生物多様性をめざすまちづくり
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4 環境省のブランチでは

 

 紹介した新しい考え方の流れを支えているのが、法律や制度、そして地域社会で考えていくという姿勢です。上の役所が決めたから従うという発想ではなく、地域の中で考えて決めるということを制度として作っていくことが面白いと思います。実際に苗を育てる甫壌も市民の手で作られています。

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 写真は、環境省(あるいは保全省the department of conservation)が全国各地に作っている支所(ブランチ)です。公園の管理や生き物の保全をしている省庁があるのですが、そこのブランチで自生の苗を育成したり、地域種の種を取ってきて育て、またそれを地域に返すという活動をしています。

 地域でその苗を植えるのは、市民グループや個人、NPO、行政、業者などいろんな人びとが協力しています。ここはそうした甫壌もあるし、啓発啓蒙もしているという場所です。さらにここではガイドラインの開発もしています。


■様々な方法で自然保護を推進

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 写真の人はサントスさんと言って、ニュージーランドではすごく有名な生態学者だとうかがいました。環境省に在籍する研究者であると同時に、甫壌でこんなふうに自生種を育成したり、種子の保存に努めたりと地道な活動も熱心にやっておられます。


■保全庁のスタッフ、サントス氏

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 このブランチでは「どんな風にあなたの庭を植栽していけばいいか」ということを市民に問いかけています。また、いろんな市民活動のポスターが貼られていて「私は河川改修の手伝いをした」という市民のメッセージ付きで、市民への啓発活動が行なわれています。

 写真の女性は、ダイアン・メンディさん。実は彼女は私に全てのエネルギーを与えてくださった方で、環境裁判所のコミッショナー(判事のアドバイザー)をしていらっしゃいます。

 元々は造園家で、つい最近までは世界的な造園家組織の会長さんをしていらっしゃいました。私をいろんな所に連れて行ってくれ、私がニュージーランドにのめり込み、本を書くきっかけになった恩人と言ってもいい存在です。彼女は4分の1マオリ族の血が入っていて、そのおかげでマオリ族のいろんな習俗にも詳しく、私もいろんな勉強もさせてもらいました。


■環境省によるモデルガーデンの展示

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 環境省によるモデルガーデンの展示も行なわれています。これを見ていると、家屋の近くでは従来のヨーロッパ型園芸種を植えてもいいとなっています。ただ、自然との隣接点(日本に喩えるなら裏山と敷地との境目というところでしょうか)や家屋から離れるところには、その土地本来の自生種を植えてくださいというお薦めの形が良く分かります。その自生種も地域で遺伝的な違いがありますから、それに対する啓発活動もガイドラインという形で行なわれています。


■自生種を守るガイドライン

 ジェレミー・ヘッドの相棒であるダイ・ルーカスさんがガイドラインとしてクライストチャーチ市の4分の1ぐらいのエリアを生態系によって区分した図を作っています。

 「こういう植物がおすすめです」という部分は緑や黄緑で色分けして、分かりやすく市民に啓蒙しています。そのお薦めの植物は、保全省のブランチや自生種を扱う業者さんに行けば手に入ることも書かれています。

 余談ですが、日本では自生種を扱う業者さんがいませんよね。淡路で自生種で緑地を作ろうとして、業者さんに淡路産の桜が欲しいと頼んだのですが、九州のものしかないと言われてやはりダメでした。どうしても欲しいなら山に入って採ってくると言い出したので、それは自然破壊になるからと止めたのですが。ですから日本で、自生種の緑地を作ろうとするなら、やはり行政がそれを担保して業者さんに「これだけのストックを作って欲しい」と言わないとだめですね。

 このガイドラインでもうひとつみなさんにお伝えしたいのは、実はこれは全ての地区にあるわけではなく、また行政が作ったわけでもないことです。

 今、日本でも生物多様性の重要性が叫ばれ、植物の遺伝的区分も分けています。大まかには環境省が認定して、国家政策として出しています。しかし、それが実践に使えるかと言うといささか疑問です。例えば生態学の研究者に「これをどこまで植えたらいいのか」と聞くと、分からないという答が返ってくるでしょう。淡路でも北と南で植物の遺伝的な形態が違うとしたら、ちゃんとDNAを検査しないと手を付けられないというのですね。それが今の現状です。しかし、そんなこと言っていたら、いつまで経っても実践にはいたらないと思うのです。

 このクライストチャーチ市のガイドラインが優れていると思うのは、生態学者が作成した物ではなくて、生態学者が作った植物の区分図を元に、ランドスケープデザイナーが作ったという点です。つまり、計画をする人が計画用に作り直したものなのです。なので、ひょっとしたら完璧ではないかもしれないし、10年後にはラインが変わるかもしれません。だけど、「これを薦める」として市民に提示するんですよね。作成者はダイ・ルーカスというランドスケープデザイナーの名前で出されています。市役所もこれを参考にします。ダイ・ルーカスはクライストチャーチ市以外にも、ロトールアなど幾つかの都市でガイドラインを作成しています。

 つまり、「使えるところから使っていこう」という姿勢なのです。もっと進んだ生態系の区分図が出来たときには、そちらに乗り換えるということも可能です。そういうフレキシビリティがあることが、ここのガイドラインの大きな特徴だと思います。例えば、このガイドラインがクライストチャーチ市役所の名前で出されていたとすれば、多分市役所としては「間違っているかもしれない」ものを市民に提示することに抵抗があったのではないでしょうか。だけど、専門家の作ったガイドラインを専門家の名前で出しています。そういうやり方をしていかないと、次の新しいことには進めないと思います。こういうやり方は、日本も取り入れたらいいのにと思います。

 生態学者は非常に緻密な区分図を作りましたが、ダイ・ルーカスはさらにそれを計画に使えるようにしました。これは一般市民が庭づくりをするときにも使えます。

 ダイ・ルーカスは生態系区分だけでなくて、地質・地形の区分図も作成しています。それは国土全部を網羅しているわけではありませんが、「使えるところから使っていける」という状態までは持っていっていると言えます。

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