2人のデザイナーが語る「街のあかり」
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施工と様々な協議

 

■計画の概要

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全体デザイン計画図 イルミネーションイメージ
 
 左の写真が平面計画です。351本の列柱も大川から南に行くにしたがってブルーからピンクなど変化を持たせたカラー計画を考えました。

 右の写真は、自分たちで撮影した御堂筋の写真の上に作り上げたイメージCGです。何とかお金の折り合いもつきまして施工事業者さんも入札で決まり、ようやく実現の目処が立ってきたころには、このCGが様々に使われてまいります。。

 完成後の姿を画像などで視覚化していかないと伝わらないのが照明デザインというものです。それだけに、画像での表現はニュアンスの正確さが重要で、照明ならではのすごいところは描いた絵と出来たものがほとんど一致してしまうということなんですね。

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イルミネーションの絵をつかったお弁当やパン
 
 この絵は竣工前にいろんな媒体でどんどん使われ、お弁当にはなるわパンにはなるわといろんな所で使われました。そういう中でいよいよ施工が始まっていきました。


■施工が始まる

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17メートルクラスの高所作業車 植木職人さんたちによる施工
 
 これはあまり公表されていませんが、施工の様子です。11月に入ってから12月の竣工まで毎日夜の10時から朝の5時まで1ヶ月間、関連のメンバーが交代で立ち会ってクレーン作業を見ながらチェックを行いました。これが毎晩続き、もちろん昼間の仕事もやっていますから、私の体内時計は完全に狂って一体今が昼なのか夜なのか分からないような体験もいたしました。

 ところで、この作業による最大の特徴は右の写真のコアラのように幹に抱きついている人です。実は、イチョウの幹に迫るような作業となると高所作業車では対応できなくて、植木職人さんたちによる施工をやることになり、植木職人のチームを編成してもらいました。当初は、職人さんもこういう作業に慣れてなくて一晩に4本しかできなかったのですが、日を追ってどんどん上手になって最終段階には一晩で12、13本を完成させるという技を見せてくださいました。植木職人さんたちによる施工で、イチョウの枝も傷めない作業ができたわけです。

 その施工内容も、緑化テープを巻いてシュロ縄で結ぶという繊細なやり方です。というのも、事業主体は大阪府なんですが、この木は大阪市さんの持ち物ですから、府が市のものを傷めては大変というわけで、随分と気を遣った施工で仕上げていったということです。

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植栽を傷めない施工
 
 緑地は当初どうやってイルミを付けるんだ?と議論しましたが、結局は植栽を傷めないようペグやワイヤーを使用しないでふんわりと上に設置するというエコロジカルな内容になりました。

 施工についてはこれ以外にも、もっとお話ししたいいろんな苦労話があったのですが、割愛することにします。


■モックアップ実験(2009.11.11)

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イルミネーションの様子 視察
 
 2街区ほどできたところでいよいよモックアップ実験にいたりました。

 実はこのイルミネーション事業は大阪府にとっては特別なものでした。財政難の中でも活気作りは重要と考えて、府民の皆さんからの寄付で予算立てをして事業を実施するまでになったのです。実施までには多くの議論があったとお聞きしました。

 コンペの審査員にはみなさんもよくご存知の面出薫さんや橋爪さんが加わっていました。大阪のことをよく知っているこの方たちが審査を務めたから、イチョウだけではなく御堂筋のビルも含めたライトアップにもお金を使おうとしている案が通ったのだと私は思っています。


■ファサードメイクアップへの沿道のビルの協力

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ファサードメイクアップのコンセプト
 
 このモックアップ実験をやっている最中、他方ではファサードメイクアップの調整が大詰めを迎えていました。

 写真は私の事務所で作った資料です。27箇所のビルひとつひとつを説得していかなければいけませんでした。電気代はもちろんビルに持って貰いますし、この事業を納得してもらうために個別の説明資料が必要でした。

 大阪府さんと一緒にひとつひとつのビルを回ってオーナーさんに頼んでいきました。

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竣工 ビル内部
 
 電源の問題とかいろいろあったのですが、みなさん快く協力してくださることになって、結果的に27のビルがこのイルミネーション事業に参加してくれることになったわけです。

 ビル内部は右の写真のように、案外簡単な仕掛けなんです。酒ケースの上に棒を置いただけの所に、フィルターを巻いた蛍光灯を置きました。簡易なやり方でしたが、これで約51日間、照らしていきました。

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竹中工務店のライトアップ
 
 これは竹中工務店のライトアップのコンセプト資料から竣工にいたるまでの様子です。さすがに日本の建築デザインを背負っている会社だけあってデザインには厳しく、おまけに御堂筋ネットワークという御堂筋のビルオーナー組織の事務局もされていますので、御堂筋に対しては責任感をお持ちです。ですから、ダメ出しもいっぱい出まして、「やるのは良いが変なデザインだったらやらさない」という話で、実験は何度も何度も繰り返しました。窓をお借りしてどう見えるかということも繰り返し、プランもいくつも作りました。ようやくOKが出て、竣工したのが右の写真です。

昔、内原さんに伺ったことですが、京都で寺社のライトアップをはじめて手がけられたとき、相当ご苦労されていたのですね。まだライトアップが日本では認知されていなかった頃に、1人1人に話をしに行って、すごく手間をかけて作り上げていったというお話でした。不思議なもので先輩の言葉を聞いて後輩は頑張れるというものです。背景のビルの演出はとても大事なことだと信じ、これは手間をかける価値があるし、根気よくやれるだけのことはやろうと思いました。 本当に大変な作業でした。

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東銀ビル実験風景 竣工後
 
 東銀さんの石のファサードです。ここの壁には大きなLED投光器で照らしています。竣工後には、イチョウのイルミネーションの背景にビルが見えてくるという私がイメージした通りの景観が出来ました。

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大阪ガスビル
 
 大阪ガスビルさんの場合は、最初にイメージ図を出したとき、ちょうどRの角のどこかの階になかなか普段でも入れないお部屋があって、「ここに色の付いた光を入れるのは絶対無理」と言われたのですが、実験をしてみますと綺麗なビル風景になって、大ガスのご担当の方が「本当に綺麗だから僕からもなんとか働きかけてみます」と言ってくださいました。それを聞いたときは、大阪府さんともども本当に嬉しい気持ちで帰ってきたのを覚えています。

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機材をレンタル寄付してくださったメーカー
 
 いろんなエピソードを生み出しながらビルファサードのライトアップが実現したのですが、沿道のビルの協力だけでなく、メーカーの方々の協力も大きいものがありました。投光器は1台30万円もするのですが、それをいくつもの会社が貸してくださいました。私が以前在籍していたパナソニックなどは、「天下の御堂筋やし、じゃあ一肌脱いだるわ」と18台も貸してくださいました。


■にぎわいづくりのために

 イチョウ、ビル、路面の三位一体でのイルミネーションはできました。実は路面の緑地帯でも苦労話があって、警察としては国道の緑地帯にイルミネーションは付けて欲しくなかったのですが、それを大阪府のご担当者が警察に日参して実現できるようになったといういきさつがあります。

 そうしたエピソードを重ねて、当初考えていたように御堂筋をパースペクティブに見せることはできるようになったのですが、そこににぎわいを生み出すためには楽しい仕掛けが必要だという話が出て、いろいろ考えてみました。

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ワンダーライト・デザイン計画図
 
 最初はこのようなサプライズとして「ワンダーライト・デザイン」を考えました。ですが、ほとんどが安全上アウトになって実現することは叶いませんでした。私としては右の写真のようなビルの壁面に影絵を浮かび上がらせるのがとても気に入っていたのですが、動く映像を御堂筋で見せることは警察的にできないと言われ断念です。

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ワンダーライト・デザイン計画図/ウエルカムサイン
 
 しかし、それ以外にはいまだかつて実現したことのない「4列のイルミネーション」「緑地帯のイルミネーション」が実現しました。今はできないと思われることも、少しずつ兆戦して実験していければいいと思うんです。ビル壁面の影絵は実現できませんでしたが、実験でそれを実際に見ることも出来たし、写真も撮れましたので、またトライできるかもしれません。

 ほとんどがダメだった中で実現できたのが、右の写真の「ウエルカムサイン」です。


■記念撮影ポイントのアイデア

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記念撮影ポイントのアイデア
 
 さて、サプライズポイントは出来なかったのですが、その後「やはり記念撮影のポイントはいるだろう」と思って考えたのが、イルミカーとイルミハートです。

 この2つは公開空地に置かれました。本当はあと2つ案があって、私は「イルミマン」が気に入っていて「御堂筋に来た人はみんな小林幸子になれる!」とはりきっていたのですが、残念ながら公開空地の数が2つしか取れなくて、イルミマンはボツになってしまいました。

 出来上がって置いてみると大勢の人がやってきて、いろんな撮影をしてくれてます。ただ実際にイルミカーやイルミハートに乗ってみる人はあまりいなくて、この裏に立って撮影する人ばっかりなのがちょっと残念です。

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