「水都大阪」の再生  川の駅 はちけんや 誕生
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これからの八軒家浜への期待

NPO法人水辺のまち再生プロジェクト 中野弘巳

 

■はちけんやとの関わり

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 今日は遅れてしまってすいません。実は、
小型船の遊覧事業を個人事業でできないだろうかと挑戦をしておりまして、その用事で遅れてしまいました。

 僕はここ6、7年ぐらい水辺のことに関心を持つようになりまして、衣食住プラス遊という部分を水辺で過ごしている状況です。大学時代は、鳴海先生の研究室でご指導頂き、まちづくり・都市計画の勉強をさせていただきました。卒業後、NHKのテレビ制作に就きまして、番組ディレクターを6年弱務めており、今はNPOの「水都大阪水辺のまち再生プロジェクト」に所属して活動しております。

 ところで、今お話しがあったかと思いますが、はちけんやの地下1階の国の情報発信施設をNPOが管理・運営するという予定になっています。それを私たちの「水辺のまち再生プロジェクト」ともうひとつのNPO「もうひとつの旅倶楽部」が、コンペで選ばれて、管理・運営に携わることになりました。この「川の駅 はちけんや」を私たちなりに考えて企画しているのですが、立場としては「優先交渉権者」として大阪府、国土交通省近畿地方整備局と一緒に議論しながら内容を詰めて行っている状況です。

 予定としては来年(2010年)4月からNPOとしてこの施設に関わっていくのですが、今はまだ具体的に「こんなことをする」と言えるだけの材料が揃ってないのが実情です。コンペで提案したときは、半分は夢のような内容を語ったのですが、私たちの主張としては「大阪の水辺にもっとみなさんの関心を寄せてもらって、水辺でご飯を食べたり遊んだりして、最終的には大阪の水辺の景観を変えたい」ということでした。日頃の活動を通して、八軒家浜で「こんなことが出来たら面白い」ということを提案しました。今日は、そういう日頃から僕らが思い描いていることをお話ししていこうと思います。

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オランダ・アムステルダム
 
 去年の秋に行ってとても気に入った場所なのですが、ここはオランダ・アムステルダムの水路です。水路といってもここは運河で、水位をコントロールされているので大阪とは状況が違うのですが、市民にとって水辺がとても身近な場所だということに感動しました。例えば、写真は水辺のカフェなのですが、そこから船に乗り込んでデートできるようになってるんですね。

 大阪は水の都とよく言われますが、日常生活の中で実際に水辺を使う、遊べるという機会がどれだけあるだろうか。「水都大阪」というなら、水辺を実際に使うということがこれからは絶対に必要になってくるだろうと思うんです。大阪の水辺を遊べる場所、楽しむ場所にしていくことが僕らの提案の背景です。

 さらに言うと、川を見てそれだけというのなら、僕らの活動の意味はない。八軒家浜が歴史的な場所だと言っても、まだまだ大阪市民にとってはなじみがなく、そもそも「水辺に行っていいのん?」ということもご存じない方が多い。ですから、最初は「いかに使ってもらうか」を考えないといけないと思います。


■大阪の現状

 大阪の川の現状について、私たちは「眺めるだけ」の場所がほとんどであると考えています。遊覧船もたくさん走ってますし、河川周辺の整備もどんどん進んで心地よい空間になっているとは言え、まだまだ「川から眺める」「川を眺める」だけのことしかできないのが現状ではないでしょうか。もちろん、ドラゴンボートの大会もあったりしますが、「親水」ということになると、友人と話していても「え、勝手に川に行ったらダメなんでしょう。許可がないと」という会話になったりします。川はみんなの共有財産でもあるのですから、どういう風にすれば安全に遊べるかということを知らせていきたい。はちけんやという施設は、そういう存在にならないといけないと考えています。

 建物のデザインコンセプトのお話しの中にも「川と街をつなぐ」という話が出てきましたが、はちけんやは「川と街をつなぐ」ということにプラスして「日常生活と水辺をつなぐ」という風にしていきたいですね。例えば、花見の時期だけここに来るのではなく、普段から川や橋を使って何か気分のいい催しができるような、そういう状況を作り出していきたいのです。「こういう風にすれば、大阪の川を楽しめるんだな」ということをはちけんやで展開していけば、他の大阪の街にもどんどんひろがっていけるような方向を目指したいと思っています。

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「使う、楽しむ、あそぶ」を思い浮かべる
 
 まずは、川や街を使って、楽しんだり遊んだりする状況とはどんなものなのかを思い浮かべた写真です。5、6人でボートに乗ってお弁当を食べたりするのも、全く問題はないと思います。カヌーで川に出かけるのも、ちゃんと安全を配慮すれば、出来ることです。せっかく、川の周辺が公園として整備されていますので、ピクニックや楽器を持ち込んで楽しんでもいいのではないかと思います。僕らのNPOだけでなく他のNPOの写真もまじっていますが、いつもやっていることです。

 一過性のイベントで川を使うのではなく、日常的に川や水辺で遊べるよう、はちけんやがそんなことをやりやすい状況を作っていくことが必要なんかなと考えています。

 はちけんやは雁木も再生されて川に近づきやすい構造になっていますので、例えばここに砂を運んでビーチ遊びができるようにするのはどうでしょう。欧米では、わざわざ池に砂場を作って楽しんでいるという例もあります。ビーチバレーの大会もここでやれるようになれば楽しいんじゃないかと思うのですが。高知では、砂の美術館という催しも市民に定着していますよね。そうしたことも施設と組み合わせて使っていくのも、面白い状況をどんどん生み出していくのかなと考えています。


■元ディレクターの考察から

 じゃあ、こうした状況をどうすれば生み出せるか。それについては、今悩んでいる最中なのですが、今日は今考察していることを紹介していきたいと思います。

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 私はテレビの制作の仕事をしていたのですが、単純にいうと行った場所で何が起きているかのテープを回すことしか出来ないという仕事なんです。ただ、それだけだと皆さんに見て頂ける番組にはならないので、見て頂くための「状況」を番組に合わせて起こしていくのがポイントになってくるのです。私なりに考えた結論なんですが、面白い状況、興味深い状況を作り出すためには、「ゲーム性」(勝った負けたの喜怒哀楽を出せるか)「サプライズ」「仕込み」がそのポイントになってくると考えています。

 最後の「仕込み」という言葉はちょっとイヤらしく響くのですが、例を挙げるとよくニュースなどで裁判に向かう関係者たちという映像がありますが、あの映像はたまたま歩いているのを撮っているのではなく、その方々にお願いしてカメラの前を歩いてもらっているのです。なぜこれから裁判に臨む関係者たちがテレビに協力してくれるかと言うと、自分たちがどういう思いで法廷に向かっているかをテレビを通じて全国の人に伝えたいから協力してくれるんです。この協力してくれることを我われは「仕込み」と呼んでいるんです。

 大阪を面白くするためには、全部のお膳立てを我われが用意するのではなくて、仕込みの例のようにみんなで協力しながらやっていく状況がないと面白くないのではないかと思います。ですから、そうした状況さえ作れば、何か面白いことは生まれてくるだろうと思っているんです。これは「参加型」とも言えるでしょうが、こうしたことはこちらで用意するだけよりもずっと手間暇がかかりますし、いろいろと悩み事も生じてくるでしょうが、市民と一緒に演出を作っていくという状況を作っていかないと本当の面白いことは出てこないんじゃないかと考えているところです。


■大阪を楽しむすべての人に

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 目指しているイメージは、先ほどから申し上げているように川を使ったり遊んだりする状況を仕掛けていく、仕込んでいくのだろうという風に考えています。また、当初から私たちが言っていることですが、この八軒家浜には大阪を楽しむためのアイデアがあって、実践するためのアイテムがあり、実践したくなる演出が揃っているようにしたい。その3点がないと、八軒家浜が使われていく状況は生まれてこないと思っています。

 歴史とか川の性質を知ってもらって、川で遊んでも大丈夫だよと分かれば、その後どうすればいいのということになってくるでしょう。その時に、アウトドアの用品の貸し出しがあったり、そこで美味しいお茶が売っていればそれを買って出かけたくなるような、そういうシナリオが出来ないかなと考えています。

 最終的には、大阪での暮らしを楽しみたい全ての人にとって、わざわざ来てもらう場所にならなければと思っています。しかも、ここに来て終わりではなく、ここから出かける面白さを知って頂きたい。つまり、目的地であって出発点にもなるような場所にしていきたいと考えています。

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アイデアの提供
 
 まずは、街と川に関する情報を提供していくのが第一の基本だと考えています。写真に挙げているのは、イギリスの街の例ですが、巨大なジオラマを使ってどんな街なのかをパッと分かるようにしています。

 私たちNPOは旅のコンテンツもいろいろ考えていますので、そうした情報をカタログ的に閲覧できるようなブースを作れないだろうかと思っています。ただ単に情報を並べるだけでなく、書籍を閲覧できるスペースなども提供して水辺に興味を深めて頂けるようにしたいと考えております。

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アイテムの提供
 
 このアイテムの提供では、ひとつは船を走らすことはできないかと考えています。もちろん、ピクニックグッズ、アウトドアグッズのレンタルや販売も考えていますが、それ以外にも大阪の名産品や流域の名産品を販売することで大阪を再発見する面白さを味わってもらうのはどうかと考えています。

 また、目の前がすぐ川ですし、回りの公園も充実していますので、ここを出発地点に大阪のいいところにどんどん出かけてもらったらいいと思うんですね。雁木が整備されたところですが、そこに小型船やカヌーがコインパーキングのように使えるシステム作りもこれから出来ていってもいいのではないでしょうか。また、街と川の繋がりで言うと、例えば船と自転車を連携させていくのはどうか。そんな提案もしています。

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実践したくなる「演出」
 
 これはアイデアやアイテムを使って、こんなことができますよと実践してみせる、みんなで試してみるということになると思います。例えば、屋外ヨガ教室とか、川辺でやったら気持ちいいのではと思えることはたくさんあるという話を今仲間と話し合っています。子どものワークショップとか河川でのジョギングとか、それらがやりやすい施設を八軒家に持ってくれば、ここの使い方の幅がぐんと広くなると思うのですが。例えば、シャワー室や着替えルームを用意することで、「ここでお化粧直せるんなら、私も参加してみたい」と思ってくれる女性が増えるかもしれない。これは、女性のスタッフの発案ですが。

 写真左上にある看板の写真は、イギリスの運河沿いにある看板です。イギリスは従来ナロウボートで運河を旅することが余暇の過ごし方として定着しているのですが、そういう人向けの船を一時係留する施設があちこちに出来ています。この看板は、そうした施設のひとつで、ブリティッシュウォーターウェイズ(BritishWaterways)という財団が整備した「川の駅」の看板です。この看板には、「シャワーあり」「水道あり」の情報が記されています。

 はちけんやが一気にこういう施設になるのはすぐには無理でしょうが、ここは世界でも珍しい「川の駅」に向いている立地なんです。大阪という街そのものが川が都心を巡っていますし、しかもここは鉄道へのアクセスがよくて、これだけ立派な船着き場が完備されているのですから。そこに「川の駅」を名乗る施設ができたというのは、ひとつのチャンスだと思うんです。

 これをどういう風に使っていけば、この立地を活かすことができるか。私たちだけでなく多くの人に使い倒してもらう、そんなシステムをこれから作り続けていけるかが、この施設が面白く、ワクワクさせるものになるためにはポイントではないだろうかと考えます。

 今は、どれくらいの企画が私たちに任せてもらえるのか、予算面も含めて大阪府、国と協議を進めている状況です。「水都2009」の期間中は仮設的な展示はさせてもらえるかもしれませんが、本格始動の準備をして、来年の桜が咲く頃には、いろんなアイデアやアイテムを使ったしつらえ、ソフトを持った施設が出来ているんじゃないかと思います。どうぞ、みなさまのアイデアもお寄せください。「こんな風に使いたい」という声が出てきたらしめたものだと思いますし、これからもみんなの希望を形にする機会をどんどんつくっていきたいと思います。

 これで、私の報告を終わります。ありがとうございました。

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