地方都市での「議論と合意」の景観まちづくり
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計画策定からまちづくりの実践へ

 

■河崎商人館

 その後、いよいよ都市マスタープランで位置づけた事業を市民と一緒に実現していくことになりました。

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伊勢河崎商人館 伊勢河崎商人館
 
 最初の事業として、「伊勢河崎商人館」と名付けた施設が、まちづくりの拠点として誕生することになりました。修復工事を経たうえで、今は登録有形文化財になっています。

 右の写真はまだ修復前で、この頃はまだ都市マスタープランで拠点の位置づけができたばかりでした。ここをセンター機能を持たせた河崎商人館としてオープンしていこうという話し合いがされている時期でした。

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伊勢河崎商人館のオープンイベント 外観
 
 オープンは2002年です。この時は、かつての愛知県から船に乗って伊勢神宮に参拝した船参宮の様子を一部再現してみました。

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伊勢河崎商人館見取り図
 
 現在、河崎商人館の指定管理者はNPO法人「伊勢河崎まちづくり衆」で、市から委託を受けて管理しています。川沿いにある「商人蔵」は賃貸スペースで、ミニショップが25入っています。「角吾座(かどござ)」というのはみんなが集まるスペースで、主にまちづくりのシンポジウムやイベントを行なっています。「河崎まちなみ館」は河崎の町並みや文化に関するパネル展示をして河崎の紹介をしています。あと、茶室や和室も備えていて、有料で市民に貸し出しています。


■多彩なまちづくり活動の展開

 この「河崎商人館」が出来て以降、河崎のまちづくりはかなり進んだのではないかと思います。今では伊勢河崎まちづくり衆の人たちが中心となって、いろんなまちづくりの活動を展開されています。

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パンフレット 河崎かわら版
 
解説する、知らせる、記録する
 まずは「解説する」という観点から、いろんなパンフレットを制作されました。また、「知らせる」という観点からは、河崎地区の住民およびまちづくり衆会員に向けて「河崎かわら版」というニュースを毎月発行しています。「記録する」という観点からは、先ほど紹介した長尾正男さんが河崎の貴重な映像を持っていらっしゃるので、それを整理して映像記録のデジタルアーカイブにしました。これは、DVD販売もしておりますが、まちづくりの専門家が来たときは買って頂いているようで、NPOの重要な収入源になっております。また絵はがきも販売していますが、これも人気があって、DVDと同じくNPO活動の貴重な収入源です。

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新・蔵くら談義 展示する
 
話し合う
 また、話し合うという観点から、年に1回は「蔵くら談義」と名付けたシンポジウムを行なっています。これからもまちづくりに関する話し合いをしていこうということで、必ず年1回は行うことになっています。

 先ほどちらっと説明しましたが、まちづくりの応援に駆けつけたくれた専門家の中には京都大学の西山夘三先生の研究室のみなさんがおられます。先生方が河崎の調査をしてくださって、それが古い町並みを見直す大きなきっかけとなりました。商人館が開館した後も、当時の研究室の一員だった三村浩史先生が駆けつけてくださり、シンポジウムで河崎のまちづくりの講評をしていただきました。

展示する
 「展示する」をメインに行っているのは、商人館の「河崎まちなみ館」です。ここには私の研究室も協力しまして、かつて反対運動型だったまちづくりが協働型に変わっていった変遷の様子とか、伊勢河崎の町のどういうところがユニークなのかを、来館された方に分かりやすくお伝えするためのパネル展示をしています。また、研究室でつくった商人館の模型もここに展示しています。

賑わう
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河崎商人市ポスター 商人市の様子
 
 河崎はもともとが商人の町ですから、「賑わう」という観点もはずせません。商人町をテーマに新しいまちづくりをやっていこうということで、新しく「河崎商人市」というイベントを企画しました。これは商人館とその周辺の地域を利用したイベントで、近郊の農家の方に協力してもらっていろんな収穫物を市に出してもらいました。また伊勢市内のお土産屋さんや企業にもこのイベントに協力してもらって、たくさん出店してもらいました。おかげで、多くの人が賑わうイベントとなりました。こうした賑わいも一つのイベントとして演出しています。

拡がる、復元する
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伊勢二見地域観光交流づくり 伊勢船形復元木造船みずき
 
 このまちづくりをもっと多くの地域にも広げようということで、「拡がる」という観点から考え出されたのが「伊勢二見地域観光交流づくり」です。

 商人館のすぐ近くに、川の駅ができました。水運を活かしたまちづくりをテーマにしていますから、舟を使って交流できないかと考えたのですが、昔ながらの伊勢船を造れる大工はもうほとんどいないのです。探してみたら1人だけおられて、その大工さんが生きている間に伊勢船型を復元したいと、2005年に復元木造船「みずき」が出来上がりました。

 この船は今、勢田川を定期的に運航しています。みずきという名前は、オリンピックの女子マラソンで金メダルを取った野口みずき選手が伊勢市出身だったことからその名前をいただきました。

結ばれる
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船参宮の掘りお起しと再現 二見町茶屋地区(景観形成地区)
 
 またこれ以外にも、水運を活かすということでは「伊勢神宮への船参宮の掘り起こしと再現」などをしています。

 河崎のすぐ隣が、夫婦岩で有名な二見町です。ここと伊勢市が合併して、二見町も伊勢市になりましたので、夫婦岩の「結ばれる」というしめ縄にあやかって二見町の歴史的な町並み地区とも今は連携して活動をしています。

 二見町にも茶屋地区に三階建ての木造の旅館が現存しており、今は伊勢市の景観計画の中でも重点地区として指定されています。合併したことで伊勢市の中には歴史的な町並みが増えたこともあって、それらが連携して賑わいのあるまちづくりとなるよう取り組んでいるところです。

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伊勢春慶と常滑焼のジョイント展ポスター
 
蘇らせる
 また、伝統産業を「蘇らせる」という観点からは、伊勢春慶という戦前に使われていた漆器の再生に力を入れています。伊勢春慶はかつて伊勢で製造されていた重箱や箱膳などの日常漆器の名称です。それを現代の生活の中に蘇らそうという取り組みも今進んでいます。

活かす
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居酒屋
 
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カフェ 美容院
 
 「活かす」という観点では、民間による空き町家、空き蔵を活用していこうという動きがあります。これは伊勢市だけでなく他の町でも今盛んに行なわれていますね。幾つか紹介します。上の右の写真は蔵を居酒屋に改装した例です。他にも、カフェ、古本屋といったいろんなお店へと生まれ変わっています。


■景観形成ガイドライン

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景観形成ガイドライン(案) 勢田川流域まちづくり提案
 
 こうしたいろんな展開を経て、景観形成のガイドラインをいよいよ作っていこうということになりました。これは私たちの研究室も参加して、2006年に「伊勢河崎地区景観形成ガイドライン(案)」が作成されました。まだ伊勢河崎には正式なまちづくりのルールがない状況でしたので、数年前にみんなで協議をしていったのです。

 2007年には伊勢市で「第30回全国町並みゼミ」が開かれました。全国町並み保存連盟の方々にも多数伊勢市に来てもらいました。

 三重大学大学院の設計計画演習の授業でも、勢田川流域の再生とまちづくりをテーマに取り上げました。商人館で1ヶ月間ほど、その提案を展示して多くの市民に見て頂きました。

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伊勢市景観計画概要 その一部
 
 こうした取り組みを経て、来月(2009年10月)から景観計画が運用開始されます。

 このほか今日の話ではあまり触れることができませんでしたが、伊勢市二見町の茶屋町と伊勢神宮内宮のおはらいまちが、いま景観の重点地区となっています。特におはらいまちは伊勢志摩の町並みの中では一番賑わいを呼んでいる集客力の高い地区です。国が景観法をつくるときも、このおはらいまちが引き合いに出されて、景観をテーマに地方都市の再生ができた事例として国会で紹介されていました。ここは戦前から美観地区として指定されていたのですが、それを景観地区に指定して高度地区の見直しなどもやっています。ここもいろんな取り組みをしている所ですので、また機会があれば詳しく紹介していきたいと思っています。


■河崎のまちづくりの特徴

 さて、最後にもう一度河崎の町にふれますと、かつてここは盛んに反対運動が展開されたところです。今では多くの人が河崎のまちづくりに賛同してくれて、自治会長も応援してくれる状況に変わりましたが、まだ一部で反対されている方がおられます。従って、まちづくりにはもう少し時間をかけてやっていく必要があるということで、今回は重点指定は見送りました。近い将来は重点地区にしていきたいと、準備をしているところです。なんとか重点地区に指定して、今まちづくりにやる気を出している住民の後押しをしていきたいと考えています。

 以上、私の「地方都市での議論と合意の景観まちづくり」についての報告を終わります。

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