地方都市での「議論と合意」の景観まちづくり
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高層マンションと反対運動

 

■マンション紛争の経緯

 この経緯を簡単に説明すると、四五百森の一角にある日突然「地下1階、地上7階、高さ26m」の高層マンションの建設計画が発表されました。この当時、松阪市は景観条例を持っていませんでしたから、条例に基づく事前の届け出はありませんでした。

 敷地の中にそうした表示板が立っているのを通りがかった市民の人がたまたま見つけ、松阪市に問い合わせたことからマンション問題が発覚したのです。

 この敷地にはもともと市内の病院院長の娘夫妻が住んでいましたが、高台にあったため高齢になると暮らしにくいということで、知り合いに土地・建物を売りました。買い手が今度は名古屋のマンション業者に売ったことから、マンション紛争にいたったということです。

 この問題が起きた殿町は昔の武家地の面影を残していて大変に環境のいいところです。実はこの問題が起きる以前から、私はいろいろな機会をとらえて「景観条例がなかったらこの風景を守るのは難しい」と市民のみなさんに提案していたのですが、それまでは市民にあまり関心を持ってもらえなかったというのが実情でした。しかし、この問題が発覚するやいなや、住民の活動は活発になりました。特に地元の殿町の自治会が中心となって、「マンション建設によって環境が損なわれる」として反対運動を行い、2万人あまりの署名を集めました。この動きはNHKの『ご近所の底力』という番組でも取り上げられました。地元の人たちもテレビに出演して、どうやったら止められるか、どう対応したらいいかを勉強して帰ってこられて、その成果も活かされて、住民の提案に基づいた「殿町地区地区計画」を策定することになりました。

 さて、その後は地元自治会、マンション業者、松阪市で何回も話し合いを重ねていきましたが、当然マンション業者は高さについては譲ろうとはしない状況でした。ただ、何回も話し合いを重ね、あまりにも地元の反対が強いので、7階から6階にすることだけは事業者側が折れてきました。ですから、当初計画より4mは低くなりました。これも運動の一つの成果だと思います。


■第二の事例を防ぐ地区計画の策定

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地区計画を報じる新聞(出典:毎日新聞、夕刊三重) 立ち上がったマンション
 
 そうした経緯の後、殿町自治会の人たちがこのままだと第二の事例が起きてしまう、何とかしようと思い立ち、行政の支援を得ながら自分たちで「殿町地区地区計画案」をまとめました。これについては、松阪市とも協議をして、私もアドバイスをしました。出来上がった地区計画は、殿町を中心とした40.5ヘクタールという大変広い範囲を対象として、高さ12mを基本とした建物規制の内容でした。この地区計画にはマンション業者もしぶしぶ賛同、マンション建て替え時にはこの地区計画を遵守することを約束しました。2006年には地区計画として都市計画決定されました。こういった動きも踏まえて、松阪市は2008年には景観計画を策定して、2009年1月より運用を開始致しました。左の写真はそれを報じる新聞記事です。

 右の写真は四五百森に出来たマンションです。残念ながら最初の事例は止めることはできませんでしたが、とても良い環境にこうしたものが建ってしまったことは残念です。しかし、これをきっかけに初めて地元の人びとも景観に向き合うようになって、この10年まちづくりを一生懸命勉強され、取り組んでいかれました。

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