集客都市・大阪の展望
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コミュニティ・ツーリズムの振興

 

●大阪のツーリズムの現況

国内からのビジターの来訪動向
 大阪ではどうでしょうか。大阪を訪問するビジターの多くが国内の首都圏、東海、中国・四国、北陸からです。逆に言うと、北海道や東北から関西に来る人が少ないわけで、マーケットの壁だと言えるでしょう。

 最近私が注目しているのは、この辺りなのですね。以前、愛知県が観光集客(産業観光や修学旅行)のプロモーションを北海道で打っていましたが、同じように今、関西で北海道をターゲットにしているのが堺市です。この2年ぐらい、航空会社とタイアップして「堺のまち歩き」という商品を開発しています。こういう観光事業の面白いところは、我われのように地域のなかに住んでいると、よその地域の人がどういうところを魅力的だと思っているかという情報がなかなか入ってこないことです。だから、誰に対してプロモーションするのかがとても大事なことになってきます。

微増する大阪へのビジター数
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大阪へのビジター数の推移、平成19年度、出典:大阪観光統計より作成
 
 ところで、大阪へのビジター数はここ何年間かは微増という傾向を示しています。ただ、全国の観光統計がまちごとにバラバラだったのを、国がようやく統一して取り始めたところなので、今まで取ってきた大阪の統計はあまり当てにならなくなってしまっています。大阪市の場合は、観光統計ではなくビジター数として挙げていました。


●大阪のツーリズムが抱える問題点

 続いて、大阪のツーリズムが抱える問題点について指摘しておきます。

特定の場所にしか行かない観光客
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観光客が訪れる場所、赤は国内、緑は外国人、出典:大阪市の観光動向調査より
 
 まず、ビジターが特定の場所(大阪城、USJ、スカイビル、道頓堀)にしか行かないということが挙げられます。国内から来た観光客の10%以上が行くのはUSJ、海遊館、道頓堀とその周辺、大阪城天守閣、外国からの観光客が行くのは新梅田シティ、アメリカ村、天王寺で、ビジターはそれ以外の地域には行かないという調査結果が出ています。

 特に道頓堀と大阪城は、外国から来た観光客の50%以上が訪れていて、特に中国から来た団体観光客のゴールデンルートとなっていますが、ここを見るだけで終わりです。経済的な行動(おみやげや記念品)に結びついていないので、そのスタイルを何とか変えたいと考えています。

大阪の都市ブランドの低さ
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大阪の都市イメージ、出典:「観光ブランド力調査レポート」博報堂
 
 続いて挙げられる課題は、大阪の都市ブランドの低さです。博報堂が2004年に調査した「観光ブランド力調査レポート」によると、都市としての認知度は、大阪は京都に次いで2位で、その後に札幌、神戸、福岡、広島と続いています。ところが「行きたい町か」という問いかけになると、大阪はその順位をがくっと落とすのです。つまり「どんな町かイメージできて知っているけど、行きたくない」のが大阪の都市ブランドの特徴です。

 人びとが抱いている大阪のイメージは「食い倒れの街」「格好をつけない街」「水の街、川の街」「商人の街、笑いの街」といったところが好意的なイメージで、だんだんと「ごちゃごちゃした街」「ゴミが多い街、汚い街」「怖い街、治安が悪い街」「行儀の悪い街」というネガティブなイメージが多くなっています。これらのネガティブイメージが「行きたくない街」との答えになっていくのでしょうが、そうした都市イメージを何とか変えていくのが大阪ツーリズムの大きな課題だと思っています。

大阪におけるツーリズムの課題のまとめ
 大阪におけるツーリズムの課題をまとめると、

 (1)観光エリアが限定されていて、多彩な観光資源が活かされていない、大規模集客施設に頼った観光行動になっていて周辺の街とのつながりが弱い。入場料がいらない大阪城公園や道頓堀周辺に人が集中してしまう。

 (2)大阪でコンベンションが開催されても、アフターコンベンションの受け皿としては奈良や神戸が使われ、大阪の文化資源が活かされていない。「汚い」「怖い」といったネガティブな都市イメージが固定化して、都市イメージが「粉もの」「お笑い」に偏っている。いっぽう、好意的な都市イメージとして「心の温かさ」「親近感」といったものがあるが、そうした人に関わる地域資源が都市イメージの形成に活かされていない。

 ということになるでしょう。この辺りを立て直していくために、新たな方法として「コミュニティ・ツーリズム」を振興させていくことが重要だという結論に至ったわけです。


●コミュニティ・ツーリズムの考え方

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コミュニティ・ツーリズムの概念
 
大阪にしかないまち歩き観光
 コミュニティ・ツーリズムは、民間事業者、NPO、市民団体などの地域コミュニティが主体となって、まち歩きなどの旅行商品を企画・販売するのが一般的です。これには商業ベースのものとボランタリーベースのものがあります。

 たとえば、大阪にしかないまち歩き観光として私がよく紹介しているのは、「演歌歌手と歩くミナミ」という企画です。女性演歌歌手とガイドの方と一緒に団体でミナミの街を歩くという内容で、20人程でぞろぞろと法善寺横町まで歩いて「月の法善寺横町」をみんなで大合唱、御堂筋に行けば、そこでも「雨の御堂筋」をみんなで歌うツアーです。こんな面白いツアーは大阪にしかないだろうと感心しています。

情報として外へ出て行かないのがネック
 こういう面白い企画があることが情報としてなかなか外へ出て行かないのがネックです。また、商業ベースで成立しているものもあるのですが、それも知られていない。唯一メジャーな情報としてうまく成立したのは、落語家さんが案内する船のクルーズぐらいだと思います。その辺をうまく束ねる仕組みが必要だと考えております。

釜が崎のおっちゃんたちが案内する釜が崎ツアー
 あと、変わった企画をご紹介しておくと、阪南大の松村先生が主宰している釜が崎の地域の人たちが案内するまち歩きツアーもあります。新今宮の簡易宿舎が観光案内所になっていて、バックパッカーの若い人たちを案内するというツアーをしているのですが、そういうまち歩きも大阪の魅力として情報発信できるよう、うまく束ねていきたいと思っています。


●ツーリズム振興の三つの主体の連携の組み立て

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ツーリズム振興の三つの主体の連携の組み立て
 
 事業者、観光客、地域コミュニティの三者の関係をうまく組み立てて形にしたいと考えます。これを、コミュニティ・ツーリズムの基本の考え方として進めていきたいと思います。

 特に生活文化と言いましょうか、大阪ならではのライフスタイルを見て今の大阪を体験してもらう、そして地域の人たちと交流する、これも長崎さるく博のようなツーリズムと通じるところがあろうかと思います。そして外部の人たちが訪れることで、外部と地域の交流が生まれてくれればいいだろうと考えています。

大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会発足
 昨年の秋(2008年10月)には、大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会を発足いたしました。

http://www.osaka-asobo.jp/community/index.html

新たな大阪まち歩きの動きをつくる
 いっぽうで、先ほどご説明した水都大阪の船とまち歩きをセットにしたイベント型のものを、民間事業者にお願いしました。大阪の各地でコミュニティ・ツーリズムを推進しているボランティアの方々に参加してもらい、新たな大阪まち歩きの動きを促進しようという流れをつくろうと努力しています。水都大阪2009のクルーズ&ウオークのプログラムでの説明会には、ボランティアガイドの希望者が数十人集まってくれたと聞きました。

地域のガイドさんを育て、新たな地域の活性化
 もういっぽう、観光コンベンション協会の方では、3年間で新たなまち歩きのコースを300作ろうという計画もあります。このなかで、地域のガイドさんを育て、新たな地域の活性化の流れが出てくるようにしたいという計画を進めています。

 これらの全体の協議会を私がトータルでプロデュースすることになり、コース開発には長崎さるく博のプロデューサーをされた茶谷さんに入っていただくことになりました。

 従来から、私は大阪の観光にはまち歩きが大事だとことあるごとに言ってきました。これまでも大阪市は、音声サポートとして、街の歴史を吹き込んだアイポッドを観光客に配布するという事業を進めてきました。しかし、それよりは大阪ならではの人が直接案内するほうが、この街の魅力をうまく伝えることもできるし、地域のまちづくりにも、いい影響を与えるだろうという考え方のもとで、これらの企画を考えています。

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