生物多様性をめざすまちづくり
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2 ニュージーランドの環境緑化

 

■エコロジカルなコミュニティづくり

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 美しいまちづくりという点では海外からの観光客をたくさん集め、ニュージーランドの都市政策は成功しました。しかし今、それとは違う新しい波が生まれつつあります。

 この写真をご覧ください。今度の本の表紙にも採用しましたが、右はクライストチャーチ市の中央広場に置かれたネイティブプランツを象徴する聖杯のオブジェです。クライストチャーチ市の伝統的な教会とモダンなオブジェが並んでいる様子が今のニュージーランドの新しい動きを伝えるのにちょうどいいと思いました。

 オブジェの一つ一つのパーツにはニュージーランド固有の植物の葉っぱが表されています。これからのまちづくりを象徴している広場だと思います。こういう伝統的なまちづくりから新しい発想のまちづくりへの転換というものを日本にも紹介したいと思いました。


■40年かけた河川の再生

 南島のクライストチャーチ市はニュージーランドの中でも一番観光的に有名で、ガーデンシティと呼ばれたりしています。そこには3つの河川が流れています。スティックス川、エイボン川、ピーコック川の3つで、中でもエイボン川は観光パンフにも必ず載っている美しい川です。その3つの川の支流を全部合わせると400キロ近くになりますが、その河川を護岸も含めて40年かけて改修することになりました。担当は市役所のPARK & WATER WAY(公園河川課)です。

 この改修の内容がまたすごくて、生物多様性、歴史や文化を基盤にした内容の計画を立てて、今それを実践しています。ここを紹介してくれた方は市役所のディレクターさんで、彼女が一生懸命この計画の推進をしてこられました。もちろん、改修事業には造園家や都市計画など専門家が行政と協力しながら計画作りをしています。しかし、この事業推進の主役になっているのは市民、地域社会なのです。


■市域を14ブロックに分割して市民参加

 計画はクライストチャーチ市の市域を14のブロックに分け、ひとつひとつのブロックにコミュニティ単位で協議の場を設けました。ある日、市役所から地元住民のもとに「河川の新しい価値を認めるための協議をしませんか」という手紙が届きます。それを知った市民が集まり、どんな街にしていくかというビジョンから協議が始まるのです。

 どんな議論かというと、例えば暗渠(あんきょ)になっている水路を掘り起こして水路に戻し、その護岸にもともと自生していた植物を植えていこうという内容です。また、地域のいろんな歴史、文化遺産なども話し合い、守っていこうということを協議していくのです。


■プロジェクトの進行

 スティックス川の湿地帯では、クライストチャーチの固有植物の苗を市民が共同で育成し、それを改修後の護岸に植えていく活動をずっと続けているそうです。そういう話を市役所のヘレマイヤーさんがしてくださいました。

 もともと最初のヨーロッパ移民は、川の排水において洪水や健康上の被害を最小限にすること、土地の開発利用を最大限にすることを重要視していました。これは日本でも同じことが行なわれていますよね。ですから、排水を目的としたデザインは、配管、ポンプの拠点と水路の敷設のみに重点が置かれました。しかし、今では360キロ以上のオープンな水路と40箇所以上の湿地が確保されています。

 また暗渠だったところを地上に出し、さらに護岸の改修を進めています。そうした改修では、生態系、景観、レクリエーション、歴史遺産、文化などの価値が優先され、最後に排水が位置づけられています。資源のマネジメントを賢く行い、水環境の持つ価値に敬意を払う、つまり地域社会が本来求めている環境を作っていこうというのが、この改修計画の主旨です。こうした計画を40年かけて実践していくのはすごいなと感心するところです。


■コミュニティで議論→実践

 こうした実践はコミュニティでの議論がもとになっています。議論を経て、プランティング・デイやワーキング・デイを設けてボランティアで集まって作業を行います。業者や専門家任せにせず、自分たちでやっていくという姿勢を持っているのですね。

 とても素敵な松林があるところがあるのですが、コミュニティではこれを切って元の姿に戻すかどうかを議論中だということを聞きました。そこまでやるかというのが私の正直な感想でしたが、実はこれもニュージーランドで進行中の議論の一つだそうです。

 河川改修に関しては住民の合意形成が必要です。例えばクライストチャーチ市には素晴らしいイングリッシュガーデンを兼ね備えた「はぐれパーク」と呼ばれる公園があるのですが、そこも今ある公園に本来の自生種をどう取り込むかが大きな課題になっているのです。今の市民の合意形成では、すでにあるヨーロッパ型の庭園は伝統としてきっちり守りましょう、ただ川の護岸に関しては自生種に変えていきましょうというところでバランスを取っているようです。

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