4−6 ポッピPoppi アルノ川上流の丘上都市でのワイン祭 若本 和仁 KAZUHITO WAKAMOTO 大阪大学 |
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アルノ川をティレニア海から遡ると、ピサからフィレンツェとイタリア半島を東に進み、フィレンツェを過ぎたあたりで南下し、アレッツォで再び北上する。ワインで有名なキャンティ地方はフィレンツェとシエナ、アレッツォに囲まれたアルノ川の西側の地域にあり、ポッピはさらに上流、つまりアルノ川が北上する平野部にある。封建時代の拠点の一つだったそうで、流域の平野部を睥睨する丘上の都市である。 さて、今回の旅行の目玉の一つは、間違いなくポッピのワイン祭であった(と思う)。毎年、町中の建物の1階部分を開放して、この地域のワインの展示・試飲会が行われるという。まちづくりに関わるものとしては、このイベントを見逃すわけにはいかない。もちろん、ワインそのものの魅力にも惹かれたわけだが。ポッピのワイン祭は10年程前に始められたプロローコが主催するイベントで、ワインの出展はトスカーナのワイナリーに限っているということである。 ■ホテル 祭りの期間中は、なかなか確保できないそうだが、井口さんの早めの予約の結果、旧市街地唯一のホテルであるCasentinoに宿泊することができた。 建物は城塞の一部だった(パンフレットより)ようで、丘の頂部にある。ホテルの前には広場をはさんで尖塔のある砦(このあたり一体のランドマーク)が聳えている。ホテルはこれとは対照的に、緑の中庭や小ぶりな建物で構成されており、客室はエントランスより下の階に配置されている。建物が丘と一体となっているので、丘の中腹に宿泊するといった感じである。 部屋の窓を開けるとすぐ下に通りがあり、まちの様子を眺めることができる。今回訪れた他の都市同様に、通りのそこかしこで、会話等して過ごす人たちが多く見られた。また、ちょうど結婚式があったようで、ワイン祭りの準備に忙しいまちの中で新郎新婦が記念撮影をしていた。祭りのためか、深夜になっても、通りでの歓談は続き、歌を楽しむ人たちもいた。 部屋の内部はベッドとシャワーがある程度であるが、立地やまちとの関係がおもしろく、ポッピのこの場所でしか味わえない貴重な経験を提供している。 ■ワイン祭り 夕食の前に、まちに出かけた。各建物にはポッピの旗と酒造メーカーの旗が掲げられており、祭りの雰囲気を醸し出している。目抜き通りに面した建物の1階部分の多くが出展スペースとなっていた。そのうちの一つに入ってみると、さらに奥の地階では、ワイン蔵の様子を見せながら、ワインだけでなくチーズやソーセージの販売も行っている。出展のあるエリアはそれほど広い(長いといった方がよいか)わけではないが、道沿いだけでなく地下にもこうしたスペースがこっそり用意されているとわかると、まちに奥深さが加わってくる。 ホテルに戻って夕食を済まし、すっかり暗くなったまちに再び繰り出す。いつのまにか通りは多くの人であふれており、大いににぎわっている。通りにはテーブルと椅子が置かれ、気軽に座って祭りを楽しむこともできる。メーカーのスタッフもいつのまにか衣装替えして、自社のワインをアピールしている。こういうところで格好良くきめるあたりは、是非とも見習いたいと思う。 ところで、当たり前のことだが、ワイン祭りでは試飲ができる。その方法は、回数試飲券とグラスを購入するというもの。グラスを入れた袋を首からぶら下げて、回数券を持ってお気に入りの場所をまわる。そうして楽しげにまちを散策する姿はとてもいい。 ワインそのものも良いのだろうが、活気を凝縮するようなまちの密度が、楽しさの密度をあげているように思われる。さらに、祭りの舞台がもともとコンパクトな空間である上に、夜の帳がおりると、ますます密度が高まる。ワインや人がクローズアップされ、俄然、魅力が増すように思われる。 建物の一階、地階はその上階の家屋の所有であることが一般的で、普通は倉庫やワイン倉として使っている。空室になった倉庫が増えたところに目をつけて町のポロローコがこれを借りてイベントに活用することを思いついた。 ■ポッピから眺める田園風景 祭りは3日間行われ、我々はその初日にポッピを訪れ、翌日には、帰国やその他の都市への移動のためポッピを離れた。離れる前にポッピから朝のトスカーナを見渡した。丘の上なので、はるか遠くまで見渡せる。緩やかに起伏する美しい田園地帯を眺めながら、日本を思う。田んぼ中心なので様子は異なるが、美しさでは負けていないと。ただ、どちらも人手が入ることが美しさの前提であるという点がミソなのだろうが。 参考文献:イタリア都市の諸相―都市は歴史を語る―― 野口昌夫 |
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ホテルの窓から見下ろす通りの風景 |
ワイン祭り案内図☆辺りにホテルがある |
ワイン祭りの準備が進むまちの様子 |
ポッピのホテル カセンティーノ実測図 作図 井口 勝文 |