ニューヨーク、ボストンの都市デザイン最新事情報告
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光のマスタープラン

 

■エリアを作るあかり

 ここからは照明デザインのジャンルにおけるとても大切なポイントをみなさんにお伝えしたいと思います。二つあって、ひとつは「光のマスタープラン」です。この9月に国際的な照明デザイナーの会合がアメリカでありました。私も行ってきましたが、そこではたくさんの報告がありましたが、光のマスタープラン作りがやっと世界各国で始まったということが印象に残りました。つまり照明そのものがエリアのアイデンティティとか都市の魅力を作っていくということがまちづくりの基本になってきているのです。

 今回のツアーでは、マスタープランがあったわけではないですが明らかに都市デザインの操作に光の力を見ることが出来るので、その二つの事例を見て頂きたいと思います。


■ウイリアムズ・バーグ

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73,74 WILLIAMS BURG, NEW YORK
 
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75,76 WILLIAMS BURG, NEW YORK
 
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77,78 WILLIAMS BURG, NEW YORK
 
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79,80 WILLIAMS BURG, NEW YORK
 
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81,82 WILLIAMS BURG, NEW YORK
 
 事例のひとつ目はウイリアムズ・バーグです。ここは、ジェントリフィケーションが進んでいると言いつつも、一番若者がたくさんいるスノッブな安いバー、倉庫を改装したようなカフェや飲み屋があって賑わっている場所です。そしてそこが淘汰されていくんじゃないかというのが、今心配な状態な訳です。

 大阪で言うと福島とか中崎町などの感じかなと私は本当にわくわくしまして、訪ねました。建物自身に質感がありますし、ライティングは当然ハロゲン系の電球色かネオン、つまり飲食店を中心にしたエリアらしい感じになっている町でした。おじちゃんとおばちゃんが来たらどこに入れるのか迷ってしまうような雰囲気が漂っているわけです。

 この街では照明は明らかにサインとして働いていました。ここはバーであるとかレストランであるとか、そういう雰囲気を出していました。こうしたサインはリノベーションの建物で本当に効果を発揮するもので、それがあるだけで元々ガレージだった所が飲み屋さんになっているんだなと分かるようになっています。リノベーションの建物で効果を発揮するのもライティングの力だし、明らかにエリアの魅力というのもあります。

 今、世界の都市は都市間競争になっていて、国同士の競争ではなく「どこの町が素敵か」という所の競争になっています。大阪にも「大阪都構想」が出ていて、大阪で勝負しようとしていますよね。そうした時には、その都市が魅力的なエリアをもっているかどうかが勝負の決め手になると思います。ニューヨークにはマンハッタンだけじゃなくて、ウイリアムズ・バーグにこんな素敵なエリアがあります。それが旅行の計画を立てる時に、もう一泊いたいと人に思わせるきっかけになっていると思うんですよ。

 そういう意味でもエリアの顔を作っていくことは大事です。商業のエリアも、それにふさわしい顔作りをして大事にしていかないといけません。


■ビーコン・ヒル

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83,84 Beacon HILL, Boston
 
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86,87 Beacon HILL, Boston
 
 もうひとつの事例は、ボストンのビーコン・ヒルです。ここはガス灯で彩られている町です。ここは元々都市デザイン的には非常に注目されるエリアで、地域の方々が建物や街路の修景に対して非常に強い立場を取っています。行政に対して「もの申す」という体制を持っているということです。

 私が感動しましたのは、もちろんガス灯そのものの素敵さもありますが、ガス灯に見合った個人個人のお家の明かりの様子なんです。この風景に似合うような明かりがひとつひとつ選ばれていて、窓から洩れる明かりもノイジーな感じはしない。住んでいる方々の教養や文化度の高さを感じて、非常に感動したのを覚えています。

 この街について、服部先生に少し町の概要を補足説明して頂ければありがたいのですが…。

服部
 この街については東大の西村先生がよく調べられているのですが、いわゆるアメリカの歴史地区の修景事例のひとつとしてよく紹介されています。アメリカの歴史地区保全運動の中で、一つの嚆矢になった事例です。

 照明も前からガス灯だったわけじゃなくて、ある時点でガス灯に置き換えられているはずです。

 この地区にはチャールストリートというメインストリートの商店街があるのですが、そこの意匠の色の規制が厳しいことで知られています。ここのスターバックス、セブンイレブンなど店舗はカラーロゴが撤回させられました。マクドナルドもおなじみの赤と黄色のコーポレイトカラーを使わないで、ビーコン・ヒルに適した色の店舗にしなさいと指導されました。こんなところでしょうか。

 確か、学芸出版社から出された本に、ここの地区の詳しい紹介が掲載されていたはずなので、興味のある方はそちらを参照して下さい。

長町
 服部先生、ありがとうございました。

 このように、エリアの特徴を持って面的に都市の明かりが考えられていることに私は大変感激致しまして、そういうマスタープランが日本でも作られたらなと思った次第です。

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89 Battery Park City & Financial District
 
 これは、金融街のバッテリーパークシティです。グランドゼロの跡地を工事している所ですが、ほぼ完成しています。写真90は田口さんがお持ち下さった新聞で、90年代に計画発表されています。新聞に見える一番左のデザイン・コンドはもう完成されていました。とてもお洒落なビルで、素敵な家族がいっぱい住んでいるような場所ができているということなので、みんなで行ってみました。

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91,92 Battery Park City & Financial District昼間の光景
 
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93,94 Battery Park City & Financial District夜の光景
 
 まず、昼間にみんなで行って、建築やランドスケープの様子を観察致しました。私はこのクラスのレベルの空間だと、ずっと川沿いに種類の違う公園が設営されているのではないかと考えていました。例えばハーバーがあったり、ランニングロードがあり、ちょっとしたグリーンの公園があるだろうし、そこは絶対夜景を見たいものだと思っていたんです。それで夜にみんながバーに行こうとした時、ここだけは一人行動をすることにしてもう一度ここへ戻って夜景を撮ろうとしたのです。

 また、ここにはアイルランド人の慰霊碑のような建築物があり、昼間はガラス張りの建物が夜にはどんな風に変わるのかを見たくて夜に戻ってきたかったわけです。そして、夜にもう一度行きましたら、やはり美しい照明が施され、光の帯ひとつひとつにメッセージが刻まれていて、私はやっぱり戻ってよかったとほくそ笑むわけでした。

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103,104嵐
 
 しかし、「私だけがこの写真を撮ってやったぜい!」とよこしまな気持ちが出てきたせいか、その後はいきなり嵐になって何も取れなくなってしまいました。写真103のようにみるみるうちに黒雲が空を覆い、大雨になって先ほどの公園も撮れなくなって、何のための一人行動だったのかと悔しい思いをしてしまったのです。

 それはさておき、バッテリーパークのような大型のものも含め、まだ紹介したい事例がございますので、もう少しお付き合いください。


■シンガポール・リバーエリアのマスターイメージ

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107商業エリア 108住宅エリア
 
 マスタープランは今世界で照明の専門家が取り組んでいるところです。例えば、非常に有名なのは、面出薫さんが取り組んでいるシンガポールのマスタープランです。これは川沿いのエリアのマスターイメージです。それぞれのエリアごとに照明コンセプトが違っていて、商業エリアはこうであるべきだとガイドラインを作っています。


■大阪での取り組み

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111中之島エリアのマスターイメージ 112堂島大橋コンペ時の提案書(抜粋)
 
 大阪でも、コンサルティングに面出さんが入って「光のまちづくり委員会」としてマスタープランをつくりました。大きなエリアのコンセプトがあって、それを下敷きに個別の計画を行うイメージなのですが、なかなか皆さんにその価値が伝わっていません。先ほどお話しした堂島大橋は中之島エリアのマスターイメージの中でコンペが行われた橋で、コンペがあったからマスターイメージの文言を受けながら私達が「個のデザイン」を行うことが出来たのです。写真112はその時の提案書で、各橋とエリアと新しく提案するものの位置づけマップです。

 ですから、エリアごとのイメージはまだまだ出来てなくて、大阪は中之島の川沿いをやろうとしていますが、この後、南の方の商業地はどうするかなどいろんなことを考えていかなくてはいけません。今はマスタープランを作っていくことが、大阪の取り組みのひとつの流れです。


■神戸での取り組み

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114 夜間景観実施計画 対象ゾーン 115 旧居留地地区
 
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116,118フラワーロード
 
 神戸も頑張ろうとしています。夜間計画実施計画には専門家として私も入っていますが、こういう風にエリアごとにグループ分けをして、今その整理をしているところです。これは新しく整備をするだけではなくて、エリアによっては今あるものを活かしていこうともしています。例えば、旧居留地などではお店の明かりを付けてもらって、夜も散策しやすい空間にしていこうと地域に働きかけていくことを考えています。これはまだ決定していることではありませんが。エリアを面的に捉えていこうと、今一生懸命取り組んでいるところです。

 フラワーロードは実施設計をやっています。写真116は現状のフラワーロードですが、ここを本来あるべき姿に華やかさを持って展開していきたいと考えています。「フラワー」という名前が示すように、植物にフォーカスして樹木と花に注目していこうと思っています。色温度を下げてLED化し、省エネをしながら都市の魅力を高めていく、そんなプランを立てているところです。写真118の左と右が「光プランのない時」「ある時」を示したものです。夜に植物に対して光を入れていくと、これだけ都市の魅力が際だつのです。すでにある物の魅力を引き出そうというプランです。

 そう考えると、照明は新しく作る都市から「再発見・魅力持続の都市デザイン」ということに本当に貢献できるものです。ニューヨークやボストンの事例を見ていても、すでにある物語の編集と魅力の強化に寄与できると感じました。

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119フラワーロード
 
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