地域に学ぶ景観まちづくりの作法
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はんなりとは? 色彩と時間の経過について

 

司会

 井山さんのお宅も勝手にスタディさせて頂きましたが、どうでしたでしょうか。

井山

 思っていることを申し上げますと、まず色についてですが、京都でよく使う「はんなり」とはどんな色彩の感覚なのでしょうか。それがまず聞きたいことです。

 それから、先ほどから出ていますように、私も色の出具合について町内全部、同じ色になってしまうのはおかしいじゃないかと疑問が残るところです。

 京都を描いた日本画を見ると、町並みに使われている色はいろいろです。いろんな色が混ざって景観が作られていくと思うんです。京都の本来の色は何だろうと思いました。

 私の家の話をすると、紅殻の壁は我われが子どもの頃はもっと赤っぽい色でした。落ち着いた色合いというのは長年の風雨にされされた結果なんですね。時間にさらされてこそほんまもんの色が出てくるのだと思います。社寺仏閣の最初は派手だった色が、経年変化で今のように黒光りする色になっていくのと同じです。

 景観条例で色が決められましたが、一概にその色が本来の京都の色とは言えないと思います。「くすんだ色」に、何かほのかに光沢がある色があるのが本来の色だったりするのでしょうが、その辺は統計には出てこない。しかし、統計に出ないからといって排除していくのもおかしいと思っています。

藤本

 コンピュータで色を扱うと、どうしてもその辺が問題になってくると思います。今日見て頂いたのはあくまでデジタル処理されたもので、本来の色とはまた違うものです。我われ人間が肉眼で見るものはそれこそ何億という色を捉えられるもので、コンピュータでは表せないつやとか深みも同時に見ることができるのです。

 ですから、実際には素材感もありますし、それぞれが個性を出していけると思います。デジタルで見るとごく狭い範囲でしか色彩を捉えることはできませんが、その範囲であっても個性は出していけると思います。

 それこそがいろんな文化を蓄積してきた京都が持っている技であったり、京都の景観の出し方だと思うのです。もしかしたら新しい町で、この京都の色彩の範囲を当てはめたら面白くない景観になってしまうかもしれません。でも、京都で作るこの色彩の範囲は、ものすごく深みがありつやがあり、それぞれが個性が出せる景観になっていくと考えています。

 今日お見せしたものはデジタル処理した色彩だからどうしてもみな同じに見えてしまいますが、実際にはもっと個性が出るものだとご理解いただけたらと思います。実際に求められる色は絶対に真っ赤でも真っ黄色でもないのです。

司会

 実際に家の壁に色を付けていくとき、ペンキ屋さんが色を調合して塗っていくのでしょうか。そもそも自然素材の色は限られて自由度が低いのでしょうか。その辺は現場でものづくりに携わっている清水さん、いかがですか。

清水

 素材によって、色の味わいは変わってきます。吸い込み方がそれぞれ違いますから。だから同じ色を塗っても違う色に見えてくることはあります。だからこそ我われは良い素材を使いたいと願っています。

 紅殻でも吸い込み方が違ってくることはあります。新しい家は木目が出てきたりします。まちづくりと言っても、住まわれているのはそれぞれの人間ですので、それぞれの個性や考え方の上でひとつひとつの家が建っていくんです。そこは作り方のこだわりとして出てくると思います。

吉田

 はんなりという言葉ですが、これは自分の家で使い込んでいろんな所がなじんで出てくる色がはんなりだと思っています。だから、はんなりした色を最初から作れというのはまず無理なことでしょう。歴史ある中でずっと使い込まれてきて出てくるものですから。

 紅殻を塗ったところでも、我われが日常でさわっていれば段々と剥げてきますよね。それはそれで全部綺麗に塗ってなくても、それぞれの家の歴史が出る色合いであればはんなりしていると言えるんじゃないでしょうか。

 あんまり、同じ色で綺麗にしてしまうのは面白くない色になってくるのではないかと思っています。

守屋(アーキトラスト・上杉建築研究所)

 景観の問題を語ると、どうしても色の問題も出てきますよね。私たち建築の設計をやっている立場から言いますと、伝建地区だと工法も限られているし色も制限されてきます。今回の姉小路はそうした伝建地区と違って、伝統的な古い家とそうじゃない家が混在しているところです。

 伝統的な町家を改修される場合は色というよりも素材を重視して、そこから色も自ずと出てきます。なぜ素材に拘るかと言うと、長い目で見て次に改修するときに同じやり方で直すと、建物の寿命が延びてくることがあると思います。まず、そうした改修で出てくる色を分析し、それをベースにそれ以外の新しい材料を、どうやって調和させていくかを考えるのが普段の私たちの仕事です。

 新しい材料の色を分析する上で、古い家(伝統的町並み)の色を分析し、新しいものも分析するというやり方は、とても意味があると思います。

 今日拝見した高松伸さんの建物だと、わりあいオレンジ系統のテラコッタみたいな素材も多用されていますが、ああいう建物を分析するとどうなるのかなという興味があります。

 また、先ほどから同じ色合いで統一すると町が単調な景観になってしまうのではないかというご指摘がありましたが、ヨーロッパなどではごく小さい看板だけが町並みとは違う色を使っていたりしています。だから、町並みから突出した色と言っても、ボリュームによっては調和する場合もあるのではないかということも検討していただければ、私たちにとってはありがたいと思います。

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