ニューヨーク、ボストンの都市デザイン最新事情報告
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ハイライン/ニューヨーク

 

■ハイラインについて

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 最後にハイラインで具体的にどういうものを見たかを紹介します。

 ハイラインは、ニューヨークのハドソン川沿いに高架鉄道が走っていた所の一部、2.3kmを緑道、プロムナード化したところです。

 ここは三つに分かれていて、最初のフェーズ1は2009年に開業しています。我われが行った時には、12ストリートから30ストリートまで整備されていていました。全体的には、ジャヴィッツ・コンベンション・センターまで延長される計画です。

 最後の区間はまだ鉄道会社がそこの所有権を持っていますが、基本的にはニューヨーク市が所有権を購入していく予定です。

 どういうものかを一言で言うと、高架鉄道をただ緑道に変えてプロムナード化しただけというものなのですが、これが今すごい人気なんです。今やマンハッタンの観光スポットとなっています。


■緑道化への経緯

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 この高架鉄道は既に1960年頃にはすでに廃線になっていて、雑草が生い茂るだけの場所になっていました。ただ一部の市民には、そこがワイルドな自然があるマンハッタンということで知られていたらしいのですが、それでも知る人ぞ知るという感じで、客観的には見捨てられた所でした。そもそもハドソン川沿いという場所が一般市民には魅力的ではないと思われていた所でした。

 その後、1999年に「フレンド・オブ・ハイライン」というNPOが設立され、ここを保全し、公共空間として活用しようという運動が積極的に行われるようになりました。その背景には、ミート・パッキング・ディストリクト辺りで市場が廃止になった後、ハイラインを再開発しようという動きがあったため、住民がハイラインを保全しようと立ち上がったわけです。

 ブルームバーグ市長がそうした運動を支持したことも、ハイライン緑道化への成功の大きな要因だったと思います。ブルームバーグ市長はブロードウエイの歩行者天国化を進めた人でもあり、公共空間を豊かにする政策に力を入れていたのですが、このハイラインもそうした政策の一つにしたのです。2004年には、ハイラインを公共空間として整備するための予算として約50億円を確保しました。

 その結果、ハイラインが一般市民に公開されたのは2009年6月8日で、12ストリートから20ストリートまでの8ブロックが開かれました。第2フェーズが公開されたのは2011年6月8日で、ここは20ストリートから30ストリートまでが開かれています。我われが訪れたのは2011年の7月ですから、公開後すぐに行ってみたわけで、旬のものが見られたなあと思っています。

 ここのデザインはすべてコンペで決められています。ランドスケープアーキテクチャーはジェームス・コーナー・フィールド・オペレーション、建築家はディラー・スコフィディオ+レンフロ、造園家はピエット・オウドルフが担当しています。ランドスケープアーキテクチャーと造園家を別々にコンペで選んでいるということに、僕なんかは面白いなと思ったところです。

長町
 これは造園家というより、プランツ担当という立場の人じゃないでしょうか。

服部
 そうです、植物を選ぶ人がランドスケープアーキテクチャー以外にもいたんですよね。それが僕にはちょっと面白く感じました。


■ハイラインのポイント

 ポイントと言っても極めて私の主観的な観点ですが、いくつかみなさまにご提案したいと思います。

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(1)「歩行者が主人公になれる空間の創出」
 ここはスケートボードやローラースケートで走ってはいけない空間なんです。自転車もダメです。車いすは大丈夫ですが、基本的に歩行者が歩く空間にしています。ですから本当にプロムナードに過ぎないんですが、背景がマンハッタンだといい雰囲気なんですね。

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(2)「座れてリラックスできるスペースの提供」
 先ほどニューヨーカーは座るところが好きという指摘が角野先生からありましたが、実際ここも座るスペースがいっぱいあります。日本の公共空間には座れるスペースがないから、もしかしたら一杯作ったら日本人も座るのが好きかもしれないなと思ったりしました。座れてリラックスできる空間を公共空間に作るなんて贅沢だなという気もしますが、ちょうどこのスペースからハドソン川が望めるんです。建物で言うと3階建てぐらいの高さで、その視座からハドソン川を楽しめる空間は今までなかったんじゃないかと思いますし、そういう意味では新しい視座を提供したこともポイントだと思います。

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(3)「控えめでいてセンスのあるサイン計画」
 サイン計画もなんか良い感じでしたね。

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(4)「記憶の継承」
 また鉄道の廃線後に作られた緑道ということで、線路を生かしたような空間もあります。昔ここに線路が走っていて、工業地帯だったという記憶も残そうとしています。

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(5)「暗い夜の演出」
 素人が見ても、この暗い夜の演出はうまいなと思ったのでポイントとしてあげました。

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(6)「派手なアクセントをつけた演出」
 こうした光の分野に関しては長町さんに後で報告して頂きましょう。

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(7)「新しい都市の視座の提供」
 道路の上をまたぐ時に、こういうアンフィシアターみたいなスペースを作っているんですね。しかしここに舞台があるわけじゃなくて、見えるのは自動車だけなんです。でもこういう視座って他にないもんですから、ポイントとしてあげました。日本は比較的歩道橋が多いから、そういう点では恵まれていますよね。もちろん、これは皮肉ですが。あとここからエンパイヤーステートビルやクライスラービルが見えたりします。僕はこういう視点でこれらのビルを見たことがなかったから、とても新鮮に感じました。

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(8)「ニューヨークの工業地帯の再発見」
 昔ここが工業地帯だったものですから、そうした歴史も発見できるようにされています。今までここはことに観光客が足を踏み入れようとは思わない場所だったからこそ、ここにプロムナードを作ると新しいニューヨークの再発見が出来るという効果があります。本当は新しくないんだけど、今まで知らなかったニューヨークの一面が見えてきます。

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(9)「マンハッタンで自然を感じさせるデザイン」
 この視点も今まで知らなかったニューヨークの一面ですよね。マンハッタンという都会の真ん中で、ハドソン川や植生の自然の豊かさを感じることができます。この植生も自生の植物を選んでいます。専門家をコンペで選ぶぐらいですから、このへんはこだわりがあるなと思いました。歩いているとよく分かりますね。だから、植栽は派手さとか目を引くものはないのですが、逆に本来のマンハッタンはこうだったのだなと理解させてくれるような感じで、そういう植物の選び方がされているようです。

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(10)「パブリック・アートの導入」
 ハイラインは1.6kmの距離をただ歩くだけなんですが、その中にそうしたパブリック・アートがちょこちょこ置かれています。歩く楽しみを付加させてくれる、そういう効果があると思います。

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(11)「レジャー的要素の付加」
 先ほどブライアントパークの報告で角野先生が「各NPOがそれぞれのエリアを担当している」とおっしゃっていましたが、ここでもNPOがメンテナンスをしています。「フレンド・オブ・ハイライン」が運営していて、「付加価値を付ける」メンテナンスを行っているようです。基幹的なサービスはニューヨーク市が担当していますが、+α的な部分はNPOが担当しているようです。

 もちろんNPOの活動費は寄付で賄われることが多いのですが、ハイラインで屋台とかカフェを運営することでも活動費を得ています。その屋台やカフェを出す権利をNPOが年間で売っていくというシステムです。こうしたライセンスフィーで、ハイラインに付加価値的な魅力を付けるための資金を獲得しているということです。

 もちろん、ここを訪れる人にとっても、こうしたカフェがあることで楽しみが増しますから、こうしたことも公共空間の価値を高めるために寄与していると思いますね。

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(12)「周辺との開発との連動」
 ここは我われが行った「ミート・パッキング・ディストリクト」の飲み屋です。特にこのあたりは、ハイラインが近接していることで、地区の魅力を高めているという工夫もされていると思います。


■ハイラインの成果

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 データ的なことを申し上げますと、基本的にハイラインはニューヨーク市が所有しているものです。管轄は公園・レクリエーション部です。鉄道会社から市に寄付されるという形になっています。30ストリートから34ストリートまでは、今でも鉄道会社が所有しています。

 NPOの「フレンド・オブ・ハイライン」はハイラインに特別な価値を与えるために事業に参画しています。維持管理費はけっこう高いのですが、その管理費の70%はNPOが供出しています。ハイラインの維持管理の責任者でもあります。これは市と契約を結んでいます。だからブライアントパークやユニオンスクエアのように、行政では資金的に難しい部分をNPOにアウトソーシングしているのがニューヨーク市の特徴と言えると思います。

 ハイラインの成果についてですが、数字を挙げるとフェーズ1が開かれて最初の10ヶ月で200万人が来訪しました。セクション2は15日で20万人が来訪しました。ただ我われが行った時はカウントされてなかったと思うんですよ。どうやってこういう数字を出したのかなとは、私は疑問でしたが、一応こういう数字が公表されていることを紹介します。この数字はNPO「フレンド・オブ・ハイライン」によるものです。

 また、周辺地域の再開発を促していることも成果に挙げられます。2009年時点では30カ所以上が再開発されたということで、周辺地価は相当上がっています。特にコンドミニアムなどは、開発されると売れていくようです。

 あと、ハイラインは「低い犯罪率」もうたわれています。昔マンハッタンはベトナム戦争まではJ. Jacobsが住んでいた所で、「誰もいない公園は危険」という有名な言葉を残していますが、それを逆手に取ってハイラインはどんどん人に来てもらう所にしようとしています。大勢の人がいることで犯罪率が低くなるというポリシーを持っています。

 それから、ハイラインに再開発のニーズが出てきた時、ここは壊そうという意見もありました。しかし、結果的には壊してしまうより公園として整備した方が安上がりだったということもあり、これも成果の一つだと言われています。

 こういうことから、ハイラインは成功だったと言われています。


■世界中に広がるハイライン的プロジェクト

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 こうした成功を受けて、すでにこの模倣事例がいくつか出始めています。ハイラインに先行した事例として、パリのプロムナード・プランテがあります。

 模倣事例としては、セント・ルイス、フィラデルフィア、ジャージー・シティ、シカゴ、ロッテルダム、チューリッヒがあります。

 私もこの10月にチューリッヒに行ったら、貨物線の跡地を緑地にしたハイラインもどきがもう出来ていました。でもハイラインのように人気はなくて、淋しい場所でした。だからハイラインのようなものを作れば人がいっぱい来るわけではないのが面白いところです。

 東京でも今、下北沢の小田急の地下化の上をハイラインみたいな所にしようと画策していて、「グリーン・ライン」という名前で運動している人たちがいます。でも形だけ同じにして、ハイラインみたいに成功するわけではないという気がします。

 ですから、ハイラインでは何が成功の要因であったかを知ることは大事なのではないかと思います。

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