行政や商工会議所との関係 |
これからのまちづくりは「終わりのない仕事」とおっしゃっいました。しかし、まち医者の仕事の中で、プランを作ることがあれば役所としても発注しやすいのですが、それ以外はどうやって評価するのだろうかと思いました。どうやって動かしていこうかという部分は評価がしにくく、発注する方としても、それがいくらになるのか分からない。例えば、こっちのプランナーは10万円だけど、あちらのプランナーは50万だ、100万だというふうになりかねないとも感じました。それについては、どうお考えでしょうか。
泉:
発注者されたお金でプログラムを動かすだけになってしまうと、お金が切れた時にプログラムも終わってしまうということになります。終わりのない仕事という意味では、それでは困るので、プランニングする時にいろんな主体とお金を一緒に入れることを心がけています。それぞれが関わるメリットを持てるようにすると、人もお金も出しやすい。
そういう状況があると、進めていくなかで、私たちが関わらなくなっても地域の人たちが継続して進められる状況になります。それが一番いい進め方だと思います。
今まででしたらプランを作って終わりというのが通常でしたが、関わる人たち自身が主体的に動き出すようになり社会的にも共感を得られるようになると、他からどんどんお金を付けてもらえるということが結構あります。
動き出してみて、それが回る状況を作っていくのが大切で、これまでプランを作る力が100必要だったとすれば、これからはプランを作るのは30〜40ぐらいにしておいて、残り力を実際に回す方にかけた方がいいと考えています。小さく回れば、次のプランをまた作ればいいですね。
田中:
地域に住む人間にしてみれば、それほどのお金を出す必要があるのかと思うところが正直あると思うんです。こういうプランに対してはこれぐらいの評価をするという基準があればいいんですが、まだそういう基準がないでしょう。それはどうやって解決していけばいいのかと思います。
泉:
確かにまだ基準はないですよね。こういう地域のマネジメントの仕事が、まだ社会的に定着してないということもあるのですね。
田中:
そうです、そうした社会的認知のためにも評価の基準はあるべきじゃないでしょうか。
泉:
そうですね、今ではモノを作るよりもマネジメントが大切だと言われるようになりました。建物や施設の維持管理に関しては、以前から建物の資産価値を高めるための専門性や仕事があります。私たちがやっていることはそのまち版だと考えてもらうと分かりやすいと思います。まち版は単体の建物と比較して複雑で、必要とされる知識やノウハウがありますので、今はそれを実践して評価を得て基準をつくる段階だと思っています。
まちづくり会社やBIDはまだ少ないですが、今はそのトライアルの時期だと思います。そのようなものをもっと小さいまちでもどんどん取り入れ、今無駄に使われているお金を削り投入したら、もっと全体的にうまく回るということがあるんじゃないでしょうか。トータルでみると我々の仕事にフィーが発生しますが、まち全体からすると安くすんでいるということが言えたらいいのではと思います。
司会(前田):
おそらく、基準の前に成果が積まれるべきなんでしょうね。しかも、その成果は「泉さんがいてくれたからだよね」とみんなが言ってくれる、という状況が出てきて、「泉さん一人じゃ無理だから他の人にも仕事を頼もう」というふうに、泉さん的プランナーがいっぱい必要とされる状況にならないと仕事は広がっていかないだろうと思います。
お医者さんでも目に見えるような治療、手術とか薬だったら保険点数が付いてお金になるけど、「こうすれば良いですよ」というアドバイスだけではお金にならないという話があります。患者さんにとっても、国にとっても、病気になってから手術してもらったり、薬をもらってお金を払うより、病気にならないアドバイスにお金を払ったほうが良いのですが、そんなものにお金を払う気になかなかならい。それと同じ状況だと思います。
だからまずは小さくても成果を見せている泉さんたちの仕事は貴重だと思いますし、志と先見の明がある行政などの人が支えることが必要です。
今日のお話で、中心市街地再生の事例で高松と下関の話がありました。その中で、行政や商工会議所が何をしたのかというエピソードがなかったような気がします。泉さんのこれまでのご経験から、行政あるいは商工会議所はこういう役割を果たすべきだとか、彼らは今回こういうことをしてくれたというエピソードはございますでしょうか。
泉:
両方の事例とも、主なクライアントは商工会議所でした。商工会議所は、中心市街地活性化に関わる民間事業者の先導を担う役割は大きいと思います。本来、商店街の活性化が商工会議所に課せられた課題なので、我々が取り組んだ市民ネットワークを作ることは組織内部の賛同を得られないことが多いんです。しかし、高松の場合、市民は生活者、企業、行政の個人のネットワークで、やる気のある人が動かないと物事が動かないと判断したうえで、大きな方針転換をしたわけです。それが次の多様なプロジェクトにつながったので、商工会議所の果たす役割というのは本当に大きいと思う次第です。
市については、すべてのプロジェクトに関係しているのですが、例えば高松4町パティオのプロジェクトは、広場をつくる際に、市の多様な部署の担当者が許認可や電力会社との交渉、管理に関わる官民の役割分担、地区計画の都市計画決定や条例化などの融通を効かしてくれたおかげで実現したという経緯もあります。まちラボには肩書きは持ち込まないルールでしたが、実際は国・県・市の人も個人として参加していました。まちラボで面白いなと思う提案やプロジェクトを職場に持ち帰って、政策に反映させるということもありました。個人として参加しながら、組織をうまく利用できたのは良かったことかなとも思います。
篠原:
それは個人として優秀だったからという話になるんでしょうか。行政としてはなかなかやってくれないことを、個人の立場でやってくれることも多いように感じているのですが。
泉:
行政の人でも民間人と同じく、どういう人が面白い人か、優秀な人かを探して、そういう人に参加して下さいという個人を通してつながる方法もあると思います。今、下関で行政が頑張ろうとしているのは、関係する多くの庁内部署の調整体制づくり、許認可を含めた民間事業の支援体制づくり、いいアイディアをオーソライズして公的に位置づけるなどのことです。そういうことは、組織としての行政でしかできないことだと思います。