地方都市での「議論と合意」の景観まちづくり
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「御城番屋敷」をめぐる景観紛争

 

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 さて、マンション紛争が起きると同時に、「御城番屋敷」で景観問題が起きてしまいました。「御城番屋敷」は下級武士の長屋が保存されたもので、国指定重要文化財です。

 写真は松阪城から、御城番屋敷を見下ろした風景なのですが、その屋敷街をふさぐように個人住宅の2階建てが建つことになってしまいました。

 マンション紛争と事情が違うのは、この住宅の所有者はマンション紛争のことをよくご存知でしたので、事前に市の教育委員会に行って「ここに住宅を建ててもいいか」と相談していることです。教育委員会は2階建てだったら何も問題はないでしょうという回答をされたようです。しかし、その時に現地で建築の内容を確認をしなかったのは問題かなと思います。

 いざ、工事が始まってみると、ここを訪れた観光客から「パンフレットの風景と随分違う、松阪市の一番良い風景を隠すような住宅が建っている」と松阪市にクレームが来てしまい、市の職員が現地に確認に行ったところ、こんな風景になっていて問題だということになったのです。

 改めて市と所有者が話し合いをして、いったん骨組を解体し、敷地は公園用地として市が購入することになりました。この事例からは、低層の建物であっても眺望景観については丁寧に調査しておかないと景観問題になる、高層だけが問題になるのではないということが教訓として得られたと思います。

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 写真左は、その工事の最中に御城番屋敷から松阪城方面を見た風景で、屋敷街の突き当たりにお城をふさぐような2階建てが見えます。もちろん今は撤去されて、右の写真のような景観を取り戻すことができました。

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パンフレット 殿町地区地区計画案
 
 左の写真は御城番屋敷を紹介するパンフレットです。

 ここからお城を見上げた光景は、長年にわたって市民が共有してきたものですから、いつまでも続いて欲しい生活景なのです。

 これらの紛争の後で、住民からの提案で地区計画案ができました。この問題が起きた当初は、景観法が施行されてまもなく、全国的には景観計画の策定がまだされていない状況ですから、この時の一番いい選択肢は都市計画法の地区計画を使って高さ規制も入れたまちづくりのルールをつくっていくことでした。今でしたら、景観計画を使ったりあるいは景観地区で高さを押さえたりする選択肢になっていたのではないかと思います。

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殿町地区地区計画
 
 これが殿町地区の正式な地区計画です。地方都市の中心市街地で40.5ヘクタールという相当広い範囲にわたって、高さ12m(一部10m)の規制や町並みをそろえていくためのルールを定めています。

 繰り返しになりますが、40.5ヘクタールという広範囲で規制の合意が取れるのは、地方都市でも難しい状況ですから、それだけの広さで合意ができたのは大変珍しい例だと思います。松阪市でも伊賀市と同様、町並みを壊すような大きな問題が起きましたので、これを反面教師として地元自治会の方々が頑張って、今回の地区計画に至ったという状況です。

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景観マスタープラン 景観計画
 
 その後、2007年に松阪市は景観マスタープランをつくりました。それを次の年の2008年に景観計画として策定していき、2009年1月から全市的に景観計画が運用されています。

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