集客都市・大阪の展望
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日本のツーリズムの状況
〜コミュニティ・ツーリズム振興の背景〜

 

 三つ目として、大阪のコミュニティ・ツーリズムの話をもう少し詳しくいたします。皆さんには釈迦に説法という感じもいたしますが、前提として現在の日本のツーリズムの状況について少しお話しいたします。


●現在の日本のツーリズムの現状

伸びない国内観光客数と消費単価
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国民一人当りの宿泊観光旅行回数および宿泊数の推移、出典:国土交通省観光消費動向調査
 
 近年、観光立国を柱として「ビジットジャパン」キャンペーン等が行われ、ようやく国策として観光に力を入れようということになりました。しかし、その成果が国内観光客の増加につながっているかというと、なかなか難しいものがあります。

 1人当たりの年間の観光旅行回数が平均1〜2回、宿泊数は2.72泊と非常に小さい数字しか出てきません。観光庁が出来、国策としてはこの数字を4泊にすることを当面の目標にしているようです。旅行における消費単価もなかなか伸びません。海外旅行はゆるやかに右下がり、国内宿泊旅行もなだらかに下がっています。

国策としての「ビジットジャパン」キャンペーン
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訪日外国人旅行者数の推移
 
 いっぽうで、国策として力を入れたのが、海外からの日本への観光客数の増加です。2003年には年間520万人だった数を2010年には1千万人、2020年にはその倍増した人数を日本に呼び込もうとするのが観光庁の考え方です。

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国地域別訪日外国人旅行者数の構成、出典:JNTO資料
 
 現状でどの国から日本に来てくれたかというと、2007年の835万人のうち、韓国からが30%、台湾16%、中国11%、アメリカ9.8%という数字になっています。ただ、これは昨年のリーマンショック以前の数字ですから、2008年10月以降は韓国からの観光客が、がくんと減っており、全体として数字は下がっています。つまり、「ビジットジャパン」の先行きが厳しい状況下で観光庁が出来たと言えるわけです。

 ただ、2020年からの視点から予想すると、中華人民共和国からの観光客が見込めるのではないかと思われます。今はビザの関係で団体旅行が主ですが、今後緩和されると個人旅行が望めるだろうと見ています。

外国人旅行者の訪日動機
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外国人旅行者の訪日動機、出典:JNTO「訪日外客実態調査」2006、2007
 
 外国人が日本に来る目的は、アジアの人は買い物と温泉が大部分、欧米やオーストラリアの人は伝統文化や歴史的施設と、日本人の生活が観光の対象という結果が出ています。これを反映して、築地市場で外国人観光客がマグロを手で触って大騒動ということも起きてしまうわけですが。日本のカルチャーについて外国人にしっかり説明していくことも、国を開いていく過程で求められていることだと思います。

あまり魅力を感じない国という現状
 ただ、いくら外国人観光客が増加したといっても、日本から海外への訪問が世界第12位なのに比べ、受け入れは世界第32位という成績で、客観的に見るとあまり魅力を感じない国であるのが現状です。観光という面から見ると発展途上国だということが長年言われてきましたし、国策として力を入れ始めた動機もこの辺にあるかと思います。

 世界的な観光ランキングで言うと、1千万人の受け入れで20位ぐらい、2千万人でようやくベストテンに入るかどうかぐらいになるんですね。今、上位を占めている国は、フランス、スペイン、アメリカ、中国、イタリア、イギリス等です。多数の観光客を受け入れている観光大国との差はいまだ歴然としています。この辺りもマーケットを広げていきたいところです。

 また、別の側面から観光を見ると、観光行動の変化ということも見逃せないポイントです。従来は団体で温泉旅行をするのが我われの旅のあり方でしたが、バブル以降そのスタイルが変わってきました。1人1人の嗜好やニーズに基づく観光の時代が訪れています。かつてはJTBや日本ツーリストのパッケージツアーに頼ってきた旅行業界でしたが、今は楽天やJALのホームページを見て旅行を組み立てる方向に変わってきています。

 以上が去年までの旅行業界の動向です。しかし、リーマンショック以来の劇的な変化が旅行業界にも影響を及ぼしています。去年の9月以降3ヶ月連続で外国からの訪問客が激減しています。サーズ騒動以来の大打撃です。特に韓国からが大幅減、アメリカからも大幅減です。ただ、沖縄旅行は香港でブームになっているようで、さほど数字は落ちていません。あとタイ、シンガポール、フランスからは増加という数字になっています。しかし、全体としては大きく落ち込んでいるのが現状です。いっぽう、国内旅行も落ち込んでいます。


●「ニューツーリズム」の展開

 さて、そういう経済的な状況はさておき、この数年間議論されているニューツーリズムについて、少しお話しさせていただきます。

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 従来はオールタナティヴ・ツーリズムという言い方をしていましたが、商工会議所でニューツーリズムという言葉を使って以来、この言葉が定着してきたようです。従来の宴会型団体のパックツアーに代わって、個人のニーズに応じた旅行が求められるようになり、それをニューツーリズムという言葉で表したのです。

 平成16年に「ニューツーリズムの展開の提言」を日本商工会議所が発表したのですが、そこで挙げられているのが、産業観光、視察観光、グリーンツーリズム、映画・テレビドラマのロケを活用したツーリズム、街道観光、コンベンション誘致、アグリツーリズム、スポーツツーリズム、都市観光、エコツーリズム、ヘルスツーリズム、ヘリテージツーリズム、温泉等を活用した健康増進のための観光などです。これらが、地域発のオリジナリティ性、ストーリー性を持った観光商品ができるという議論になっています。地域のイベントの成功事例、地域活性化事業の成功事例もだいたいこの流れに沿った内容が多いようです。

 バブル経済破綻の後、ジャパンエキスポで各地が活性化した時期がありますが、21世紀に入るとジャパンエキスポ自体を実施する自治体がなくなってしまいました。それに代わって登場したのが、町全体が観光対象になるような「地域丸ごと博覧会」のようなイベントで、成功事例としてまち歩きを主体にした「長崎さるく博」や歴史的町並みをテーマにした「愛媛町並み博」が挙げられます。観光地の事例を挙げますと、毎年恒例のようにやっている別府温泉の「八湯温泉泊覧会(ハットウ・オンパク)」のような町ぐるみ博覧会があります。

 こういうイベントに共通しているのは、多くの人が自分たちの町を訪れることで地域の人たちの意識が変わり、自分たちの町の歴史・文化に対する再評価につながることで、最近の大型イベントはおおむねこの傾向にあります。伊勢の遷宮等で三重県が用意しているイベントもこの流れにあるようです。

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