地域に学ぶ景観まちづくりの作法
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1。学生コンペと灯りのイベント

JUDI関西 松川奨

 

■姉小路のブランド化を目指して

 中村さんのお話にあったように、JUDIメンバーとして姉小路のために何ができるか、姉小路というブランドをどう生かしていくかということを考えました。その頃、京都市が打ち出していた「人が主役の身近な道路づくり」という計画がありましたので、そのスキームに組み込むことを目標として考えてみました。

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姉小路界隈:行灯会の風景
 
 どんなことが姉小路にふさわしいかを検討し、「地蔵盆の似合う道」「優しい灯りの道」「切り絵の通り」などのテーマをあげ、事業のモデル地区化を目指しました。切り絵とは地蔵盆の時、地蔵盆の行灯に貼ってある絵のことです。いろいろアイデアを出して話し合っているうち、結局この地域で一番重要視されているのは灯りということだということが浮かび上がってきました。もともと地蔵盆のイベントも、昔町内を照らしていた辻行灯が界隈の町家から見つかったことから「昔の町内のつき合いをしのぶ」ため、町内が主体的に行なうイベントとして始まったものです。

 こういうことを踏まえて、JUDIとして何かアクションを追加できるかを考え、灯りについて学生からアイデアを募って、イベントの中で使えるオブジェを学生コンペという形で展開していくことにしました。灯りと同時に、ブランドイメージを高めていくために姉小路のシンボルマークも募集致しました。

 これが毎年姉小路で行われている地蔵盆の行灯の灯りです。こういう形で、道の両側に行灯を並べて風情ある景観を作られています。


■コンペ概要

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コンペ概要・スケジュール 状況
 
 コンペでは「姉小路界隈のシンボルマーク」「姉小路に似合う灯りのオブジェ」という2つの課題を出しました。また灯りのオブジェでは「建物に吊したり、玄関に置いたりできるオブジェ」「まちづくりイベントで歩行者天国時に道路に置くオブジェ」の二種類を募集しました。

 スケジュールとしては、エントリー開始が2009年6月、締め切りが2009年7月中旬としました。

 学生を集めての現地説明会を7月28日に行い、そのとき姉小路の界隈を考える会のみなさんから、まちづくりの経緯とこれからどんな街にしたいかということを説明していただきました。その後夏休みをはさんで、提出期限を2009年9月19日として、公開審査は同年9月27日に行いました。

 コンペの状況ですが、関東を含む全国からの応募が29組ありましたが、実際に現地説明会にやってきたのは関西圏の大学を中心とした学生さんだけでした。最終的には現地説明会きた学生さんの手による作品だけが提出され、その総数はシンボルマーク7点、灯りのオブジェ13点でした。右の写真が、その時のコンペ募集ポスターです。


■公開審査会

 公開審査会では住民による第1次審査と審査委員による第2次審査が行われました。やはり姉小路界隈のためのものは住民自身で選びたいという意向もありましたので、まずは住民による第1次審査が行われました。その後そこで選ばれた作品の中から、審査委員が最優秀を選ぶ第2次審査が行われました。これはパネルディスカッション形式で協議を行いました。学生相手のコンペだったせいか、大学での講評会みたいな形になったのですが、アットホームな雰囲気で進んで良かったと思います。

 審査委員を務めていただいたのは、地域住民代表から3人(当時の朝日新聞総局長の高橋和志氏、松島屋社長の戸井田平一氏、柊屋女将の西村明美氏)、JUDI関西からは技術系審査委員として2人(パナソニック電工の豊留孝治氏、大阪産業大学の金澤成保氏)の計5人です。

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第1次審査の様子
 
 第1次審査は、谷口さんのお宅(姉小路画廊)の正面に提出作品をぜんぶ貼りだして、住民1人1人が持ち点10点を灯りとシンボルマークで5点ずつ、好きな作品の下に貼ってもらうという形式にしました。この審査会の時には提出した学生も側にいましたので、住民の質問にも答え、納得した上で点を入れてもらうということになりました。

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第2次審査の様子
 
 第2次審査では、姉小路の道路そのものを会場にして、学生さんたちに道の反対側に座ってもらってパネルディスカッションを聞いてもらいました。(行灯会の時は道を通行止めにしていますが)このときはまあ歩行者天国ではないわけですから、やっている最中にも自動車が我われの間をどんどん通り過ぎていく形になったのですね。最後は、柊屋女将から入賞者に賞状が手渡され、みんなで記念撮影をして無事コンペを終わりました。


■コンペ受賞者と受賞作品

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姉小路界隈のシンボルマーク 姉小路に似合う灯りのオブジェ
 
 シンボルマーク最優秀賞に選ばれたのが坂本沙瑛子さん(京都精華大学)の「人と町を結ぶシンボル」です。これはすでに「姉小路を考える会」のホームページやチラシなどで利用されています(左の写真)。

 オブジェでは荒田晴香さん(京都精華大学)の「路地(ろうじい)」が最優秀賞に選ばれました。この作品の優れているところは、この中にろうそくを入れることで、どこでも置けたり吊るしたりできるという点が評価されました(右の写真)。

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姉小路に似合う灯りのオブジェ
 
 優秀賞の「あねさんとう」(吉永了鼓さん)の作品はコンペ提出時には街角に置けるということだったのですが、やはり素材に燃えやすいものを使うとのことから電源コードの方が良いということで、最終的にはこの形にならなかったのが残念でした(左の写真)。

 他の優秀賞も紹介しておくと、LEDと竹を使った「かぐや」(小椋聡介さん)、「結月」(伊藤英里佳さん)などがあります。「結月」は街角と言うよりは屋内に置いておきたい照明として評価されました(右の写真)。


■まちなかを歩くウイーク2009

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風景
 
 これらコンペに提出してもらった照明作品は、11月に行われた「まちなかを歩くウイーク2009」でも展示することになって、実際にちゃんとしたオブジェとして制作してもらいました。このイベントの時は、京都市立芸大の藤本先生による姉小路のサインのパネル展示も行なわれています。作品やプレゼンの資料は、姉小路画廊(谷口さん家)さんのスペースを拝借して使わせてもらいました。

 またこのイベントからは「町を守る鍾馗さん」キャラクターのキャンペーンポスター(右の写真)が生まれたりするなど、いろいろ収穫があったイベントだったと思います。

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夜の風景
 
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夜の風景
 
 上段の右の写真にあるように、画廊の正面には最優秀賞のシンボルマークと照明を置きました。下段の2枚の写真は夜の姉小路の様子ですが、おなじみになった姉小路の行灯を両側に置き、その真ん中に優秀賞の「かぐや」を置いてどんな雰囲気になるかも見てみました。

 行灯の色合いとは違うLEDの灯りがあることがけっこういい風景だと見られたようで、道行く人がみんなこれをカメラにおさめていったという話を聞きました。


■コンペの成果と課題

 このようにコンペは無事に終わりました。地元の柊屋女将や朝日新聞京都支局長などを巻き込む形で行ったので、内容的には重みのあるコンペになったと思います。また住民の意見を採り入れるという審査方法を採ったことで、住んでいる人々の「我われも一緒にまちづくりに参加した」というモチベーションづくりには貢献したのではないかと思っています。

 ただ、コンペのあと「実作」を義務づけたために、後期授業期間中の学生への負担が大きくなってしまいました。これは学生を集めていただいたJUDI会員の方から指摘されています。もし今後も同様のイベントを開催するのであれば、アイデアコンペだけをやって、実際の制作は外部に委託する形で学生の負担を減らすことが求められると思います。

 また今回はJUDI関西の事業という形で賞金や製作費が出たのですが、次回からはスポンサーを集めて展開しないと、うまく今後へつなげられないのではないかとも思います。


■今後の展開

 「灯りを生かしたまちづくりの可能性」を追求し、学生たちのいろんなアイデアを組み込み、灯りのバリエーションを増やしていくことで、それを元からあった灯りに付加することで、姉小路を彩るオブジェとして無限の可能性が見えたのではないかと思っています。

 また、審査委員を務めていただいた柊屋の女将もコンペの作品の中に個人的に気に入ったものがあったようで、学生さんにも「これをどうするのか」と聞く場面が見られました。

 残念ながら学生さんの力量では商品として提供できる実作を提供できなかったという事実もあります。そういうことを考えると、今後のコンペでは、姉小路にお店を構える柊屋さん、俵屋さん、亀末廣さんなどの老舗に似合うようなオブジェのアイデアを募集して、それぞれの老舗に賞金を出してもらうような手法も検討してもいいんじゃないかと考えています。

 イベント用の灯りのオブジェだけでなく、普段の町を彩る各戸ごとの照明や街灯も姉小路らしいデザインに調整することで、姉小路ブランドを高めていけるのではないだろうかという考えもあります。今後はパナソニックさんの協力もいただきながら、照明のことなども計画していきたいと考えております。

 以上で、コンペの報告を終わります。

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