バルセロナ旧市街の再生
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オリンピックの都市整備とその後

 

■まずは、市街地と海をつなぐ

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 オリンピック整備事業で、バルセロナの海岸線の大部分が整備されました。かつてはどうだったかというところからお話ししたいと思います。

 1986年にオリンピックのバルセロナ開催が決定しました。ここから6年後の開催に向けて、大々的に都市再開発が動いていきます。開催が決まった翌年、1987年に「新都心政策」として、どこを整備してオリンピック関連施設を埋め込むかというプランニングが決定されます(図33)。

 オリンピック関連事業の中でも、その後の市民生活の質の向上に特に寄与したのが海岸線の整備でした。元々は港と旧市街が幹線道路で分断されていたのを、道路を半地下にし、市街地側と港をつなぐルートを作って、海辺にアクセスしやすい構造にしました。


■オリンピック村

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 続いて、オリンピック村の建設です。実はオリンピック村の整備対象地区の状況は惨憺たるもので、もともと工業地域でしたので土壌汚染と水質汚染がひどかった。それに加えて、現在ビーチになっているあたりは、当時は工場関連の倉庫等の施設が建ち並んで不法占拠状態となっていました(図34)。これの意味するところは、オリンピック事業が完了するまでバルセロナ市民は、地中海都市でありながら地元の海で泳げなかったということです。泳ぎたいならバルセロナの外に行かなければなりませんでした。ですから、バルセロナはオリンピックをうまく利用して、市民共通の財産としての水辺空間を回復することを決断した、ということが言えます(図35)。

 それに加えて、海岸線には鉄道や高速道路が通されていましたので、物理的にも海と遮断されている状況にありました。そこで取られた手法は、空間を遮断していたインフラはとにかく埋めて、海との連続性を確保する、というやり方でした。


■旧工業地帯の再生事例

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 旧工業地帯の再生の取り組み事例です。これについてはポイントだけ述べます。かなり失敗も多い示唆的な事例だとも思います。再開発の対象地は古くからの漁村を核に、近代以降「カタルーニャのマンチェスター」と呼ばれたぐらい製造業で賑わって、数多くの工場が建てられていましたが、1980年代以降すっかり衰退して、多くの工業建築群が放置され廃墟状態におかれていました。

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 そこで市は1990年代後半から、この一帯を最先端のIT集積地にする計画を立てます。この計画案が出た頃は、創造都市論の出現と符合します。

 この計画は22@と呼ばれています。22aとは、もともとのマスタープランにおける工業地域のゾーニングコードでした。aを@にすることで現代的な産業構造に転換していくというメッセージを込めています。IT関連の用途を「アクティビティ@」と位置づけて、それ関連の施設整備を行う場合、容積を割り増すというインセンティブを設定しています。たとえば、アクティビティ@と関連づける場合は50%の割り増し、社会住宅を併せて整備する場合は30%の割り増し等々の内容で、最大で320%までのボーナスを付与しました。

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 古い工場群を活かした再整備はなかなかよいのですが(図39)、街区レベルの再開発となると、かなり大胆な案が多く出てきました。

 図40はメインストリートに沿った所の再開発ですが、一見するとアーバンデザイン的には非常に教科書的なボキャブラリーに溢れています。トラムも走っていますし、広い歩道もあり、通り景観を構成するのは現代的な建築です。しかし、写真で分かるように、とにかく生活感と賑わいに欠ける。残念ながら、少なくとも私は、特に積極的な理由がない限り、そんなに行くことのないエリアです。地元でもけっこう意見は割れています。今後、どのように空間をマネジメントしていくかが厳しく問われることになると思います。市はかなり前から都市計画局をこの通り沿いに移転させ、現場に根ざした運営を考えてはいますが。

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 ただ、その一角は非常にうまくいっています(図41、42)。と言うのは、ここに工場建築を活かしてポンペイファブラ大学のキャンパスを誘致したのです。大学という存在はバルセロナにおいては常に重要な役割を持っていまして、こういう新たな再開発の時にはキャンパスなり学生寮なり、大学関連施設を入れるということをしています。大学があると学生がその界隈に来ますので、平日には一定の人の流れができます。それを当てにした飲食店も増えますので、特にこうした工場街の再整備の時には大学の果たしうる役割は非常に大きいものがあります。こうしたキャンパスには部外者でも中に入れますし、建築として見ても面白い(図42)ですので、機会があれば行かれると面白いのではないかと思います。

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