気感」という言葉
 私は「文化的景観」の意義を府庁で説いたのですが、知事は、専門的な言葉でなくて分かりやすい言葉を使われるんですね。それで知事が使ったのが「空気感」という言葉なんです。この「空気感」という言葉が、行政のなかのまちづくり、その他の担当者には最初はピンとこなかった。ただ文化的景観が大事だといっても、一般の市民になかなか理解されず、具体的なビジュアルイメージとして沸かないというのももっともですね。

 知事がよく例示されるのは、たとえば小樽運河は写真1枚あれば誰もが小樽だと分かる、行ってみたいと思う。ベネチアの橋の風景を見れば誰もがベネチアと分かる、行ってみたいと思うだろう。大阪にそういう風景があるのか、大阪の各市町村にそういうところがあるのか、そういうのを大事にして創っていくべきだ。多分そのようなニュアンスで「空気感」という言葉が出てきました。

大阪の街全体を一つのミュージアムに
 議論をするなかで、大阪の街全体を一つのミュージアムに喩えてはどうかという発想が知事から湧いてきました。さまざまな要素があり、各時代の大事なものが残っている、それは街全体がミュージアムだ、ということを強調した。これは私と議論するなかで知事から出た言葉なんです。それこそ、私がこれまで提案してきた都市型のエコミュージアムというコンセプトと響き合うものだと申し上げました。

 後で再度、紹介しますが、府独自の交付金等の事業として現在走りながら具体化を図っているところであります。

なにわなんでも大阪検定
 大阪ミュージアム構想と関連するものとして、以前から大阪商工会議所が準備をしていました大阪検定があります。私が副委員長を努める都市再生委員会で具体化したものです。私は大阪検定の企画委員長も兼ねています。大阪商工会議所が事務局です。昨年の秋に名前を公募しまして、「なにわなんでも大阪検定」という名称にしました。

 京都検定をはじめ全国各地で百をこえる「お当地検定」がございます。そのなかには失敗していると言われている物も少なからず混じっております。大阪は後発です。ようやく今年から取り組むわけですから、先行するさまざまな検定の良い点と悪い点を勉強したうえで、満を持して具体化したい。大阪の商工会議所を中心に、あとは大阪の大学コンソーシアムと大阪南大学コンソーシアム、堺商工会議所にもご協力いただく組み立てとしました。一回目の試験を今年2009年6月に行います。ぜひとも多くの人に受験をしていただきたいと思っております。ホームページでも情報を公開しております。

http://www.osaka-kentei.com/

 大阪検定と、大阪ミュージアム構想は大阪の歴史文化を深く知ろうという府民運動という点で響き合います。検定を準備しているなかで一番問題になったのはインセンティブをどうしようかという話です。たとえば京都検定の一番上の級に合格すると、京都産業大学の研究員になることができるという特典がございます。大阪検定についても、大阪を広く知らしめてくれるような役割を果たして下さい、というような形でお願いすることになると思います。大阪検定の教科書が4月上旬に創元社から出版されます。


●コミュニティ・ツーリズムの振興

 3点目として、コミュニティ・ツーリズムについて申し上げたい。広義の観光、ツーリズムの振興が地域を活性化するということを、各地で話をしてまいりました。博多などでは私の話に触発された実践がスタートしています。

 日本商工会議所は全国でニューツーリズムの意義を説いています。いっぽう大阪商工会議所では三つのエンジン産業というものを近年の目標に掲げております。一つはツーリズム産業ですね。大阪を再生するうえで重要な産業の一つがツーリズムに関わる産業なんです。従来のような観光という狭いジャンルではなくて、「さまざまな人を移動させるような産業すべてがツーリズム産業である」という概念から産業振興をはかることが、コミュニティの活性化には必要だというのが私の持論です。

ニューヨークでの事例
 コミュニティに根ざすツーリズムとはどのようなものか。阪南大学の前田先生に教えていただいたことなのですが、たとえばニューヨークの低所得者層の住んでいる地域でツーリズムをやろうという動きがある時期があったそうです。さまざまな音楽が発祥し、かつてジャズの偉人たちの生まれた場所がそこかしこにあり、ジャズにゆかりのある場所がそこかしこにある。あとはヒップポップなどの最近の音楽もそこから出てきた、そういった場所をバスで回るようなツアーをNPOがやっています。それをコミュニティ・ツーリズムと彼らは呼んでいる。コミュニティが外から人を受け入れることで、地域を元気づけることができるわけです。

まちづくりの契機としての「ツーリズム」
 ようはまちづくりの契機、地域の人たちの意識を変えるためには、外から人を受け入れることが大事だということにつきます。そういう意味合いでツーリズムというものの役割がある。そして、それがコミュニティ・インダストリー、地域レベルでの産業として成り立っていくことが大事だという議論をしています。

地域が支える観光、地域が主役の観光=コミュニティ・ベイスド・ツーリズム(コミュニティ・ツーリズム)
 観光も地域が支え、地域が主役となって地域の問題を解決するようなツーリズムというものが大事だ。私はそれをコミュニティ・ベイスド・ツーリズムと言っているのですが、ただこれは日本語として長いので、コミュニティ・ツーリズムと縮めて、継続して使っております。

 大阪商工会議所は夜間の観光行動を活性化するべく、ナイトカルチャーという事業をしていたのですが、それに加えてコミュニティ・ツーリズムという概念での事業展開を行うべく検討を重ねてきました。そして大阪市との連携のなかで、コミュニティ・ツーリズムを大阪市の観光政策における上位のコンセプトとして、受け入れていただきました。先ほど申し上げたニューヨークの事例などは狭い意味でのコミュニティ・ベイスド・ツーリズムの概念ですが、これを広く解釈して、大阪流の地域に根ざした自立的な観光を具体化していこうと考えます。

 いま申し上げた水と光のまちづくり、すなわち水都再生のソフトプログラム、大都会型エコミュージアムすなわち大阪ミュージアム構想、コミュニティ・ツーリズムは、私のなかでは一連のもの、響き合うものなのですね。次にそれぞれについて、もう少し具体的にご紹介していきたいと思います。

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