2人のデザイナーが語る「街のあかり」
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LEDを使った仕事

 

■LED・注目される光源

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うつくしま未来博
 
 LEDは今とても注目されている光源です。我われは2000年ぐらいにプロジェクトでそれを扱って、その制御性にびっくりしました。分子同士が振動してエネルギーの波動を伝える物理的な原理をそのまま制御できるということを技術者から聞いて、びっくりしたというのが最初の出会いです。もちろんそれ以前からLEDはいろんな所で使われていたのですが、H2Oの三体の変化「氷、水、蒸気」が一気に解き放たれるように、体積が千何百倍になって活動するような可能性をLEDも秘めている、だから「これは照明ではない」という感覚から我われはスタートしました。そして、その制御性を利用して一体的にライトアップすることにチャレンジしました。

 写真はイベントですから今はもう設置されていませんが、太陽電池を搭載したイルミネーションです。当初の計画では20ヘクタールの広さに5千本突き刺そうという話でしたが、結果的には3千本になりました。このユニットの頭に太陽電池があって、LEDはたった4粒しか入っていません。蓄電部にはニッカド電池が入っていて、コンデンサーの発電力が落ちると逆流して点灯を始めるので、1灯ずつ点灯時間が違うんです。その点灯シーンが自然でとても美しくて、分電盤から一斉に点灯する建築的な光とは一線を画した趣が出ました。

 太陽電池とLEDとコントローラーと電池の組合せは、実はその30年前から漁業の場や交差点の信号でも確立したシステムとして利用されていました。ですから、その特許もいっぱいあります。私たちはその組合せの中で、コントローラーにマイクを加えて、音声入力で点灯できるようにしました。マイクロフォンの音声入力で点灯輝度をぽんとあげて、空気の振動にも反応するようにしたんです。イベント会場には子どもたちもいっぱいいましたから、声に反応したのか風に反応したのかは実は良く分かりません。しかし私は「風に反応する」と言って人を驚かせました。ただ、人の声に反応しそうにない場所でもちらちら点灯していたのをみると、それもあながち嘘ではなかったようにも思います。

 通常のシステムの中に新しいシステムを加えることによって、全然違う表情になるという意味では面白い実験だったかなと思います。


■東京・六本木

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六本木ヒルズアリーナ
 
 2003年に六本木で行った仕事です。当時の不安定な経済状況の中でこのプロジェクトの進行が危ぶまれながらも、完成した都市再生プロジェクトです。ここのお祭り広場的なオープンスペースに、当時は画期的だったデジタルライティングを取り入れました。これは当時のアメリカで誕生したばかりのカラーキネティックスのLEDで、点灯させるための電力と制御信号をマルチコアという配線システムによって一体化して8ビットで1600万色の階調が作れるもので、我われは早くからそれに注目していました。ここではその初期版のハードを使い、画像をデータとして再生するという試みをいたしました。なぜ画像なのかというと、この建築は追加的に建ったもので、その柱は景観的にどうも…という事情もあって、夜はそこをビルとビルのすき間に描かれる光の現象にしようというコンセプトでした。

 写真は、夕焼けのシーンを縦に切っている映像です。実際は静止画像や動画の夕焼けが入っていて、歩いていくとそれが密になってなんとなくふっとその光景が見えたような感じがする。もちろんそれに気づかない人もいる。都市の自然は、実際に山に登って森林浴をするようなものとは違って、自分のイメージの中にある自然の方が大きいと思います。自分のイメージにある自然観とつながるようなものをベースにしてデザインしました。


■クリスマスイルミネーション

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六本木ヒルズけやき坂クリスマスイルミネーション
 
 この街のオープンと同時に、クリスマスイルミネーションのデザインを始めました。クリスマスイルミネーションのデザインは、後にも先にもこれだけです。当時は、デザインよりも、30万球のLEDを集める流通的な障害の方が大変だったことを覚えています。大阪の照明メーカーさんをはじめ、数社のメーカーさんにご協力頂いて、このイルミネーションが実現できました。

 こういうイルミネーションでは多分長町さんもご苦労されていることと思いますが、施工労力が大変なんです。お金の大半はこれにかかるというイベントでして、当然続けようと思えば民間からスポンサーを募って維持しなければならないというあまり安定的ではない照明装置と言えるんじゃないかと思います。


■六本木イルミネーション

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六本木ヒルズけやき坂クリスマスイルミネーション
 
 2年目になったとき、「今年はどんなのをするか」と聞かれたとき、私は「10年同じものでいきたい」と言ってしまいました。今はまだ10年経ってないのですが、毎年「今年は変えるのか」と聞かれます。

 なぜ10年同じなのか。毎年LEDを補充しながらやっていますから経済的には安くならないのですが、一新するよりは多少イニシャルが軽減されます。またびっくりすることに毎年新調する白色のLEDは全部色が違うということもあってがっかりもしているのですが、こういう長く続ける季節的なイベントは都市のブランドということも考えると一過的に変貌してしまうものではないほうがいいんじゃないかなと考えています。

 それで、毎年「これでいこう」と説得しているのです。昨年も「来年は変えようね」という話がありましたから、今年のクリスマスは六本木を通るときに、10年の目標を維持できたか、また一過的な話題性に屈伏したかをお確かめください。


■表参道

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表参道ヒルズ
 
 ここはかつて同潤会のアパートが集積した景観で知られていたところです。表参道のケヤキの並木と同潤会アパートの建物のスカイラインが美しく、特に夜になるとアパートのひとつひとつの窓からさまざまなエネルギッシュなパワーが感じられた場所です。こういう物語性があるところにいろんなものが重なって、街並みが出来ていくんだなあとつくづく思います。

 新しく再開発事業によって建て替えられた建築は、4層まであるカーテンウォールの外装は商業的なファサードで、採光的には機能してない状態です。私の仕事は、それをフェイクするための照明です。

 ガラスとバックパネルの間は約90mmでした。その中に、我われは当時最先端だった全く新しいLEDのドットパターンのモジュールを使いました。とはいえ、ロットごとの変色とかいろんな問題が続出しました。当時はアルミでベースの金物を作ろうとしていたのが、いつのまにか板金の金物になっていてLED交換の時のストレスで断線しやすいなど、いろんな問題を抱えながら、一応、今も何とか点灯してくれているという状態です。

 ここでのコンセプトは「窓明かり」です。中に秘めているエネルギッシュな表情を予感させる点で頑張っているつもりです。ここにすごい映像を映してそこにエネルギッシュなものを表現するというやり方もあったのですが、我われが求めたのはそうした劇的な変化ではありません。むしろ整然とした表現の中にエネルギーを感じる光のあり方を選びました。

 このLEDは一点一滅制御で2万ドット入っています。もちろんここで動画も出来るのですが、ご存知の通り東京もほとんどの中心部では景観条例や広告物規制がありますから、広告媒体としては使いたくても使えません。

 一番主張したかったことは、整然とした光と動く演出の時間の割合です。50%50%でやってしまうとパチンコ屋になってしまうということをずいぶん言いました。ずっと動いていると思われることはやはり軽率なことで、多分そういう所だと思われてしまうと、もうそれには注目されなくなるだろうし、その方がずっと恐ろしいと思います。それで、今は1時間に数分という形でプログラムが運行しています。

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