JUDI関西・96年都市環境デザインセミナー
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戸建ての共同化

環境整備センター 石関雍夫

復興事業化センターとは

 石関です。

   

 今、 司会の小浦さんから環境整備センターの石関というふうに紹介いただいたのですが、 皆さんのお手元にある本山中町2丁目地区優良建築物等整備事業についてというプリントには復興事業化センターの石関というふうに書いております。

   

 そもそもは名前が違っているところが私どもの取り組みの出発点です。

いつもは環境整備センターとして仕事をしているのですが、 週に2日ほど復興事業化センターというところのコーディネーターに立場が変わります。

   

 十何カ月か前に地震があった後、 コンサルタントとして何かお役にたてないかということで、 何が問題かということの研究を5人ぐらいで大阪で始めました。

その結果、 とにかく被災者の皆さんにワンパックで問題を持ちこんで来ていただいら、 それに対して、 お金の問題も、 法律の問題も、 税制の相談も、 あるいは計画の立案・設計・工事まで、 最後は管理にいたるまでワンパックで答えられるような、 そういう組織化ができないものかという結論を出しました。

その結果、 コンサル5社が中心になりまして、 法律事務所とか住宅デベロッパー、 ゼネコン等のいろんな方々の支援を得まして、 復興事業化センターという株式会社をつくったわけです。

   

 本当は協同組合にしたっかたのですが、 協同組合にするには1年くらいかかってしまい、 株式会社なら1カ月もあればつくれるということで復興事業化センターという会社をつくりまして、 被災者のもろもろの相談を受けるということにしたわけです。

   

 そのときにまず当面の取り組みとして私たちが目指しましたものは、 都市計画事業区域外で困ってらっしゃる方々が多いだろうと、 そういうお困りになっている方々の相談にのることが一番大切だということです。

都市計画事業区域内については行政を中心として、 コンサルもしっかり張り付いていらっしゃるので、 我々はむしろ外側にはじかれた、 枠に取りこまれていない皆さんの相談にのれるようにと考えたわけです。

   

 主たる事業手法と致しましては、 優良建築物等整備事業という手法がもっとも地元の皆さんにとって有効ではないかと考えております。

これらは補助範囲も広く、 補助率が通常の2/3から4/5に上げられております。

   

 たとえばマンションの建替えの場合に既に打たれてある杭の徐却に費用がかかるということです。

これにはどこでも事業計画上難渋しているわけですが、 それについても補助が出ます。

高い補助率を受けているところでは工事費の30%弱ぐらいの補助があるという状況です。

これは優建と関西では呼んでいるわけですが、 その優建制度を活用しながらやっていこうという取り組みを開始しています。

   

 平成7年度で6件が補助金交付の内定を受けているわけですが、 そのうち今日は本山中町というところの例に絞ってお話をしたいと思います。

   

本山中町地区の概説

 本山中町というのは、 摂津本山駅の近くで国道2号線に面したところです(図1「施行地区位置図」(41K gif))。

   

 ここは新用途地域となっています。

従来は2種住専だったわけですが、 2月13日の告示で防火地域で近隣商業となりました。

容積率は従前、 従後共に300%です。

   

 2号線から言いますと後ろ側にあたるところに長屋がありました。

これは文化住宅です。

これも戸建てというよりミニ開発であったわけです。

これが全壊しました。

図2「施行地区の写真」(15K gif)が95年の年末の現状図ですが、 ここの一画は老朽化していたということもあって全壊しました。

隣接地はまだ形状を残しています。

   

 写真の右中央に1つありますのは結局最後には区域除外をせざるを得なかった家です。

ここにミニ開発が建っています。

このミニ開発は敷地規模50m2足らずという規模です。

皆さんなぜこれが共同化できなかったのかということをお考えになると思います。

右手前は当時仮設で営業なさっていたところです。

   

 ここでの共同化の一番最初の動機は図3「画地整理番号設定図」(7K Gif)の1番、 2番を同じ地主の方が持っていたということです。

借地人はそれぞれいらっしゃるのですが、 1番、 2番という大きな部分が同じ地主さんであったということです。

北東の角の3、 4、 5番の地主さんは全部別々です。

   

 面積は1番が400m2ぐらい、 2番が700m2ぐらい、 3、 4、 5番は小さくて50m2弱です。

これが我々が事業区域としたところです。

そこに借地権者がいて、 転借地権者や借家権者がいるという複雑な関係です。

   

共同化のきっかけ

 始まりは1番の長屋にいた方々が長屋建をしたいということで、 計画を地主さんのところに持ちこまれたことです。

鉄骨長屋3階建で、 これでひとつ建てさせてくれないかという相談におみえになったわけです。

それに対して地主さんは「これはひどい」と感じられました。

震災前、 住宅にも住環境にもかなり問題があって、 同じような物を造るのではご先祖様に申し訳ない、 地主としてとにかくいい住宅をこの際造りたい、 と考えられました。

   

 土地を手放すということを非常に不名誉なことだというのが本山地区の地主さんたちの一般的なお考えのようですが、 この地主さんは、 とにかく良い住宅環境を造ると、 そのために土地を手放してでも、 ということを決心なさったわけです。

   

 最初は1番の長屋の方々の行動から起こったわけですが、 この2番の土地も実は同じ方の所有でしてたので、 2番の方々にも呼びかけて、 それから北東角にあります小さな敷地の長屋の方々にも呼びかけをなさったわけです。

   

 この地主さんの土地の借地、 借家人については説得に成功したのですが、 北の方の2軒はそれぞれでやりますということでした。

   

 そこであとの4軒に焦点を絞って私どもはお話を進めたわけですが、 結局一番南の端の方の土地がすでに不動産屋さんに渡っていました。

その不動産屋さんからの同意が得られないということで先ほどのような形状になってしまったわけです。

   

 先ほど紹介しましたように間口6mで、 奥行き8m近い、 建ぺい率がオーバーしているらしいミニ開発ができています。

   

計画の概要

 さて国道2号線に面しておりますので、 面したところに高層住宅を集約することにしましたが、 2号線の交通量が非常に多く1階には非住宅を入れることにしています。

2階から上を住宅にします。

計画に参加していただけずに取り残された家の北には駐車場を設置しました。

この駐車場はこの隣接地との関係から平面駐車場にし、 奥のほうはそういう配慮が無用ですから、 3層の機械式の駐車場としています。

   

 42戸に対して駐車台数が38台で、 1戸に対して1台は実現しておりません。

容積につきましては、 2号線沿いに片寄せしてフルに使うということで、 高さ36.7mで12階建になっています(図4「基本計画図(検討中の図面)」(42K gif))。

これは検討中の図面ですが、 容積率が299.79%とギリギリまでとっています。

   

 とにかく大きい住戸をしっかりとっていこうと考え、 ファミリータイプの住宅を入れています。

それから零細権利者がいらっしゃいますので、 その零細権利者の方々の住戸として若干小規模なものをとりたいということで、 57.5m2のものを各階に1戸設けました。

これは北に面していますので通常ですと嫌われるわけですけども、 零細権利者向け住戸として、 想定しています(図5「零細権利者向け住戸として57.5m2のものを各階に1戸設けた」(42K gif))。

   

共同化について

 このような建替えの計画は、 共同化という点からみますと、 すでに密集した長屋建ミニ開発、 あるいは文化住宅が、 高層住宅に共同化されるというただそれだけのことです。

しかし事業としてはたくさんのハードルがありました。

   

 借地、 借家人の生活再建の願いをたばねて強いリーダーシップと実践的な行動指針を持つ地主さんが共同化を推進したという点が特徴的です。

地主さんが地域に対する責任感が非常に強い方だということ、 それから銀行の支店長を永らくなさっていて、 権利関係のさまざまな問題について、 非常に的確で実践的な判断をなさる方でしたので、 私どももその地主さんとの協調体勢のもとで共同化のお手伝いをしたしだいです。

   

 1214.8m2という小さな敷地なんですが、 権利者は合計19人いらっしゃいます。

そのうち、 土地所有者が4人、 地上権者(借地権者)が11人、 借家権者が4人です。

等価交換方式で事業化を進めていますが、 この19人のうち転出は借家権者の2人だけでした(図6「土地の権利関係」(9K gif))。

   

 図7「共同建替による事業化の進め方」(36K gif)のフローチャートに経緯を簡単にまとめていますが、 先ほど言いましたように借地・借家人の鉄骨3階建長屋計画に地主が同意せず、 周辺環境に調和する良好なビル建設を決意なさったわけですが、 かつてサラリーマン時代にビル建設についてもいろいろタッチをされたことがあるものですから、 まず、 県の公社に相談にいかれたそうです。

しかし、 県の公社が手いっぱいということで、 私ども復興事業化センターにヒアリングにおみえになりました。

   

 私どもは住宅デベロッパーさんの導入をはじめとしてワンパック方式での事業推進をさせていただきたいと説明しました。

たとえばゼネコンさんの指名権限はデベロッパーが持つということです。

みなさんにご相談は致しますけども指名の権限はデベロッパーに渡してしまいましょうということも冒頭で確認をして、 事業推進の依頼書を受け取っております。

   

 隣接宅地との共同化を目指しましたが、 同意は3/6宅地にとどまったことは先ほど説明したとおりでございます。

   

 民間デベロッパーについては、 私どもに支援を申し出ていただいているところから10社ぐらいにあたたりましたところ、 数社ぜひやりたいとういうところがございました。

条件など比較しまして、 地元の協議会のみなさんとのご相談のもとで1社に絞りこみました。

そしてそこと地元さらに復興事業化センターとで事業化協定を結び事業を進めています。

   

 実は当初私たちが予定していたよりも早い時期、 95年の秋に協定を結びました。

それは平成7年度の優良建築物等整備事業補助採択を受けないかという声が行政からかかったからです。

それを受けるために当初予定した平成8年度を繰り上げスピードアップして手順を踏みました。

デベロッパーもそういう関係で急遽決定しまして、 11月段階で設計に入っております。

95年1月16日付で補助金交付の決定をいただいています。

   

計画の特徴

 特徴としましては、 敷地形状が決して十分に良いと言えるものではなかったことが挙げられます。

事業区域がイコール同意形成の区域にとどまっており、 参加されなかった3戸、 特に一戸の敷地のミニ開発に問題があります。

   

 それから、 国道沿いのタワー状の高層住宅という形にまとめたことが挙げられます。

これについては当初7、 8階建で建ぺい率80%ぐらいで検討した時もあったのですが、 もう少し空地率の高いものにしようということからこういう形に変わっております。

   

 次に地主と権利者との信頼関係が非常に強かったということがあります。

これは節目節目で地主さんがみなさんと協議を重ね合意をつくられた成果で、 厳しい事業の側面をのりこえる関係権利者相互の信頼関係ができていったということです。

   

 それからあえて付け加えると本来の全部譲渡型の等価交換方式はとれていません。

住宅デベロッパーとしては、 事業主というよりも再開発における保留床住宅の買い受けのような考え方をお持ちになっていて、 そういう点ではまだ十分な体制にはなっていないと思います。

   

 事業は権利者の優遇につとめて権利者価格を一般分譲価格に比べて低く設定しましたので、 大半の権利者が残留をされました。

その結果、 一般分譲が42戸中19戸と非常に小さくなってしまいました。

住宅デベロッパーさんとしては多少不本意じゃなかったかと思います。

   

 最後に優良建築物等整備事業の適用という点が挙げられます。

補助率はマンション建替えの場合だと30%近い場合もあるようですが、 ここの場合は17%程度ですが、 事業の大切な成功ポイントでした。

   

課題

 第1は課題をもつ権利者の対応です。

たとえば抵当権の抹消です。

当初の段階では大きな課題でした。

他の事業で扱いに困っている例を聞いています。

   

 第2は事業主体型住宅デベロッパー、 復興支援金融機構の導入を課題に上げたいと思います。

住宅デベロッパーとしては基本的には一般分譲の床を買い取るという、 再開発で言いますと参加組合員的な考え方になりますが、 事業としては本来の等価交換の事業主を期待しています。

   

 本格的な住宅デベロッパーというものが出てくれない場合には復興支援金融機構というようなものがいるのではないだろうかと考えています。

   

 それから今回国道2号線に面している1階に非住宅施設の導入を行なっているわけですが、 周辺の市街地にまだ人口が帰ってきておりませんので、 未成熟な段階で商業床を供給するということになります。

5年先10年先では当然商業地となるべき土地であるわけですけれども、 現在では昼夜間人口が少ないために商業床としての処分がきわめて困難です。

それを5年から10年の間どういうふうに運営していくかということが残され、 今事業化を目前にしていて未解決の問題の1つになっています。

これが第3の課題でしょう。

   

 というわけで共同化という視点から話すようにと鳴海先生の方からお話があったわけですが、 私のほうは共同化という行為を通じての復興なのですが、 むしろ零細な権利者が大地主のリードに従って建替えにもっていった状況と結果について簡単にコメントさせていただきました。

   

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