バルセロナ旧市街の再生
左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

消費の対象となる公共空間:都市プロモーションの狭間で

 

■都市の魅力を重層化する コミュニティ・サイクル「bicing」の導入

 バルセロナは公共空間をどのように整備するかを命題にこの2、30年間動いてきたのですが、おかげでバルセロナは非常に有名になり、かつ住みたい街、企業が立地したい街として知られるようになりました。ですから、地価はどんどん上昇し、人口も増えてきています。そうした中、貧富の差が徐々に明白になっていて、先ほど言った「旧市街は移民などいろんな人が共存しているから面白い」という雰囲気がなくなりつつあると思います。

 ここでは、いくつか都市の魅力を重層的にもっと上げていこうとする取り組みをいくつか紹介しようと思います。

画像abe49
48
 
 すでにご存知の方も多いかと思いますが、実はバルセロナはパリに先駆けて自転車のシステムを取り入れた都市でもあるのです。レンタサイクルではなくコミュニティサイクルなので、残念ながら観光客は乗れませんが、バルセロナの空の色に合う赤と白の自転車と、自転車停留所、つまりポートがまちなかの公共空間の至る所に設置されています。新たに整備される公共空間には、必ずと言ってよいくらい、ポートが配置されています。自転車が行動の起点になることを想定しながら、置いているのです。

画像abe50
49
 
 ただ、住民の自転車の動きには偏りがありますので、ポートからポートへ自転車を移動さえることに多大なコストがかかっており、それが問題となっています。バルセロナは山側から海に向かって緩やかな坂になっていますから、みんな海に自転車で行って、家に帰る時は自転車を置いて地下鉄やバスで帰ることが多いのだと思います。置かれた自転車を山際のポートに戻すのが資金的に大変だと担当者は言っていました。

 この自転車システムは「bicing」と呼ぶのですが、「bcn」はバルセロナの空港コードでもあり、それを強調した色使いになっています。また、自転車ポートはかなりの短いスパンで置かれています(図49)。


■BARCELONA BATEGA! キャンペーン

画像abe51
50
 
 これは、街路景観を構成する「バナー」を用いた、都市から市民へのメッセージの発信事例です。シビックプライド研究会の伊藤香織さんや武田重昭さんたちのグループが書籍で紹介していますね。街を彩るバナーをからめて、市民のシビックプライド、つまり住んでいることの誇りを刺激するような取り組みをバルセロナ市は積極的に展開しています(図50)。余談ですが、こうしたバナーを素材として、様々なプロダクトがつくられています。De manoとかVahoとかが代表的なブランドです。今日、資料を入れてきたこのカバンも、まさに街灯からぶら下がっていたバナーからできています。キャンペーン期間が過ぎたらアーティスト達にバナーを安価で提供し、アーティスト達はそれを使って、こういう世の中に一つしかない作品を作っていくのです。街をひとつ身につけているような感覚にもなるんですね。

 また、バルセロナの親密感を表し、市民のプライドを刺激するような映像を作り、テレビ番組の合間に流したりしています。Sempre Bとか、Visca Barcelonaといったキャンペーンがそれです。後者の映像では、市民や俳優にバルセロナの魅力、例えば「海に開いたまち」だとか「モダニズム建築に溢れたまち」とかを話してもらい、その後、それぞれが「○○(地区や界隈)が大好きだ!」Visca!(万歳!)という形で叫んでいます。色々な声を集めた後、出演者がそれぞれにVisca Barcelona、すなわちバルセロナ万歳!と叫ぶ、というものです。もちろん演技かもしれませんが、本当にみんながそれぞれの方法でバルセロナを愛していること、そしてバルセロナがそのように愛されうる都市であることが伝わってきます。

 こういうプロモーションをどんどん展開していきましたから、住んでいる人もプライドを持つし、外にいる人はバルセロナに住みたくなるという循環ができていきました。さきほど紹介したVisca Barcelonaと同じような都市プロモーションの企画で、Barcelona, El millor botiga del monというのもあります。様々な生活のシーンが存在し、生活の質の高い都市であることを指して「世界のベストショップ、バルセロナ」と表現しているものです。


■ジェントリフィケーション問題

画像abe52
51
 
 そういうことで、ジェントリフィケーションの問題も出てきました。地価が上がって、元々の住人が住み続けらず結果的に界隈から追い出される問題が発生していたり、移民の中でも格差問題が出てきました。実は移民の中で成功した人達はスペイン語も上手ですから、職が得やすい。その一方、スペイン人だけど職が得られないという人もいる。いろんなモザイク状で人種間の対立や社会層の対立も少しずつ出てきている状況です。移民との共生問題も大きな課題です。例えばラバル地区の居住環境じたいは改善しましたが、きれいになったところと半分がスラム状態のようなまだまだ整備が遅れている場所がいまだに残っています。依然として売春やドラッグの問題も地区に根ざしたままです。そしてそうした場所や職業に少なからぬ移民が関わっている現状があります。

 ですから、昔のように公共空間を整備したから全体の生活が良くなったという方向ではないんですね。かつてはどのような地区でも公共空間そのものが欠乏していましたので、空間を産み落とすこと自体に大きな意味があったのですが。現在では、逆に公共空間を整備すればするほど、それがジェントリフィケーションを後押しする構造にもなってしまっているのです。成功した都市であるがゆえの次のステップに、今のバルセロナはいるのだと思います。

 断片的ではありますが、いろんなエピソードを盛り込んでバルセロナの都市再生について報告致しました。いくつかのエピソードが頭に残るようであればうれしく思います。ではこれで僕の話を終わります。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ