魅力ある都市観光とデザイン
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道頓堀川水辺整備事業の概要と周辺のまちづくりの取り組み

前大阪市河川担当部長 黒山泰弘

 

■大阪の河川の現状

黒山

 今ご紹介に預かりました大阪市建設局の黒山と申します。司会をして頂いている堀口さんとは、もうかれこれ25年以上のおつきあいです。

 私が大阪市に入って多分今年で33年目になりますが、先ほどご紹介頂いたように今年の3月まで河川の担当をしていたのですが、実はたかだか33年分の1年しか担当していません。ですから、それほど河川事業とか河川の行政に詳しいわけではありません。今日は2名ほど助っ人を用意していますので、難しい質問が出れば彼らに助けてもらいたいと思っています。

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市内を流れる河川の現況、濃い青、薄い青は国や府の管理
 
 まず大阪の川ですが、33河川、146km、面積にしますとだいたい20km2くらいになります。大阪の面積の約1割弱です。道路がだいたい37万km2ですから、道路の約半分弱くらいです。

 ただ大阪市が管理している川は数で言いますと14河川ですが、面積にしますと0.5km2で、大阪市の2.5%ぐらいしかありません。周辺の小さい川がほとんどです。市内中心部を流れているもので大阪市が管理している川は東横堀川と道頓堀川の二つだけです。

 今、河川の管理権限委譲についていろいろ議論されていますが、治水の問題がありますので、どこまで市町村に権限を渡していくかというのは難しい問題です。ともあれ現状は、これくらいしかないということです。

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大阪市内河川の特徴
 
 大阪の川の特徴を私なりにまとめてみました。

 一つは、ほとんどと言っていいほど「流れ」がないというのが特徴です。勾配が淀川本川でも1万分の1です。大川・道頓堀川・土佐堀川・堂島川などでは1万2500分の1とかで、ほとんど勾配がありません。そういうようなことから水面に流れが見えず、音がしません。

 私はアウトドア派なので山にはよく行くのですが、川は音がしたり白波が立ったりするものです。そういうことが大阪市内では全くありません。

 それからもう一つの厳しい条件としては、自然流下の川がほとんどないということがあります。新淀川も大川との分流点から下流は掘った川ですし、唯一大川だけは自然流下の川です。要するに水を流すために掘った川か、水運のために掘った運河ですので、直線的で断面にもほとんど変化がありません。

 そんな事も大阪の川の特徴であり、しんどい所です。

 それから市内全体に地盤沈下していますので、ほとんどの川で水面が橋の上からしか見えません。特に臨海部、下流域になるほどそうなっています。平野川とか寝屋川も治水上の問題でコンクリートの堤防が道路から建上がっていますので見えません。

 こんなマイナスイメージがあります。

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大阪市内都心部の河川・水の回廊
 
 大阪の一つの大きな特徴は、これも皆さんもよくお聞きだと思いますが「ロの字型」で川が都市を囲んでいるということです。

 今日の「観光」という視点で、水都2009の開催年なのでいろんなイベントを考えています。先ほど歩いて頂いた道頓堀をはじめ、中之島・大川周辺などでいろんな取り組みをしています。例えば船着き場を作ってみたり、橋を架け替えたり、護岸整備をしてみたりということをやってみているのですが、私の個人的な意見としては「舟運」が大きな要素だと思っています。しかし、なかなか難しいというのが実感です。

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大阪市内都心部の河川・明治39年の巡航船乗降地位置図
 
 これは古い地図で、まだ長堀川があったり、運河が沢山ある頃の地図です。印は巡航船、ポンポン船が通ってた頃の船着き場の位置です。これだけ水上交通とか水運といったものが、明治の頃は盛んだったのです。

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水辺のネットワーク
 
 こんな舟がいわゆるポンポン船です。蒸気船が走っていたというわけです。こういう雰囲気をなんとか復活できたらなあと思っています。

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現在の旅客舟運
 
 現在はアクアライナーなどの観光船の舟運が、いろいろ出てきています。

 道路では交通量が増えることによって、例えば公共交通とマイカーとの取り合いの問題とか、駐車問題、交通安全問題など、色んな問題が起こってきましたが、これから水上交通も活性化すればするほど、ひょっとするとそういう問題が生じてくるかもしれません。

 特に我々に要望を頂いていることで言うと、駐車、船で言うと繋留といいますが、そういう要望が出てきています。

 なぜかというと、大正区などの海辺にマリーナが結構多いのですが、大阪の場合先ほど申しましたように地盤沈下して橋が物凄く低い。例えば淀屋橋などはほとんど水面と差がない。あそこに停めている船はなかなか都心に入って来れないし、いったん満潮になると帰れないわけです。ですから都心にも繋留場が欲しいというご要望を頂いています。

 これも治水の問題とどう取り合うかという、いろんな問題を抱えています。

 観光というような視点でいうと、頑張らないといけないとは思うのですが、色んな取り合いの問題や安全の問題を考えながらやっていかなければならないんです。


■道頓堀での試み

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道頓堀川水辺事業及び社会実験実施区間
 
 本題の道頓堀ですが、先ほど現地を歩いて頂いた方にはご説明しましたが、約1kmくらい河川沿いの遊歩道を整備しています。それに先だって東横堀川水門と道頓堀川水門を造りました。そこに閘門機能を持たせ、その間では水位の調整ができるようにしています。

 水位の調整が可能になったので、水面に近い所に遊歩道が出来上がっているというわけです。ただ閘門機能を持たせたために、船が入って来る時には水門の所で少し待ち時間が発生します。

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道頓堀川水辺事業
 
 水面にできるだけ近いところで、水位もだいたい40cmくらいの一定レベルに抑えています。

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河川敷地利用の枠組み
 
 昔は河川の敷地は治水一辺倒ということで、何も置いたらいけない、木も植えさせないというのが一般的だったのですが、少し時代がかわり、地域で合意が取れて公平性が保たれるような仕組みが整えば、いろんなイベントなどをやっていいということに、国が平成16年頃から方針を変えました。また平成21年1月に一部改正で拡大をされました。

 道頓堀は、社会実験という位置づけなんですが、平成23年度には特例という枠組みを外して本格的にやっていこうということになっています。

 一つは土佐堀で去年の夏「川床」を社会実験としてやられた、そういうのも認めるというような特例も出てきております。

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供用区間の状況
 
 今、道頓堀がどんな状況かと言いますと、昨年は太左衛門橋の船着き場の利用が5300件くらいありましたが、今年は半年間で多分倍くらいになっているのではないかと思います。

 それと川側にお店の入口を持ってきてもらおうという試みについては、今は14軒くらいあると思います。

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地元伝統行事(大歌舞妓船乗込) カフェテラス試行実験
 
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地元振興イベント(クリスマスイルミネーション) 音楽イベント
 
 冬のクリスマスイベントをはじめ、カフェテラスや学生さんの音楽イベントなど、様々なイベントをこの空間で行っています。


■橋梁の通行量、遊歩道来訪者数調査概要

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橋梁の通行量、遊歩道来訪者数調査概要
 
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アンケート調査概要
 
 戎橋・太左衛門橋が供用開始した平成16年12月の後、毎年データ収集をしております。それをここでご紹介します。

 通行量調査とアンケートをしております。

 サンプルは去年で言いますとだいたい2000件弱くらい、項目は目的、滞在時間、感想などをお聞きしています。

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橋梁の通行量調査結果 遊歩道の通行量調査結果
 
 まずは通行量ですけれども、戎橋ではだいたい休日に10万弱くらいの人が歩いていました。太左衛門橋になると、その1/10くらいになっています。平日と休日ではだいたい1.5〜2倍くらいの違いがあります。

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戎橋、太左衛門橋、相合橋から遊歩道への流入率 来訪者数調査 12時間入場者数推移
 
 そこから遊歩道にどれくらいの人が来てくれるかということで調査しますと、太左右衛門からはけっこうな人が来てくれています。これは私の想像ですが、近くでたこ焼きを買って下に降りてるんじゃないかなと思います。まだ戎橋からはあまり人が来られないようです。

 来訪者数を全データで見ますと、だいたい休日イベントで1万人弱くらい、ほぼ横ばいですが若干落ち気味かもしれません。

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来訪者数調査 12時間入場者数・季節別 来訪者へのアンケート調査・属性
 
 季節別に見ると、もちろん冬は寒いのでなかなか人が集まらないのですが、データでも若干落ちてきている感じです。

 右の図からはアンケート調査です。平成20年度に行ったのですが、年齢で言いますと各年代にうまく散らばっているものの、20代が多少多かったようです。

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来訪者へのアンケート調査・遊歩道の認知度 遊歩道の利用頻度
 
 認知度を尋ねていますが、これがまた下がってきています。この頃、他府県からたくさん来て頂いているので、認知度がトータルでは下がってきているのかなと考えています。

 利用頻度も若干下がってきているんですが、これも他府県から来られている方が増えているためと考えられます。大阪市内にお住まいの方に限りますと何回も来て頂いてるようでした。

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来訪者へのアンケート調査・遊歩道での滞在時間、利用目的 遊歩道の環境評価
 
 滞在時間について、これは我々にとっては有り難いことで、少し伸びてきているようです。立ち寄っただけという人が減ってきていて、少し滞在型になってきたようです。

 また何をしたかを聞きますと、平成20年度では「飲食」。この辺は随分歩道側に入口が開いてきて、ラーメン屋さんとかも出来ていますので、遊歩道から飲食店の方に行って頂いているのかなと思います。我々の事業目的としては好ましい結果となっています。

 環境評価については、まあ好きと言って頂いているようです。

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来訪者へのアンケート調査・遊歩道施設に対するニーズ イベントの認知度
 
 あと何が欲しいかという事も聞いています。ベンチ、灰皿、ゴミ箱などが多くて、半数ほどの方がそういう要望を仰っています。

 我々としても注意しないといけない事ですけれども、他府県から来られている方も増えていますので、もう少しサイン等の設置も必要なのかなと思われます。

 イベントもあまり認知されていないという結果でした。

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来訪者へのアンケート調査・社会実験への評価 水辺空間で開催して欲しいイベント(年代別)
 
 社会実験への評価については、ばらつきは色々あるんですけれども、それほど目立った意見はありませんでした。

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来訪者へのアンケート調査・クルーズ船への乗車経験(平成20年度) 再乗船希望、遊歩道空間で使った金額
 
 イベントの要望については音楽系とか光とかカフェテラスとかが多くなっています。年代別に見ますと、特徴的なのは若い方には音楽系イベントのニーズが圧倒的で、光とかカフェテラスはそんなに年代差はないことです。ただもう一つの特徴としては年齢の高い方は船の要望が高いといったことが読みとれました。

 それを裏付けるデータとして、乗船希望は年代ごとに上がってきているようです。60歳以上のゆとり世代では「乗りたい」という要望が高いようでした。

 お金をどれくらい使っているかも調査しています。ほとんど使ってないという人は減ってきています。1000円未満が多くて、あまりお金を使って頂いていないのですが、若干使うお金も増えてきているという事がわかりました。


■河川の水質について

 ここまでが道頓堀です。

 少し離れて河川の水質についてお話しさせて頂こうかと思います。

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水質の改善(川の水質の推移)
 
 大阪の川は汚い汚いと言われますが、確かに昭和40年代は非常に汚い川でした。BODとは水質の汚さを表す数値で、だいたい5mg/l以下になれば良いという指標ですが、今、道頓堀川も東横堀川も大川なみの水質になってきているということが分かっています。

 魚の調査もしていますが、結構いろんな所にいろんな魚がおります。

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水門操作による河川水の浄化 水門操作による河川浄化
 
 市政モニターをやりますと水質の問題が一番大きい問題だと出てきますので、なんとかしたいと思って、いろんな事をやっています。

 道頓堀で言いますと先ほどの水門操作によって寝屋川の汚い水を入れないようにしようという取り組みと、住宅地にある城北川の所にも大川の水門があるのですが、ここでも寝屋川の水をできるだけ入れないようにして、大川の水をできるだけ取り入れるというような水門操作をしています。

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平成の太閤下水
 
 大阪市内の下水は100%出来ているのですが、古い下水ですので合流なのです。

 そのため強い雨が降ると処理場が受けきれないものですから、汚水と雨水が混じった状態で川に直接流してしまうというような事がまだあります。普段は全然問題ないのですが、一旦大雨が降ると駄目なんです。

 それを一旦受けるような施設を造っています。道頓堀でも松屋町の下に大きな瓶のようなものを造っています。これが出来上がりますと強い雨が降っても受けとめられるということです。


■沿川の市民活動・イベント

 それからあと、もう一つの話題として、周辺での取り組みについてご紹介したいと思います。

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横堀川水辺再生協議会(e−よこ会)概要
 
 まずは皆さんよくご存じのe-よこ会、東横堀川水辺再生協議会という大阪商工会議所が中心となってやられている会議がございます。

 色んな活動をされていまして、橋を洗う会やコンサートをやられたり、地域住民の方と一緒に花づくり、写生会をやったりと、住民の方と企業の方が取り組んで頂いております。ただ住んでいる方はあまり多くはないとは思います。

 それからいろんなNPOさんにも活動していただいています。例えば水辺でランチをしようということで楽しい7箇条みたいなのを作ったりとか、川で遊ぼうといった活動をされています。マップなども作ってもらっています。

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ミナミ活性化協議会
 
 もう一つは宗右衛門町です。ここは劇場とお茶屋が並ぶ大阪を代表する所だったんですが、今は良い環境ではないということで、地域の方と我々行政、警察が一緒になって浄化・活性化しようという会が平成17年に発足しています。

 いろんな地域の方にも取り組んで頂いています。看板を作って頂いたりとか、こういった内容の問題を皆で一緒に考えましょうとか、それから置き看板とか放置自転車についても地域の方が先頭に立って取り組んで頂いております。

 今ちょうど石畳への再整備と共同溝の整備のために埋設の切り替え工事をやっています。

 まだ、始めたところでして、繁華街のど真ん中ですので、今後は、なかなか大変な仕事になるかと思います。


■放置自転車対策

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放置自転車対策 放置自転車対策・トライアルプラン
 
 もう一つの問題は放置自転車です。

 今、平松市長も地域の防犯・防災・安全の問題、それから自転車の問題、ゴミの問題と三本立てで、任期中になんとか頑張ろうと決意をされています。そのなかで我々建設局は自転車の問題に取り組んでいます。

 この問題は昭和50年代からの長年の課題なので、なかなか一朝一夕には解決できません。ここでも地域の方と一緒にやっていこうということで、それぞれの役割分担などを決めるため話し合いをさせて頂いています。

 区役所では、日頃から地域の方とのコミュニケーションをとっておりますので、区役所と我々建設局と地域とのトライアングルを形成する形で放置自転車を少しでも減らす活動を続けています。


■まとめ

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現状・課題認識
 
 ここでちょうど時間です。まとめになっていないようなまとめですが、私の個人的な感想も含めてお話しします。

 水質については先ほど申しましたように随分良くなってはきているのですが、やはり見た目とか臭いなど、まだまだ残っています。こういった問題も解決していかなければならないと思います。

 また、大阪は「水都」という言葉を使っていますけれども、これについても平成17年に市政モニターでアンケートを取ったところ、「水都」という言葉の認知度は100%ぐらいあるのですが、「水都と思うか」と聞きますと23%ぐらいの人しかそう思わないとの答えです。特に外国籍の方は2/3以上の方が水都じゃないと仰っています。

 名実共に「水都」になるには、まずは「水質改善に取り組んでいくべき」だと2/3以上の方が仰っていまして、我々としても水質はやはり大きな課題と考えています。

 最後に道頓堀川整備事業の広報用DVDが最近出来ましたので、必要であればお貸しします。ご静聴ありがとうございました。

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