生物多様性をめざすまちづくり
左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

3 ガーデンシティの新しいランドスケープデザイン

 

■まちのガーデンコンテスト、歩いて楽しむガーデン賞!

 日本人を始め多くの旅行者を引きつけてきたニュージーランドのイングリッシュガーデン、コテージガーデンは、19世紀以来、市民がまちづくりの中で培ってきたものです。街を歩いていると、本当に市民の方々が庭造りを楽しみながら生活しているのが良く分かります。

 そうした美しい個人の庭を対象としたガーデンコンテストというのがあります。主催者はボランティアで運営されているクライストチャーチ美化協会というNGO団体です。この団体は百年以上の伝統があり、公園づくりのボランティアからまちづくり提案までも実践してきました。

 ところが、こうした町なかにも新しい波が押し寄せてきました。ここではそうした伝統と新しい動きがどう共存しているかを報告します。まずは、伝統的な美化協会を訪ねました。


■まちのガーデンコンテスト

 ガーデンコンテストでは、通りからもその美しさを楽しめる綺麗なガーデニングを表彰しています。その審査では、ボランティアで担当する地域を決め、車を出して全ての家の庭を眺めていくというやり方です。この催しは市役所も応援していて、NGOの催しとはいえ百年以上の歴史を持ち、市民にも伝統的な催しとして定着しています。

 クライストチャーチ美化協会の設立は1897年、まちの美化に関する書籍の出版や様々な地区の緑化に精力的に取り組んでいます。公園に噴水を寄贈するための寄付金集めなども行なっています。

 私は初めてニュージーランドに行ったとき、まず最初に美化協会を訪ねようと、その連絡先を調べました。ところが、まったく連絡先が分からない。結局、最後にたどり着いたのがまったくの個人のお家だったのです。美化協会は本当に個人が集まって出来た団体だったのですね。

 さすが美化協会の会長宅だけあって、お花が大好きな人にとっては本当に魅力的な理想のお宅でした。私なんかは維持管理がさぞ大変だろうと思ってしまったのですが、まるでカーペットのような美しい芝生が印象的でした。

 協会長さんの話によると、ガーデンコンテストでは「道路に開放している庭部門」「アパート部門」等の22の部門に分かれているそうです。

 「道路開放部門」のお庭では、自分の庭だけでなく道路側にも花を植えて美しくしています。


■新しい潮流 ネイティブプランツを活用するデザイナーたち

 ところで、設計に携わる人々の中にはこういう伝統的なヨーロッパスタイルの庭ではなくもうニュージーランドの固有の植物しか使わない、自生のものしか使わないと明言している人たちが何人も出てきました。

 その代表的な存在がジェレミー・ヘッドというランドスケープデザイナーで、自生種を活用したガーデンデザインを多数手がけています。

 ある個人宅のお庭ではクライストチャーチ自生のDNAを持つ植物を使っています。


■ジェレミーの言葉

 ジェレミーはまだ40代前の男性で、造園で有名なリンカーン大学を卒業後、イギリスのコンサルタント会社で修業時代を過ごし、ニュージーランドに帰ってからはオークランドの大きな事務所に勤めていたのですが、それに飽きたらずオリジナリティのデザインをしたいということで次に紹介するメーガンの事務所と連携してデザインの仕事をするようになりました。

 ジェレミーにヒアリングをした時、彼は次のように語っていました。

     
     ・僕は、自生種や、同時に土地がどのように我々の足下で形づくられてきたかというように地理にも興味を持っている(つまり、彼は地理や地形、地質に配慮したデザインを進めてきたということです)。
     ・これらは全て興味深い。現代の本を読むことや、土地に根ざしたランドスケープデザインを学ぶことも好きだ。
     ・特に気に入っているのはロベルト・マークス(ブラジルの造園家でモダニズムの最先端を行くデザイナーの一人です)。
     ・デザイナーとして僕は実際にどのような植物が生き残り、また脅威になるかなどを勉強して自分のデザインにどのように用いることが出来るかを知りたい。
     ・僕は自然を明晰にしたい、ただし、自然の物まねと言うよりは、明確にデザインした方法で(私は、彼がはっきりとしたコンセプトを持ったデザインをされているところが面白いと思いました)。
     ・僕には、自然は我々人間の考えるよりははるかに複雑で、自然を再生するということはとても不可能に思う。
 
 つまり、彼はアートと土地の歴史を融合させるような作家だと思います。


■メーガン・ライトの庭

 ジェレミー・ヘッドも新進気鋭の作家として注目されていますが、メーガン・ライトさんはさらに有名になりつつあります。彼女も循環や自生の植物を復元しながらデザインしています。

 先ほど鳴海先生が「なぜ都市デザインの中で生物多様性を考えないといけないのか」とおっしゃいましたが、新しいデザイナーたちは自生種を用いることで本来この地にあった生き物が帰ってくる、生き物が循環するピラミッド構図が再構築されることを目的としており、自生種緑化が大きな位置づけを占めているというわけです。

 メーガン・ライトさんはとてもデザインセンスのある方ですが、もともとはシルクスクリーン作家で、造園や都市計画の専門家ではありませんでした。ある時、造園会社でアルバイトをしていたときにこの仕事が面白いと目覚めたらしくて、社会人として大学で造園の勉強をし直しました。

 メーガン・ライトさんは1998年に個人事務所を設立した後、2003年に法人事務所Wraight Associates LTDを開設しています。ニュージーランドの専門家はとても小さな組織を持っていて一人でやっている専門家も多いのですが、彼女の事務所はその中でも大きな規模で20人あまりのスタッフがいます。WAはアーバンデザインとランドスケープを専門領域としており「グローバルな自然資源や社会的資源の持続性を目的としたマネジメントを主眼とする」と謳っています。

 私はある時、なぜこの国の専門家は小さな事務所なのですかと聞いたことがあるのですが、「みんな人の下で使われるのが嫌いだから」というジョーク混じりの答でした。もうひとつの理由としては、効率よくネットワークが組めて、プロジェクトごとに専門家がチームを組んで仕事をするという仕組みがあるようで、それも面白いと思った事でした。


■首都ウエリントンのワイタンギ公園

 ウエリントンの中心部にあるワイタンギ公園では、メーガンさんの主張通り、土地本来の固有種しか使っていません。草ぼうぼうの公園で、日本で作ったらすぐにクレームが出そうです。市民も最初見たときびっくりしたそうですが、植物が育つにつれ落ち着いた風景になり、今ではちゃんと市民の支持を得られているようです。繰り返しのデザインを使ったミニマリズムに通じるのかなと思える所もあるのですが、メーガン・ライトは様式を超えたデザインをしているという感じでした。

 もうひとつここで特徴的なことは、水が海に向かって循環して流れていくようになっていることです。この循環している水は雨水や都市から流れてくる水を利用しています。

 私も震災後に松本で「せせらぎの道」を作るお手伝いをしたことがありますが、雨水を利用することは汚染の問題がありますから、その辺をどう解決しているのかを話し合いました。松本の場合は雨水ではなく高度処理された下水を使っているので汚染の問題はないということを申し上げておきました。


■自生種を活用したデザイン 個人庭園

 公園のような公共施設だけでなく、若い世代を中心に「ニュージーランドのアイデンティティ」としての自生種を活用した個人庭園も増えてきました。

 もちろん、町なかでのこうしたお庭に抵抗を示す人々もいて、美化協会の会長夫妻などは「こういうものは色も寂しいし、良くない」と言っているのですが、造園の専門家ほど新しい動きを評価しています。

 私としてはどちらを否定するわけでもないのですが、こうした新しい波は止まらないのが実情です。歩いていてもこの前までチューリップを植えていたお庭がシダやヘゴ(木犀シダ)に覆われて緑のグラデーションを見せるというようなお庭が増えてきています。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ