まずは、日本の街が和風敷地のもとに蓄えてきたヒューマンスケールな文化空間をもっと見直してみることが必要じゃないかと思います。
いろんな検討すべき切り口はあろうかと思いますが、今回は小規模間口の店頭デザインを上げてみることにしました。内容はまち通り型町並みを特徴づける屋外広告物の掲示の仕方、小規模間口建築に固有の敷地利用策、まち通り型町並みの建築イメージと、その共有策などという話です。 3。ヒューマンスケールの文化空間としていくための若干のヒント
■ヒューマンスケールの都市デザイン
では、そのための何か良い方法はあるのかを最後に検討してみます。
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店頭の開き方を、開放型、中間型、閉鎖型の3つのタイプに分けてみました。格子を取り払った開放型がけっこう多くありました。中間型とは格子から中をのぞけるというもの、閉鎖型は開放型とは対極の出入口だけ開いているという形です。
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店頭の3つのタイプを大阪と京都で見てみると、大阪では4分の3の店が開放型の店頭デザインでした。京都では開放型は50%ぐらいです。なぜ、この差があるのかというと、京都の場合、染めや織りなど「作る」方の店が多く、通る人に開放してみせる必要のない職種がその当時はけっこう多かったことも関係していると思います。都市によって、お店の開け方が違うということも面白いことだと思います。
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さて、開放型の店の場合、通りからお店のいろんな物が見えます。大きな暖簾や看板があったり、暖簾にも半暖簾、水引暖簾などいろんな暖簾がありました。また、品物を飾るショウケース的なものがあったり、夜になると閉まってしまう「揚げ見世」などもあります。こういうものが街の景色を多様かつ変化のあるものにしていったわけです。
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看板類にも取っ手がついて動かせるものがあったようです。また、今でも京都で見られますが犬矢来もあります。いろんなタイプ、いろんな形の看板・小物類が店頭を飾っていたわけです。
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これは現代の大阪住まいのミュージアムにおける店頭展示です。ここでは、大阪の街の数十件の店頭をフルサイズで再現しています。1〜2ヶ月ごとに店頭のデザインを変えていますが、写真に見えるのは「誓文払い」と言って、年末の大売り出しの時に呉服屋さんが出してくるものです。なかなか面白い店頭デザインです。こういうものがリアルに再現されています。
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これは、西陣や堀川沿いで織りや染めを作っているお家、室町通りで販売を手がけているお店など、京都の染・織り関連の職の分布を示したものです。面白いのは、当時は染め織り関連だけでも町なかに広く分散していたのですね。職空間は、分散・拡散しつつ市街地を構成していたと言って良いでしょう。京都の歴史的市街地は、小さな職空間が連担する「ほどよい賑わい」の場所であったのです。
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この資料を見ていきますと、小規模な店舗が次々に繋がりながら、変化と華やぎのあるまち通りの景観を作っていたことが分かります。様々な業種の店舗が分散・拡散的に立地した市街地を構成し、小間口の店頭空間が連担して作り出す「ほどよい賑わい」を持つ都市空間のかたちがそこにあったとまとめられるだろうと思います。
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私が問題にしたいのは、旧市街地に広がるまち通りの屋外広告物についてですが、ここでは屋上広告物はほとんど見られません。狭い道からは屋上に広告を置いても見えないということでしょう。しかし、壁面から突き出している広告物は小さい物が数多く見られます。
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置き看板はどのタイプの通りでも見かけられました。
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広告板・広告塔は、新市街地の大通りに非常に多く見受けられますが、旧まち通りにも多く見られます。 このように、広告物と地域との関係をみると、それぞれはっきりした違いがあることが指摘できます。
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左は新市街地の大通りの広告塔です。自動車向きに大きいサイズになっています。右は旧市街地の大通りのビルの壁面から突き出し広告がずらっと並んでいる様子を示しています。
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まち通りに入ると、広告物はこのように小さくなっていく傾向にあります。色合いも黒地に白という感じで、まちとうまく溶け合う工夫がされていると私は思います。右下の写真の例などは、『魁』にあったような昔の店頭デザインが復元されているように見えます。
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まとめてみると、まち通りでは屋上広告物や壁面張出し広告物はわずかであり、中小サイズの壁面突き出し広告物の利用度が高いこと、小さな置き看板や広告板が多いということになるでしょうか。 屋外広告物を目のカタキにする人も多いのですが、写真の例を見ても、私はそんなに悪くないと思うのです。つまり、まち通りの屋外広告物はけっこう秩序感があると私は感じています。 また、まち通りの壁面突き出し広告物は、2階外壁部や屋根庇の下部に設置されることが多いようです。
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これは、新しい建物が立ち上がったときの軒下のイメージなのですが、このように庇の下に広告物が来てもそこそこまとまった景観になるのではないかと思っています。これは、私がこの本で描いた唯一の絵です。
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分棟化によって、中庭をはさむことで、いろんな用途に使うことができます。また、通り庭を生かすことで、奥行きの深さをうまく使いこなすことが出来るという提案でした。分棟型町家です。
ただし、一番の問題はゼロロット策で、これがなかなか難しいのです。幾つかの方法があるのですが、先ほど見たアムステルダムの例のように共有壁を持つ構造体づくりも考えられるかも知れません。また、外壁の組み立て方を変えるなど、もっといろんな工夫が考えられる必要があると思いますし、ゼロロット化の工夫をもっと考えていくべきだと思います。
しかし、いずれにしてもこれは近隣との協調ルールがないとうまくいかないと思われます。
■小規模間口建築の敷地利用
小規模間口建築の敷地利用・ゼロロット策と分棟化
これは、京都市が2007年に募集した「新・京デザイン提案」事業で入選した案です。大学院生と共同で応募したものです。ここでは奥行きが長い小規模間口をどう使うかについてゼロロット策と分棟化を提案しています。
■まち通り型町並みの建築的イメージ
まち通り型町並みもどんどん建物が建て変わっていますが、その建築的イメージを考えてみました。京都では大通り沿いは600〜800%の容積率ですが、まち通りでは容積率300〜400%、建物高さは新景観政策(2007年)により31mから15mになっています。そもそもこれだけの容積率が必要なのかという疑問もあって、次のイメージ案をつくってみることにしました(参照:『町家型集合住宅』)。
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そのモデル街区平面図です。40戸ほどの敷地があって、1〜19までの敷地を容積率200%、高さ15mで計画しました。地上階は店舗などを入れられるという条件設定をし、なおかつ人口をピーク時(1959年代)の1.5倍としました。
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これは、建築家の吉村篤一さんに描いていただいだ町並みイメージです。高さや容積率を15m・200%に抑えても設定した条件は十分クリアできるということになります。ですから、このような数値でも将来像として十分に妥当性のある地域像や町並みイメージを描きうるということです。
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これを地域の人々が共有する方策づくりが今後の課題となってくるでしょう。もちろん現行制度下では300〜400%で敷地を使いたいという人が出てくるのが普通の街の変わり方なのですが、そういう人をうまく説得できれば、200%でもちゃんとやっていけるんだという話になるのですが。私としては、300〜400%をもっと減らしてもらいたいという話をしていこうとしているところです。
以上のように考えてくると、まち通り型町並みに固有の建築・まちづくり制度があっても良いだろう。このことを申し上げたかったのです。
小規模間口×長大奥行きという使いづらそうな「和風敷地」ですが、それは現行制度が大規模敷地であるほどメリットがあるように組み立てられていることと関わっています。文化としての和風敷地という認識のもと、「和風敷地」の利用性を高めるための制度改訂を求めるなど、展開すべき策はあるはずです。
現状では、デザイン規制・景観規制の軸になる市街地の目標像がありません。あるとしても、きわめてあいまいにしか書かれていません。そういった中で「和風」がよく使用されたりしますが、さほど力のある論理を作り出せていません。
一方、都市空間の基調となる集合型・共同型の「都市建築」を新たに創出する機会は当分訪れないでしょう。つまりヨーロッパ的な集合化敷地の形で町並みを整えることはないだろうということです。
私は受け継いだ和風敷地が出発点だと考えています。和風敷地の中で洋風建築をていねいに納めるというストーリーを作っていくことしかないだろうと考えています。
我われは、小間口敷地・独立建築形式を継承してきたのですから、この特性をプラス方向に生かし、固有性豊かで魅力的な都市デザイン策を作り出すという視点を持つことを考えないといけないと思っています。
これで私の話を終わりたいと思います。
■むすび 「和」の都市デザイン
今回の私の著書では、美しい都市空間づくりのあり方を主題とし、「和風敷地」を使いこなすという与件のもとに都市空間を構想する作業が「和の都市デザイン」だと提案しました。
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