2。日本の都市は美しく整えうるか
テラスハウスの分布(出典:E.jones&C.woodward『A Guide to the Architecture of London』) |
これはテラスハウス全体の分布図ではなく、貴族が所有していた大規模な敷地のみをプロットしたものです。ですから、これ以外にもロンドンの街なかにはもっとたくさんのテラスハウスがあるのです。
こうした西欧の整った町並みは、実はそう大昔の建物ではなく、産業革命以降、とくに19世紀に作られたものがほとんどです。西欧ではイギリスの産業革命以降、ものすごい勢いで都市化が進みました。中庭型共同住宅やテラスハウスはその頃生まれたもので、敷地を集合化あるいは大規模化して開発されたのです。
つまり、近代的な都市開発事業として作られた住宅・都市建築の形なのです。それまでは、ロンドンやパリの街なかにも木造の一戸建てがたくさんあったのです。しかし、この時期に敷地単位の大規模な開発が進んでいき、結果として今見られるような一体的に建築される集合型都市建築が建ち並らび、西欧都市に町並みの秩序感をもたらすことになったのです。
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これは、土木畑の都市計画家セルダがバルセロナで行ったバルセロナの拡張計画による写真です。真ん中に見えるのがサグラダ・ファミリアです。それを取り巻いているのは、中庭型共同住宅の建物です。こうした建物で、大規模に都市拡張を行いました。これも、整った市街地が出来上がった例です。 私が面白いと思ったのは、祇園とアムステルダムの町並みの比較です。
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図はおなじスケールで町並みを比較しています。ご覧のようにアムステルダムの建物の間口はとても狭いものですが高さが祇園と違いますので、建築1件当たりの容積としては同じようなものになります。
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この図は敷地区分を調べたものですが、京都・祇園の場合は一つの建物は一つの敷地に一戸建てが建てられています。アムステルダムの敷地は、一つの敷地にいくつもの住宅が集まって一つの建物となっています(ただし、この敷地図を見ただけでは一戸建てか長屋なのか判別しがたい)。 平均間口は、祇園が7.0m、アムステルダムが5.0mになっています。
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この図はこれらの建物が生まれてきた経過を示しています。アムステルダムも、もともと18世紀までは一戸建てで建てられていて、建物と建物の間にはすき間があったわけです。しかし、その後は建物の境に共通の壁を立ち上げるようになりました。ロンドンの場合は同じ間口で同じタイプの建物が並んで長屋を構成するという形でしたが、アムステルダムの場合は、間口が違う建物が並んでいるけれど、その境目の壁は共有しているという点が面白いと思います。
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日本の場合は、小規模敷地の一戸建てのまま、その空間性を現在にいたるまで引きずってきています。
都市基盤の二層性 |
大通り沿いの町並みについては、近代的都市・建築制度にのっとって「洋風化」が進行していきました。ここでは、専門的な技術者集団が参画して、それなりの町並みが出来上がっていると思います。
一方、和風敷地エリアの場合は、専門的な技術者が入る場合もありますが、基本的には大工・地場工務店などがリードした町並みが出来上がっています。そこでは、敷地・建物関係の整合性が乏しいままきていると思います。専門的技術者集団が十分な知恵・創意の発揮を怠ってきたと私は思っていますが、そういうところを今こそきちんとしないといけないというのが私の意見です。和風敷地の中できちんとした建物のあり方を考えていくことで、まち通り型の町並みがもっと美しくなっていくのではないでしょうか。
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この図は、マンション化した敷地の間口(横軸)と奥行き(縦軸)のサイズをプロット化したものです。これを見ると、40%超のマンションが間口6〜10m、奥行き10〜40mの範囲内の敷地に設置されていることがわかります。
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先ほど見たようなすき間を空けつつ並ぶ戸建て建築群をこのまま放置しておいてよいものかと思います。現状では、デザイン的な検討が何もされていないのが大きな問題だと考えますし、こういうところこそ、「都市デザイン」が何とかしていかなければならないと考えます。
問題は、「和風」敷地に「洋風」のサイズとデザインを持つ建築をどのように納めるかということです。つまり、きちんとした「かけ算」の方法を見いだすことが必要になってくるのだろうと思います。
我われの街も今後、ロンドンやパリのように敷地を大規模化して集合建築化すべきだという意見もありますが、それはあったとしてもレアケースだろうと私は考えます。大規模な集合建築が必要とされた都市爆発の時代は終わっていますし、日本の街はこれからも「和風敷地」「小規模敷地性」を残していくだろうと予測しています。
ですから、この条件下できちんとした対応の仕方を考えるべきだろうと思います。
■あらためて「問題は何か」
マンション化した敷地を見ても、日本の街では和風の敷地を形を壊さずにずっと使い続けていることが分かります。小規模間口を特性とする「和風」敷地がずっと残ってきて、それが洋風とうまくフィットしてないことが現在の問題なのです。
■「小規模敷地性」は継続する
まずは、我われは小規模間口敷地を、洋風建築の敷地として使いこなすことの難しさを確認し直す必要があろうかと思います。現代都市のチグハグ感はこの作業を怠ってきた結果、生み出されてきたものですから。
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