梅田北ヤード2期のグリーンパーク構想
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「都市の庭」の提案内容

 

■計画とデザイン

 計画対象地はこの図の着色部分です。この右上の部分だけは高層住宅ゾーンとなっており、ここだけが地上に建設される建築です。その他の部分は、100%オープンスペースにしたわけです。

 先ほど我われにとって緑のオープンスペースとはどういう存在かと言いましたが、私たちはそこを(1)「交流空間」としての都市の庭、(2)「環境価値」を高める都市の庭として存在すると考えました。

1期と2期をつなげる大骨格
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図8 自然の中のカフェ
 
 例えば、この写真のように屋外カフェがあって、そこから広がる水面や緑が見え、遠くに梅田の街が広がっている。こういう自然環境が街の中心にあってほしいのですが、実際この空間を具体化するには、一等地のゆえにマネージメント上大変難しい。そこで我われは全ての建築部分を半地下にしたわけです。地上の波打つ緑の丘の下に営業収益が見込まれる企業パビリオンや商業施設を持ってこようと思いました。

交流を生み出す企業パビリオンと前庭
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図9 部分断面図
 
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図10 各階建築床面積図
 
 特に半地下の企業パビリオン空間では、国際交流の場を作るということを意識しました。例えば、断面図(図9)の左に1期と2期をつなぐ緑の歩道があるのですが、歩道右の緑の丘の下に企業のパビリオンが入り、緑の丘の上は全て公共利用のオープンスペースとして提供されます。各階建築床面積図(図10)のブルーの部分は全て、店舗ないしは企業床です。これで高層住宅床を入れて約2.7ha(200%)が確保されています。

地中庭園
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図11 地中庭園平面図
 
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図12 地中庭園
 
 図11は私たちが提案した「地中庭園」です。1層階下がっていく芝生の斜面広場でイベントの場所にも使えます。また、非常時には、密集市街地での防災空間としても使えるようにしました。いざ大地震や大火災が起こった場合、人々が脱出でき避難できる場所となります。ここは、延焼防止機能も持ち、公園下の企業パビリオン施設と一体的に整備されて避難困難者が生じないことを目標にしています。

北大阪駅と直結する賑わい施設
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図13 全体断面図
 
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図14 緑に囲まれた賑わいの広場
 
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図15 バス・タクシー乗降場
 
 もうひとつ挙げておきたいことは、北大阪駅がこの図13の右下のように地下に来る予定です。人々が地下プラットフォームから地上に出ると緑に囲まれた商業と賑わいの広場が待っています(図14)。都市の庭の商業施設と賑わいの広場が、このように、地上と地下で大阪駅前北広場の商業施設とつながる提案です。

 バス乗降場、タクシー乗降場は地下プラットフォームから上がった緑の丘の中に立体的に組み込まれています。こすれば、駅前広場がバスとタクシーの群れで混雑するみじめな都市景観を無くすことが出来るでしょう。

アートプロムナード
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図16 アートプロムナード
 
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図17 都心で野外アートと出会える
 
 図16と図17は丘の上のアートプロムナードのイメージです。例えば企業がこの緑の下の企業パビリオン施設を所有する場合には、企業CIとして、地上の野外ギャラリーを運営し、多くの人々が訪れる場所になるのではと思うのです。

人々のアクティビティを誘発する「波打つ緑の丘」
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図18 1期側歩道から見た波打つ緑の丘
 
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図19 波打つ緑の丘俯瞰図
 
 1期側の歩道から見ると波打つ緑の丘の下には企業パビリオン施設が入り、大阪独自の中小企業を含めた先端技術の展示と、国際的商談交流が生まれる商活動の場になります。


■都市の庭の風景

 これらがどのように人々に使われるかを想像してみましょう。例えばアジアからのビジネスマン、OLや家族連れが来るというケースをそれぞれ考えました。

アジアからのビジネスマンの場合
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図20 ビジネスができる駅前企業パビリオン
 
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図21 駅を出ると見える観光バス・タクシー発着ターミナル
 
 ビジネスマンの場合、緑の丘の下の企業パビリオン(図20)を巡ってビジネスができます。現在、日本に仕事で来る外国人でアジアからは中国、韓国が一番多く、次に中近東、ヨーロッパとなっています。特に多いのは中国人、韓国人です。

 大阪駅前に企業パビリオンがあれば、海外とのビジネス交流ができる場所になります。

 その上にアートの点在する庭があれば、仕事の合間に安らぎの時間を持つこともできます。また、図21のように、駅を出ると、京都や奈良観光のためのバス・タクシー発着ターミナルがあることで、ビジネス客が集まる国際観光客拠点にもなるでしょう。

OLの場合
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図22 駅前地下の商業施設
 
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図23 夜も安全な公園
 
 では、OLの場合はどんな風景が展開されるか。例えば、会社帰りに駅前の商業施設で買い物をするケースを考えました。そのための施設がしっかり、駅前空間に埋まっているわけです。また上は夜も安全な公園を作っておくと、仕事帰りの人々のためのジョギングコースができるんじゃないかとも思います。

家族連れの場合
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図24 家族で楽しめる野外イベントの場
 
 最後に家族連れはどのように利用できるでしょうか。現在の北ヤード1期では、家族連れはビルの中のカフェや商業施設、高層階のレストラン街を上下に散策となります。しかし、この都市の庭では野外でのイベントとかを豊かな緑の中で楽しむことができます。桜の咲く季節には、人気の観光スポットになるでしょう。


■維持管理を「民有公共」方式で。 住みたくなる街にするために

 このように、緑の中で過ごしたい家族連れ、OLがやってくる、企業パビリオンに海外からビジネスマンが来る。これが私たちの提案のイメージですが、最も提案したいことは、このグリーンパークをどのように利用し、維持管理していくかということです。

 先ほど言いましたように、ここでは、行政に全ての維持管理を任せるのではなく、民間企業や市民が公共空間の維持管理に参画するエリア・マネージメント方式を提案したいのです。このエリア・マネージメントという考え方は、わが国でも全国各地で様々な成果が生み出されつつあります。

 だけど、この場所の一番の問題点は「人が住まない場所」ということです。都心再生という言葉は確かによく言われます。しかし、そこでの問題は人が住まない街をどう再生し、管理するのかということが考えられていません。グリーンパークの企業ビルの延べ床面積を大きく広げるだけで、本当に都心の再生になるのか。決してならないでしょう。これまでの失敗がよく語っています。

 その解決策として、地権者の民間企業が主体的に費用負担し、地表部の公共オープンスペースを維持管理する民有公共方式を提案します。

 この方式では、この土地を所有した民間企業も、ここを利用している就業者も、地表部の緑のオープンスペースの維持管理に責任を持って参加することになります。その維持管理行為そのものが、企業のCI活動となり、営業利益にはね返ってくることがねらいです。そうした関係性を具体的に目に見えるものにできれば、グリーンパークがいくら広大でも、マネージメントは可能となる、というのが私たちの提案です。

 最後に申し上げたいことがあります。3.11以降、私自身は大きな被害を受けた宮城県の南三陸町に行き、復興計画の提案活動をしているのですが、被災を受けた人々に対して街をどう再生していくかという話し合いをするとき、今回のプロジェクトと大きく違うのは、南三陸町は人が住んでいる場所だということです。ですから再生する際にも、まちづくり協議会のような組織が出来ていればちゃんとディスカッションが出来るんです。ところが、北ヤードは人が住んでいない。ディスカッションする対象がいないのです。誰と話し合えばいいのか。

 そういうとき、例えば市長に任せるというより、やはり経済同友会などの民間企業を先導するグループが強いリーダーシップを取り、その具体化に向けてのビジョンを提案しないと、グリーンパークは、実現できないと私は思っています。

 南三陸町や陸前高田などの被災地で、一番大きな問題はまちづくりのビジョンがあるかどうかということです。まちづくりビジョンがあるところは、みんな頑張って街の再生に向かって進んでいけるのですが、ビジョンがないところは、防潮堤だ、嵩上げ地盤だ、高台移転だと復興予算が出やすいインフラ整備の話ばっかりです。そういう話しか出ないところでは、毎月百人単位で住民が街から離れ、内陸部に移っていっています。なぜなら重装備のインフラ整備しかできない街は、将来への夢が描けないから住みたくなくなるのです。これを、放っておくとどうなるかは、目に見えています。ゴーストタウンです。

 大阪市も本当に魅力のある街にするには何が必要か、住みたくなる街なのかどうか、そういうビジョンをしっかり持っていないと、ゴーストタウン化していくだろうと思います。

 それを回避するためにも、2期という次のステップで、明確なビジョンを持つべきだと思います。以上です。

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